※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 「風呂の湯溜まったぜ」 ソファーの隣に座った若林くんに促されて、腰を浮かしかけ、向けられる期待を込めた眼差しに考えを改める。 「先に使って良いよ。汗かいてるよね?」 いつもの段取りで合宿所から抜け出して合流するはずが、若林くんは出る直前に石崎くんに捕まったらしい。駅前で待っていたら、走って来てくれた。文字通り駆け付けて、だ。…待つのも楽しいから、僕は構わないのに。 「俺が早く会いたかったんだ」 なんて、相変わらず口説き文句も上手い。 「せっかく来てるんだ、一緒に入ろうぜ」 カーディガンの裾を引っ張るどころか、引きはがしにかかる若林くんに、すぐに観念せざるをえなかった。
お風呂が広そうだからと選んだ部屋だったけど、男二人で入ると思ったほどでもない。特に若林くんが一緒だとそうだ。横並びだから、足がやや窮屈で。 「若林くん、狭くない?」 「そうだな。狭いから、こっち来いよ」 とんだ薮蛇で、腕を引っ張られて、若林くんの足の間に座らされた。こうならないように、できるだけ離れて、不自然に横並びしていたのに。 「岬、ちゃんとあったまれよ」 僕を抱え込んで、若林くんが囁く。頼むから、その本気の声をやめてくれないかな。僕の奥の何かをピンポイントで狙い撃ちするような、甘くて官能的な声。 「そんなに抱き着いたら、熱いよ。…のぼせそう」 声だけじゃない。僕より一回りは大きい体にすっぽり収められ、後ろから太い腕で抱きしめられている。背中にぴったりと密着した胸板は、若林くんの体温の高さもあって、熱くて重い。 「最近家で長風呂してるって言ってただろ?」 確かにそんな話をした。最近、お風呂に浸かりながら、本を読むのにハマっていることとか。疲れが取れるし、マッサージする間も飽きないし。 「それはそうだけど」 少なくとも、こんな状態では長湯しない。岩盤浴状態で抱きしめるだけではなく、体をまさぐる手に、自然と呼吸も荒くなる。 「どんな本読むんだ?」 僕の胸元を撫でながら、若林くんは尋ねて来る。…胸元というか、一点ばかりをいじめている状態で。 「ん…のぼせないように、軽い本を読んでるよ。占いの本とか」 「岬は占いが好きなのか?」 「…そうでもない」 引っ越し先のアパートに置いてあった雑誌は占い特集で、紙が良いからお風呂場で読むのにはピッタリだから、重宝している。 そこまで説明するのは面倒で、体が熱くなるのをできるだけ意識しないようにしている分、説明する余裕もない。僕がそっけなく答えた時だった。 若林くんは、僕の目の前にあるテレビのスイッチを入れた。 「そういえば、この部屋、占いチャンネル入ってるんだぜ」 若林くんは、一度見た文字列はしばらく頭に残ると言う。その能力を意味なく発揮して、若林くんは占いチャンネルをつけた。 「おうし座ABは『人一倍の頑張りやさんで忍耐強く一本筋の通っている堅実型』なんだって。これは当たってるな。岬らしい」 若林くんに読み上げてもらうまでもなく、見えている。でも、当たっていると言ってもらえるのは嬉しかった。良い言葉に言い換えた性格を認めてもらえるのは。 「次が…『外では曖昧模糊としてはっきりした意思表示をしないのですが、家でははっきりと言葉・行動で意思表示をします』これも納得いくよな」 振り返らなくても、若林くんがしたり顔なのは想像がつく。僕だって、若林くんには結構はっきり言う。若林くんは僕くらいいつも軽く受け止めてくれて、むしろ遠慮しているのを見破って怒ってきたりする。そんな若林くんだから、僕は甘えることを覚えられた。 「その次が恋愛観か…『引っ込み思案なのですが、実際はかまって欲しいタイプです』だって。引っ込み思案というよりは遠慮がちだよな。でも、そればっかりでもないのが、岬の可愛いところだな」 外見はともかく、性格が可愛いとはあまり言われない。弱みを見せないように意地を張って、笑顔を作って。それでも、若林くんの前では、せっかく積んだ笑顔のバリケードも無意味だった。陥落した途端に、僕の世界は愛に満ちた。 「ここも可愛いけどな」 「もうっ、そんなところばっかり触っちゃやだよ…」 濡れた手で、髪や顔を撫でられたかと思うと、内股に伸びる指先に、体が反応する。 「岬、可愛いな」 若林くんは僕の顔に手を当てて、振り返らせた。体を捻って抱きつくと、若林くんはその強い腕でしっかり受け止めてくれた。 