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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
ウォッチング
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

「反町、その悪趣味はほどほどにしておけよ」
高校に入ってすぐの頃の、若島津からの忠告だったりする。

 明けても暮れてもサッカー、サッカー三昧、サッカー漬けだった高校1年の俺の楽しみといえば、寮近くでデートしているカップルウォッチングだった。
 寮の部屋から望遠鏡を構え、いちゃつくカップルを観察するのは、めちゃめちゃ楽しかった。今思うと、それこそしょうもない会話の様子とか、仕草とかを観察するだけだったけど。それが、若島津に見つかって忠告されてすぐ、たまたま観察していたカップルに気付かれ、しかも彼氏の方がサッカー部の先輩という面白すぎる偶然が起こって、俺はカップルウオッチングを諦めたのだった。

 それでも、道端でいちゃつくカップルなんかを見ると、やっぱり見てしまうし、電車だと見てほしいんだろうなと思って、わざと見てやったりする。

 悪趣味は治らないというし、そんなものだろうとたかをくくってた俺は、その日も町をぶらつきながら、木陰に泊まっている車に気付いた。案の定、カップルがキスの最中だ。
 通りすがりに中を覗き込んで、のしかかっている男の方と目が合った。

 背筋に氷の塊どころか、むしろ背中を氷の柱に押し付けられたような気がした。

 レンタカーのでかいセダンで、助手席の相手を、半分倒した座席に押し付けるようにしてキスしている男には見覚えがあった。

 若林源三。この合宿で一緒の奴だ。

 初対面から変わらず、やたらでかい男という印象だった。ガタイだけではなく、彫りの深い顔に、周囲を圧倒する迫力、声もでかい。怒鳴り声なんかなおさらで、日向さんや若島津で慣れている俺でも、ヤバいと思ったほどだった。
 女にはモテるだろうとは思っていた。家も金持ちらしいし、本人はブンデスリーガでデビューしてるし、何というか雄オーラの塊だ。各チームのキャプテンやらがひしめく合宿所でも、圧倒的な雄オーラに、これまでくぐってきた経験からして極力近づかないようにと思ってた相手だ。

 それなのに、いつもの癖で俺は一歩踏み出してしまった。若林が体を起こしてこっちを睨んでいるせいで、その下にいるお相手の顔も見えてしまった。

 …こっちにも見覚えがあった。

 岬太郎も合宿の仲間だ。合宿所随一の温和な奴で、三杉のような目立つイケメンというよりは、きれいな草食系男子だ。整った優しい顔に、細身で清潔感あふれる雰囲気は、合宿所内でも人気があるし、外国人選手にも人気があるらしい。

 いやいや、そいつ見た目通りでもないから。

 高校時代に岬とイヤ程対戦した。決勝戦の相手はいつも岬率いる南葛で、体格差もあるのに、日向さんと真っ向から対決する顔は、相当迫力があった。
 試合が終われば、普段通り花でも育ててそうな顔に戻るが、試合の時を見慣れた今では、岬のきれいな顔を見ても、そんな気はさらさら起こらない。

 と思っていた。

 若林の肩に手を回し、陰から見ている岬は、普段からは考えられない色気があった。あの聖人君子ぶりからは想像できない程、色っぽい顔だった。

 そういえば、二人ともそのテの話を聞いたことはない。それでも、不思議に思ったことはなかった。若林はドイツでボンドガールみたいなのをはべらしているイメージがあったし、岬は男女問わず恋人がいるイメージがなかった。

 そんな二人が、まさかこんな仲だとは。
 天才連中の奇行には日本一免疫があると自負する俺でも、驚かずにはいられなかった。不思議と気持ち悪いとは思わなかったが。

 岬を背に庇うように体を起こしてこちらを見た若林は、とんでもない目力のせいで、まるで肉食獣だと思った。

「反町くん」
車から降りて来たのは、岬の方だった。若林じゃなくて良かったと安心したところに近付いて来た岬の、珍しく開いたシャツの衿元の皮膚が赤くなっているのが見えて、俺は柄になく動揺してしまった。
「気持ち悪いだろうけど、せめて誰にも言わないでほしいんだ」
岬は静かに言った。若林の姿は見えないが、この会話を後ろで聞いているんだろう。
「そういうのは個人の自由だと思うし、誰にも言わないぜ。若林に睨まれるのは勘弁だ」
岬に睨まれるのも、と心の中では付け足す。岬にケンカを売った日には、こっちに非がなくても、日向さんや翼を敵に回すことになる。それも回避したい。
「ありがとう」
一礼してから岬が微笑む。戻って行った岬が車に乗り込む前に、若林が出て来て、岬の肩を抱くのが見えた。
 カップル観察のプロとしては、身長差といい、体格差といい、岬の肩をしっかりと抱く若林に、控えめに寄り添う岬というバランスに加えて、二人とも見た目は悪くないから、本当に素晴らしい。

 これで男女なら完璧だったと思いながら、若干縮まった寿命に、俺は若島津の忠告を今更思い出した。

 振り返ったら、きっと二人はキスしているんだろう。二人が揃って最初の休養日だ。イチャつかない訳がない。

 俺は振り向かずに、前を向いて進んだ。が、どうしても好奇心は抑え切れずに振り返った。

 抱き寄せる若林の横顔は、見たことのない程優しく思えた。目を閉じる岬もどこか官能的で、これからの二人の時間の甘さを想像させた。

 何なんだよ。


 それから。その夜に若林と岬を見かけた。二人とも全くいつも通りで、一緒にいたことなど感じさせずに、別々にいる。
「岬はまた本買って来たのか?」
「うん。気になる小説があって」
岬は松山と話し、若林は黙々と新聞を読んでいる。持ち込みのでかい湯呑みといい、本当に親父くさい。こいつが、岬の前ではちゃんと恋人の顔をしていたのがたまらなくおかしかった。
 と目が合った。若林は素早く立ち上がると、手招きした。…これはマズい。
「反町、ちょっと顔貸せ」
「お…おう」
さっきは岬が庇ってくれたが、今は人前だからか岬も知らないふりをしている。どうやら自分で切り抜けるしかないらしい。背中に冷たい汗が流れた。

