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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
友達同士、とはいえない
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。


「シュナイダー、悪いけど…」
「ミサキ、今度はどうした?」
旧知だが親しくはない日本人が突然訪れて来る、というデジャヴュに、シュナイダーは顔色ひとつ変えないまま、相手を注視した。
 以前、岬がシュナイダーの家に泊まりに来たことがある。シュナイダーの友人かつ好敵手にして、岬の恋人である若林の絶倫ぶりに耐え兼ねた岬が家出して逃れて来た先が、シュナイダー宅だった。連れ戻しに来た若林は、岬とではなく、シュナイダーと言い争った挙げ句、当の岬に諌められて帰って行った。
「聞いてくれる?」
「気は進まないが、聞こう」
ドアを大きく開き、招き入れたシュナイダーに、岬は微笑みかけた。シュナイダーが自分に興味がないことを把握した上での微笑みである。
 勧められたソファーにコートも脱がないまま座って、岬は口を開いた。いつ追い出されても良いように振舞う辺り、岬は自分のことをよく知っているらしいとシュナイダーは少し機嫌が良くなった。
「若林くんが、僕の銅像を造るって言い出して」
「ハア?」
以前より少しドイツ語が上達した岬の説明を聞いても、訳が分からない。語気も荒く聞き返すシュナイダーに、岬は小さくため息をつく。
「若林くんの家のグラウンドの一部を、南葛サッカー記念館にする計画が持ち上がったんだ。それで、若林くんの愛用の物や写真を展示することになった時に、僕のパネルと銅像も造るって言い出して…」
そこまで話す岬の顔はほのかに赤く、柔らかいミルク色の肌の艶を引き立てる。若林が残したがるはずだと、シュナイダーは少し若林の気持ちを理解しながらも、岬に同情した。
「ワカバヤシの家の人間はどう言ってるんだ?」
「僕の銅像造るなら、若林くんの銅像も要るな、とかさすが我が息子、とか言っていたよ」
これも聞かなければ良かったと、シュナイダーは表情ひとつ変えずに考えた。若林家の人々はやはり若林の血縁だけのことはあり、シュナイダーには共感できそうにない。
「若林くんの銅像だけで良いと思わない?」
「…お前とは、見解が合わないな」
呆れたように口にしたシュナイダーに、岬は口元だけで微笑んでみせた。
「そうだろうね。君が呆れるのも分かるよ」
若林の執着の強さゆえに、若林ばかりが執着しているように見えても、実はそうでないことを、岬自身が最もよく知っている。ゴールマウスに立つ若林を振り返ることは多かったが、向かい合う機会は少なかった。その思い入れのある姿が銅像になるという話を、岬は嬉しく思った。実際対戦したことは少なくて、それはどれも忘れ難い記憶だ。
「でも、初めて会った、強敵だったんだ。ゴールを守る若林くんは、やっぱり印象的だよ」
ゴールを守る若林が見据える先にいるのは、シュートを放つストライカー、そして空気を切り裂き飛んで来るボール。そこに並ぶのは自分ではない。
「確かに落差は激しいな」
愚痴というには少々ノロケの多い岬に、シュナイダーは苦笑いする。恋人の件で、慌てて駆け付けて来る若林の姿は好敵手としては情けない。それでも、友人としてはピリピリしている姿を見るよりも良い。
「…匿ってくれる顔じゃないね」
「自分で解決しろ。分かっているんだろ?」
シュナイダーと岬は顔を見合わせ、笑い合った。目の前のひねくれ者のことだから、どうせ若林のことをカッコイイとか言うのが恥ずかしくて逃げているんだろうと、シュナイダーは推測した。そして、その理由を看破されていることを岬も悟っている。
「ふふ、分かったよ。折角だから、お土産のケーキだけは受け取ってよ」
「折角だから、昔のビデオでも見て行くが良い。ケーキを一人で食うのは味気ない」
友情というには足りないが、べたつかずに悪くはない、そんな関係は岬にとっても珍しい。
「ありがとう」
改めてコートを脱ぎ、座り直した岬に、シュナイダーもソファーから立ち上がる。
「コーヒーで良いか?」
「カフェオレで」
「贅沢を言うな、コーヒーで良いな」
全く甘くないのも少々問題だな、と岬は思うのだった。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
11月11日なので、去年のネタ。「似た者同士」の続きを。
ポッキーをもらったことで11月11日と気付き、慌てて昼休みに書いて予約したつもりが、公開になってしまっていたという…誤字脱字すみませんでした。でも、書いていて楽しい話でした。
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