「岬」 こんな明るいところで、向かい合う形で抱き上げられるのは恥ずかしい。裸でも筋肉の鎧を身につけているような若林くんの逞しい肉体に比べると、筋肉の薄い僕の体は貧弱に映る。でも、それが良いと若林くんは言う。 「岬の身体はきれいだな。あんまり細くて、抱き潰してしまわないか心配になる」 洒落にならないことを口にして笑う目は、まさしく肉食獣のそれで、逃げられないことを悟る。 「そう思うなら、歯型はやめてね。見つからないようにお風呂入るのも大変なんだから」 まるで獲物のように噛んでくれて、太股の内側に残る歯型は、当分消えそうにない。赤黒く残る痕を見れば、付けられた時のことを思い出されて、落ち着いてはいられなくなる。 「それに、そろそろ上がって良い?のぼせそう」 熱いだけじゃない。熱い手に煽られた体は中から熱くて、立っているのも辛い。湯気の中で繰り返されるキスも、僕の頭を沸騰させるようだ。すぐに引けてしまう腰を抱き寄せられて、グラグラする体を必死で支える。 「イキそうの間違いだろ?」 「誰のせいだよ」 敏感なところを正確に辿る若林くんを、僕は涙目で睨んだ。若林くんと付き合うまで、こんな場所に来ることはなかった。こんなことをしたことはなかった。抱かれるなんて想像したこともなかった。何より、愛し愛され過ごす幸せを、知らずにいた。 「岬、大丈夫か?」 「ん…何とか」 お風呂で抱かれるのも初めてじゃないけれど、自分ばかり高められていたんじゃないかと不安だった。それでも、目の前の若林くんは、僕の不安なんて吹き飛ぶほど、目を細めている。 「ねえ、気持ち良い?」 「ああ」 血色の良い顔には、貪る喜びが溢れている。その満ち足りた表情に、捕食されている僕も、つい嬉しくなる。 「岬のこんな顔を見るのは俺だけだ」 揺さぶられる度に、波が立つ。髪も顔もぐっしょり濡れて、混ざり合う。
「立てるか?」 「…自分の胸に聞いてみたら?」 狭い分、無理な姿勢になってしまっていたらしい。僕の苦情に、若林くんはすぐに折れて、抱き上げてくれた。動くのも辛いから助かるけど、若林くんの満面の笑顔が気にかかる。 「どうかしたの?」 「岬がくっついてくれるし、この態勢も悪くないなと思ってな」 確かに、いわゆるお姫様抱っこの状態で、僕は若林くんの首に手を回している。お風呂場で若林くんの身長を反映した高さという条件からすれば、しがみついてしまうのは仕方ない。 「この高さだから仕方ないだろ」 それにしても、軽々抱き上げてくれるものだと呆れる。僕も一応年代別の代表に選ばれる位の選手ではあるんだけど。つい嫌味な口調にはなってしまったけど、若林くんは気にした風もなく、テレビ画面を示す。次へと送らなかったおうし座ABの恋愛観の画面がそのまま表示されていた。 『愛し始めたら最後、裏切る事を知らず、また裏切られることも嫌う誠実さが愛の特徴』 「何か嬉しいよな」 若林くんは濡れているのを気にする様子もなく、僕の髪に唇を寄せた。強引なくせに、こんな他愛のないことで喜んだりする若林くんに、僕まで嬉しくなってしまう。自分では一途だとは思わないけど、こんなに好きになれるのは、きっと若林くんだけだと思う。 「じゃあ、離さないでね」 首にしがみついて、言うのもナンセンスだけど、若林くんはからかったりすることなく僕を見下ろした。 「離してやるなんて思うなよ。俺にも岬だけだ」
(おわり)
拍手ありがとうございます。 ツイッターで岬太郎くんさんの「お風呂ネタツイート」が好きすぎて、書いてしまいました。官能的にはなりませんでした。しかも書くのに思ったより時間もかかってしまいました。(他のシリーズに入れようとして、もう1本書いてましたが、繋がらなくて断念しました)でも、書いていて楽しかったです♪
以下、拍手お礼 おりょうさま、はじめまして。コメントありがとうございます。 こちらこそ、自己満足の極みですので、感銘を受けたという言葉をいただいて、感動しております。源岬観も、本当はもっとSSに反映するべきところができていないので、吐き出してしまった有様ですし。でも、励ましていただいて、まだまだこれから頑張りたいと思いました。よろしければ、おりょうさまのサイトも教えて下さいね。
拍手のみの方もありがとうございます。励みになります。
スポンサーサイト
テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
|