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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
嫉妬ゲーム
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。



 若林くんが、助けを求めるように、チラリと僕を見た。人前では目を合わせないようにしている僕も、今度ばかりは仕方ないと目配せ代わりに、一度目を閉じてみせた。


 この前の合宿で、卓球をやった。三杉くん一人に完敗した松山と僕は、「恋人に好きだと言う」罰ゲームを受ける羽目になった。今日も雨降りで、何故か卓球をすることになって、三杉くんが忙しいらしく、後を頼まれた僕が、翼くんと組んでいる。
 翼くんと僕が組んだことで、俄然やる気になった小次郎が松山と組んで挑んで来たけど、そちらはあっさり返り討ちにした。小次郎のペアが若島津だったら、勝ち目はなかったと思うけど、若島津は今回の合宿に参加していない。
「罰ゲーム、どうする?」
翼くんに聞くと、翼くんは二人を順に眺めて、それからにんまり笑った。
 その途端、松山と目が合った。これは、僕が助ける流れだと、すぐに理解した。それで無難なことを口にする。
「腕立て伏せ50回にしようよ」
「100回の方が良くない?」
「…じゃあ、それで良いよ、翼くん」
それくらいなら、譲歩しても良い範囲だ。この前の罰ゲームに比べたら。
「お前らァ!」
この前の惨事を知らない小次郎が目を剥くけど、これ位で済むのだから、むしろ感謝して欲しい。
「次は、誰が挑戦するの?」
挑発するように、翼くんが言う。
「俺達って、卓球でも黄金コンビだね!」
と翼くんは言っていたけど、やっぱりサッカーボールの方が良いよ。ピンポン球は小さいし、思い切り走れない分、ストレスが溜まりそう。
「じゃあ、俺が挑戦しても良いスか?」
名乗りを上げたのは、新田だった。昨日、翼くんに猛特訓されたから、やり返したいんだろう。僕達は連戦で不利だし。
「良いけど、誰と組むの?」
しかめっつらの小次郎が腕立て伏せをするというので、みんなそっちに気を取られている。そっちに行っていないのは、若林くんだけで、向こうに行ったら、翼くんがヘソを曲げるのをよく分かっているからだろう。
「じゃあ、若林くん、組んであげてよ」
「はあっ!?」
「ええっ!?」
さらりと言った翼くんに、僕達はつい声を上げ、同時になった。
「だって、若林くんしかいないし。僕達二人と若林くん、一戦一引き分けだよね」
「翼くん…」
その話になったら、若林くんの目の色が変わるのは明らかだった。翼くんと僕が若林くんと最初に対戦した対抗戦は引き分けに終わり、それから対戦していない。
 僕は、小さく首を横に振った。相手が新田じゃなかったら、勝ちを譲るところだけど。
「頼むっスすよ、若林さん!」
手を合わせる新田に、若林くんが仕方なさそうに卓球台の方に来た。

 仕方ない。腕立て伏せ200回で許してあげるよ。

 勝負は僕達の圧勝だった。前に、新田と卓球したことあって知ってたけど、本当に下手だ。あんなに運動神経いいのに謎だよね。その時は、浦辺くんがフォローに回ってたけど…若林くんだと、お互いペースが掴めなさそうだ。若林くんはサーブもスマッシュも決めてきたけど、それでは追いつかない。

「罰ゲームは、腕立て伏せ200回とかどうかな?」
新田が嫌そうな顔をするけど、若林くんは頷いている。この前の罰ゲームのことを思い出したら、僕の提案を受け入れるべきだよね?でも、翼くんはそれで承知しなかった。
「俺、ポッキーゲームが見たいな!」
「はあっ!?」
「えっ!?」
若林くんと僕の声はほぼ同時になった。誰と、誰、だよ。
「翼くん、それは…」
言いかけてやめた。若林くんと僕が付き合っていることは、あまり知られていない。翼くんは知っているけど、新田は知らないことだ。
「さあ、どうぞ」
苦虫を噛み潰したような顔の若林くんに、青ざめたままの新田。それ以上庇う訳にはいかなくて、僕は黙った。

 椅子に座った若林くんに、新田が少しずつ近付く。少し上を見ている若林くんの横顔を、こっそり盗み見る。唇にポッキーをくわえた若林くんは、妙に様になっている。こうして見ると、若林くんは整った顔立ちもさることながら、大人っぽくて、やっぱりかっこいい。その若林くんが、助けを求めるように、チラリと僕を見た。人前では目を合わせないようにしている僕も、今度ばかりは仕方ないと目配せ代わりに、一度目を閉じてみせた。平然としていても胸の中では何かが疼く。蠢いて、渦巻いて、僕を苛む。

