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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

 昔から、綺麗なものが好きだった。祖父さんの居間や祖母さんの茶室に潜り込んでは、鮮やかな陶器や滑らかな磁器に見蕩れていた。
「触っても良い?」
俺が聞くと、特に祖父さんは周囲が止めるのも聞かずに、俺に手渡してくれた。
「まだ価値が分からないのですから、いけませんよ」
「これが好きだと言うのだから、価値が分かっているんだろう。なあ、源三」
触れて、近くで見られたら、それで良かった。

 それからもう少し経つと、時々触れられないものが出て来た。
「どうした、源三。もう良いのか?」
祖父さんが訊ねる。俺はもう一度その器を見てから、首を振った。
「何か、触るのも怖いくらいきれいだから」
ガラスなのはすぐに分かった。深い色のガラスに精緻な細工が施されていて、きらきらと光を弾く様はおよそ触って良いものに思えなかった。
「お前は目利きだなあ」
祖父さんが俺の頭を撫でた。目利き、という言葉は分からなかったが、褒められていることは分かった。
「俺、目利きか?」
訳も分からず繰り返した俺に、祖父さんは大きく頷く。
「きれいなものが分かるってことだ。すごいな源三は」

 大きくなってからは、周囲の言葉も理解できる。あの時の器は昔の薩摩切子だったし、そりゃ貴重なものだ。よくも子供の俺に触って良いなどと言ったものだと呆れる。
 でも、それで知ったことも多い。

 きれいで触れられないものがあること。

 ドイツに渡って、時々美術館に行くことがある。ある意味有名なエロティックアートな美術館には行かなかったが、ドイツ国内でも有数といわれる市内の美術館には時々足を運んだ。岬と再会してからは時々一緒に行くようになった。
「やっぱり、美術館ってすごいね」
作品の持っている迫力が違う。それに、作品の飾られている空間そのものが作品を際立たせているみたい、と岬は言う。画集で何度見た作品でも何度でも見に来たくなるよね、とため息交じりに見上げた。
「ああ。そうだな」
作品に見入っている岬の横顔を、俺はため息交じりに見つめる。

 岬はガラスのようだと時々思う。いつも張り詰めていて、壊れそうな繊細さを隠して、きれいな表面だけを見せている。優しい笑顔で、その底を見せないようにしている。それが、時々垣間見える寂しそうな表情に、つい気付いてしまった。
 そして、手を差し伸べたいと思ってしまった。

「若林くん?」
「あの鳥、変な形してないか?」
「え、あれ鳥なの?」
「違うのか?」
日本語がほとんど通じないのを良いことに、囁き合った。岬はくすくす笑いながら、通る笑い声を必死に堪えている。

 手を触れたら、たぶん関係は変わってしまう。俺がガラスの向こう側に気付いたと知ったら、岬は困るだろう。だから、言わない。そして、気付かないふり、騙されているふりをしながら、触れたくなる手を押さえつける。

「また、来ようね」
「ああ」
ガラスはいつか壊れる。多分この気持ちは、きれいなだけでは終われない。つい手を取った俺を、岬は驚いたように見た。
「どうしたの?」
「そこ、段差があるぞ」
「あ、本当だね。ありがとう」
笑顔を返す岬に、ほっとした。触れてはみたものの、壊す訳にはいかないもの。薄氷一枚の上に成り立つ関係に、臆病にもなる。
「ああ」
岬の手はひんやりと冷たくて、何度か触れたガラスの器を思い出した。触れたい気持ちに蓋をして、またいつもの距離に戻ろうとしたが、岬の手は離れることなく、俺の手を握り返した。
「若林くんの手、あったかいね」
思わず見つめた瞳は、光を宿して、揺らめく。涙のレンズを通したように、潤んで見える眼差しは、触れても良いのだと語っていた。その玻璃の双眸に吸い寄せられるまま、俺は言葉を発した。
「岬、俺は…」
岬の冷たい指先に熱が通い、そうして俺は触れたものがガラスでないことを悟る。
「お前のことが好きだ」
「ありがとう。…僕もだよ」
ガラスのように脆くても、守ることはできる。触れることで、かえって守れるものもある。いつか、ガラスの向こう側に立つことになっても、きっと好きでいられる。
 恥ずかしそうに微笑む岬の目の端にキスをして、透き通った涙の珠をそっと奪った。

(おわり)

拍手ありがとうございます。昔冒頭だけ書いて放置していました。
時々ロマンチスト若林さんを書きたくなるらしいです。

以下、拍手お礼
ちはや様、いつもコメントありがとうございます。
アニメは自分の萌えポイントを垂れ流しているだけなので…かえって大きなポイントを見逃していそうです。
スマホは本当に驚きでしたよね。でも、まだメール履歴が案内メール・お父さん・松山くんだけでしたので…今後増やしていく気なのかも知れません。そんなところまで現代化しなくても良いのに。
「いつでも連絡を取れる岬くん」って「会いに行けるアイドル」じゃないんだから、とは思いました。
岬くんの眉毛は本当に大切ですよ。そこは今風でお願いしたいものです。
再会時の若林くんの顔、驚き過ぎで、深読みしてしまいますよね。その後の笑顔もすごいですし…。
それだけ嬉しかったのだと思うと、…妄想もはかどります!更新も頑張りますね。応援ありがとうございました。

拍手のみの方もありがとうございます。励みになります。
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