「誰にも言ってないみたいだな」
「はい」
つい敬語になってしまう。日向さんといい、俺は上から来られるのに弱い。
「ありがとうな」
思えば、若林と二人で話したのは初めてだ。案外優しい声をしている。静かに、落ち着いて話す。そして、人懐っこい顔で笑う。
 恐らく、これが岬の見ている若林なんだろうと思った。豪快に磊落な印象もあるが、それだけではないから、岬が落ちたんだろうと想像がついた。
「そんなに俺達に興味があるのか?」
そう思った矢先だっただけに、不意を突かれた。若林の言葉にとっさに反応できずに「いや、」とか言ってしまって、否定しきれなかった。
「まあ、気にはなりますね。知ってる奴同士ですし」
そう答えると、若林は俺の顔を見返す。
「…お前の目から見て、俺達はどう思う?」
若林はまっすぐに俺を見た。色眼鏡なしだと、整った男らしい顔だと思う。浮わついたところのなさそうなこの男に、こんなことを聞かれるのは不思議で仕方なかった。
「お前でも、そんなことが気になるのか」
いつも自信に溢れた若林とは思えない言葉に驚いて聞き返すと、若林はためらいがちに口にした。
「あいつが気にするんだ」

 若林の部屋を出たところで、岬と出くわした。偶然とは思えないから、きっと待っていたんだろう。
「何か言われなかった?大丈夫?」
どうやら心配して来たらしい。岬は良い嫁のようだ。
「大丈夫だ。若林はお前のこと相当好きみたいだな」
呆れ口調になるのは仕方なかった。恥ずかしそうに微笑んだ岬に、出て来たばかりのドアを開けて、背中を突いて押し込んでやった。

 全く偏見がない訳じゃない。でも、自分で選んだことをとやかく言うほど無粋にはなりたくない。それを言えるほど二人とは親しくないし、本音を言うと、どうでもいい。
 決して、二人が怖くて、黙っているんじゃないんだ。自分に言い聞かせる。
 実際二人は幸せそうに見えたし、似合っていた。

 ただ、俺はカップルウオッチングだけはほどほどにしようと思ったのだった。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
今回は、先日可愛いイラストをいただいたおりょう様からのリクエストで、「熱々の源岬に振り回される反町くん」でした。
最初から反町くんを書こうと思って書いたことはなかったので、楽しい経験になりました。

思えば反町くんほど薄い本で愛されて、キャラが確立した人もいないと思います。原作ではどういう性格なのか未だに分からないままですが、薄い本ではシティーボーイ(笑)という個性を確立し、どの本で見る反町くんもほぼ統一されています。ほぼすべてが3次創作な反町くん。薄い本でも、モデル属性が付いているのって、反町くんと若島津くん位のものです。やはり、東京者というイメージと、東邦世界で話を動かすキャラが必要だということから、確立された個性なのでしょうか…。
いつの頃から、このような反町くん像が確立されたのかは分かりませんが、私も本当にお世話になっています。特に、私は昔読んだ「岬くんと従兄弟の反町くん」という小説が好きで、パラレルではよくその設定を使っています。いつどこで入手したのかも覚えていない東邦本ですが、未だに持っていますし。

ということを考えながら、書いた話でした。その結果、話自体が「反町くんに振り回される源岬」になってしまったような…。
おりょうさま、ふがいない結果になり、すみませんでした。

クレスリウム王国様で掲載いただいた「旅」が終了しました。楽しみ切って書きましたが、10回ってよそ様で出すには長すぎですね…。

塞さまのブログ「そこはかとなく」でシュナミュラのSSを掲載いただきました。普段書かないものを書くのは楽しかったです。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


コメント

真さま、こんばんは。
反町くん視点の源岬が新鮮で面白かったです。
そう、シティーボーイでしたよね、反町くんは。(笑)
源岬における反町くん、三杉くん、ピエール辺りはなんだかんだ言って役割が決まってるような気がします。
翼くん、日向くん、松山くんもそうですね。
最初に見た薄い本、好きだった薄い本の影響は計り知れないです。
反町くんは好奇心旺盛な巻き込み型、もしくは巻き込まれ型のトラブルメーカーだと思います。
きっとまた性懲りもなくうっかり覗いてくれるんじゃないかと思います。(笑)
[2016/10/14 04:13] URL | 銀月星夢 #mQop/nM. [ 編集 ]

Re: タイトルなし
銀月星夢さま、コメントありがとうございます。
反町くん視点って新鮮ですよね!楽しんでいただけたようで、良かったです。
確かに、役割の決まったキャラって多いですね。
できるだけ多くのキャラを出すようにしていますが、それでも役割が固定されてしまいますよね…。
好きだった薄い本の影響って本当に侮れないです。
パラレルで好き放題できるのは、キャラ崩壊しなければ大丈夫だと薄い本で学んだおかげだと思っています(笑)
反町くん…懲りなさそうですよね。巻き込まれても、巻き込んでも。
うっかりまた覗いてしまった時には、続編として報告したいものです!
[2016/10/14 23:12] URL | 真 #- [ 編集 ]


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