 昨日の夜に、夕食の後に二人で抜け出した。自主練習の前に、倉庫の裏で、密会した。
「お前の唇は相変わらず柔らかいな」
暗闇の中、聴覚と触覚が頼りになる。抱き合った後、唇に触れた指を、そのままそっと唇で挟んだ。
「キスしたくなった?」
背伸びしたまま尋ねた僕の腕を掴んで、若林くんはそのまま力強く引き寄せた。
「したいに決まっている」
倉庫の壁に押し付けられるように追い詰められて、逃げ場のないまま触れ合った唇に、胸がドキドキした。

「若林くん、代わって!」
僕は若林くんを押しのけると、箱から取ったポッキーを取って、新田の前に立った。
「新田のことは浦辺くんに頼まれているからね」
新田が息をついたのは分かった。そりゃ、若林くんは新田が未だに遠慮を見せる数少ない相手の一人だ。浦辺くんにくれぐれも、と頼まれていた以上、やっぱり庇うべきだろう。
「翼くんも、それで良い?」
「どうせなら、俺が岬くんとポッキーゲームしたいけどね。新田となら見たい」
翼くんは不承不承頷いた。若林くんは、今度はイライラした様子で見ている。もう、しょうがないじゃない。僕だって好きでやっている訳じゃない。
「さあ来い、新田!」
「お、おう!」
どうしてもグラウンドのノリになってしまうのは、先輩後輩としては仕方ない。新田は僕のくわえたポッキーの先を噛んだ。
「おっ、岬と新田がポッキーゲームしてるぜ!」
石崎くんの声とともに、何人かが駆けつけてくるのが聞こえる。石崎くんのそういうところは普段は頼りになるけど…今回ばかりは許しがたい。浦辺くんに言いつけてやる。
「百合だ、百合だ!」
「高杉、落ち着け!」
「ええなあ、ほんま目の保養やわ!」
「早田、そんな目で見るなよ!」
周囲は本当に騒がしい。たちまちギャラリーに囲まれる。男同士のポッキーゲームなんだけどなあ。
 でも、それでも僕は満足していた。見世物にされるよりも、若林くんのことで胸を焦がしていた時の方が辛かった。そして、嫉妬している風な若林くんに、何故か嬉しい気持ちもあった。
「じゃあ、この辺で」
僕はくわえていたポッキーをさっさと折って、放心している新田の肩を叩いてやった。

「気が気じゃなかったぞ」
雨はやんで、密会は今夜も倉庫の裏だ。若林くんは、僕よりも先に来ていた。そして僕が着くなり恨みごとを言う若林くんに、僕もつい口にする。
「僕の方もだよ」
ポッキーゲームでどうこうということはない。それでも、新田が若林くんに近付いただけで嫌だった。罰ゲームだと分かっているのに、顔と顔が近付いて…耐えられなかった。自分でも信じられない位、胸の中で嵐が吹いた。嫉妬なんて感情が自分の中にも巣食っているのだと、初めて知った。
「でも、嬉しかったぜ」
見上げても、この暗闇では若林くんの表情は見えない。
「岬が嫉妬してくれるなんて思わなかったから」
「浦辺くんへの義理を果たさないとね」
自分の醜さは見たくなかった。誤魔化して顔を背けた僕を、若林くんはそのまま抱きしめた。厚い胸に顔をすり寄せて、僕はやっと自分が落ち着いたことを悟る。
「ねえ、キスしたい?」
「それ以上のこともしたい」
恋の甘さも苦さも、若林くんと付き合い始めて知ったことだった。こうして抱き合う喜びと、離れる寂しさと、今また自分の中に潜む醜い感情を知った。
「欲張り」
こうして一緒にいられる喜びを知ってしまったから、離れられない。若林くんの腕をぎゅっと掴みながら、本当の欲張りはきっと自分だと思う。
「…でも、良いよ」
小さな声で囁いて、包んでくれる腕に身を預けた。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
今日はおりょうさまのリクエストで「若林くんが他の人と一緒に罰ゲームを受け、思いっきり妬いちゃう岬くん」でした。
妬く、で我慢できずに行動しちゃいましたけど。可愛い岬くんというリクエストとは程遠いですが…。「罰ゲーム」と同じく、賑やかな合宿所がまた書けて楽しかったです。
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