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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
ロスト
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

 目に突き刺さりそうな眩しい朝の光に、手を翳して遮る。とても寝返りを打つ気になれない。

 昨夜、若林くんと一夜を過ごした。何ヶ月も迷い、ためらって決めたことに、若林くんは喜んでくれた。
「嬉しいぜ、岬。でも無理はするなよ」
「…大丈夫だよ。もう決めたから」
目を開けていられない程、胸がドキドキして苦しい。
「岬」
いつも名前を呼ばれる度に、胸のどこかでさざ波が立つ。強い波にさらわれて、僕は自分を見失う。
「離さないで」
知らないところまで流されそうで怖い。差し出された手に、縋るように手を伸ばした。

 記憶は途中で途切れている。そして気がつくと朝だった。裸のままの身体を起こす。あれだけ痛かったことが嘘のように痛みは退いていて、結局最後までは至らなかったのだと悟る。

 若林くんは、僕のすぐ側でまだ眠っていた。起こさないように静かに動いて、薄い掛け布団を身体に巻き付けると、横向きだと余計シャープに見える顔を覗き込んだ。

 こんなに辛そうな顔をさせるつもりはなかった。

 昨夜は、ほとんど顔なんて見られなかった。泣きそうになるのを我慢して、自分の顔を見られないように覆った。痛いのと苦しいのと、気持ち良いのと嬉しいのと、入り混じってぐちゃぐちゃになった顔を、見られたくはなかった。
 悲鳴にしかならないことも、ひどく辛くて、自分の口を塞いだ。
 どうしても堪えられず、途中で意識を手放した時、ここに来る時に見た花のことを何故か思い出していた。花屋で見た花の赤が、目に沁みるようで、きれいだけど怖くて目が離せなかった。
「買ってやろうか?」
尋ねた若林くんに、小さく首を振った。
「花は要らないよ。持って帰れないから」
すぐに枯れてしまう花が哀しくて、貰わなかった赤い花が、目の奥に広がるようだった。

 その印象が強くて、昨夜のことは、分からない。熱に灼かれて、無我夢中だった。

 決心をした時には、怖くて仕方なかった。それでも、それが自分に示せる愛だと思っていた。引き裂かれる覚悟はできていた。
 それなのに、いざという時に僕は意識を失った。

「…起きたのか?」
若林くんはゆっくりとまぶたを持ち上げ、何度か瞬きをした後、目を開けた。
「うん」
頭が働いているとは言えない。昨日のことは思い出せない。こんなに好きなのに、最後まで耐え切れなかった。
「大丈夫か?」
もう痛みはない。けだるい体を起こして、若林くんを見下ろす。若林くんは顔を上げ、僕を一瞥してから、視線を外した。
「僕は大丈夫」
むしろ、目を合わせてもらえない方が辛い。僕はゆっくりと若林くんに顔を寄せた。あと少しで唇が触れる距離で、僕は若林くんの頬に手を当てた。
「…怒ってる?」
「何をだ」
いや、怒っている。いくら隠されても、若林くんの表情を読み取るのは慣れている。
「…僕にじゃないんだね」
一瞬目を伏せた若林くんが、自分自身に対して憤っているのは明らかだった。
「無理をさせて、悪かったな」
本来、受け入れるようには創られていない体で、若林くんに愛されようとした。性急に割り込まれた躯は軋み、激痛が走った。
「でも、僕も望んだことだ」
恐怖心がない訳じゃない。昨日の痛みを思い出せば、情けないことだけど、身がすくむ。それでも、こんな顔をさせたくはない。
「ねえ、続きをしようよ」
若林くんの髪に指を絡め、そのまま指先で頬を撫でた。
「本気で言ってるのか?」
尋ねた若林くんの声に、涙が出そうになる。このままじゃ、抱き合うこともできなくなってしまう。
「このままじゃ帰れないよ」
震える指先をもう少し伸ばして、若林くんの唇に触れた。
「誘惑する気か?」
「それしか方法がないのなら」
誘惑の仕方なんて知らない。でも、誘惑したいと思った。後悔に苛まれている若林くんと、痛みに怯える僕がもう一度抱き合うには。

 唇に触れた指を掴まれて、舐められた。目が合った。
「岬」
若林くんは観念して身を起こした。むきだしの上半身は、盛り上がった筋肉で覆われて、目を奪われる。若林くんはその逞しい腕で僕の身体を抱きしめた。
「ありがとうな」

 途中まではスムーズだった。昨日の続き、に入る前に、お互い顔を見合わせて、頷き合った。
「入れるぞ」
「…うん」
息を飲んだ。力を抜くようにと思っても、昨日の痛みの記憶が、僕の身体をすくませる。でも、昨日と違い、後ろから抱きしめてくる腕に、気持ちがふっと軽くなった。

 きっと、好きな気持ちは伝わっている。

「大丈夫か?」
「な…何とか…」
息混じりのかすれ声にしかならない。苦しくて息をするのもやっとだ。
 それでも、今度はちゃんと受け入れられた。自分でもよく耐えられたものだと思う。体の中から熱くて苦しくて、額に汗が滲む。
「…動いても良いよ」
それでも、若林くんには喜んで欲しい。
「そんな声出すな…理性が保てなくなる」
耳元で囁かれた僕の方こそ、理性が溶けるかと思った。いつもより切なげな声で囁かれても、逆効果でしかない。
「こうなったからには、最後まで愛してよ。ね?」

 起き上がることもできずに、目を開ける。指の先まで重い気がして、大変だったんだと今更思う。
 それでも、ちゃんと最後まで受け入れられた。嫌いにならずに、恐れを抱き続けずに、済んだ。
「大丈夫か?」
「そう見える?」
意地悪を言うと、若林くんは少し困った顔で、僕を見返した。
「いつも通り可愛いから、分からん」
今度は僕の方が困った顔になったと思う。
「むしろ今の方が良いな」
笑い直す余裕のない頬を撫でて、若林くんは優しく笑う。心配そうにそっと触れる手つきと幸せそうに緩んだ表情が嬉しい。きっと、同じように思ってくれているんだろう。
「若林くん、ありがとう」
そう口にした瞬間に、力強く抱きしめられた。苦しい位の力に、どうしようもなく込み上げてくるものがある。辛いのも忘れて、逞しい背に手を回し、抱き返した。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
タイトルは幾つか掛けた結果、こうなりました。
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