※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 同棲シリーズ 「エスプレッソ好きだよね」 近所のレストランでご飯を食べると、若林くんは食後にいつもエスプレッソを注文する。僕の方はカフェオーレ。僕達はいつも同じものを頼む。 「ああ。ここのエスプレッソは美味いからな」 若林くんは持って来られたデミタスカップの取っ手を摘み上げてみせた。 「そうなんだ?」 若林くんがこの店に来るとエスプレッソを頼むのは、一緒に暮らすよりもずっと前からだ。
もう何年も前、付き合い始めた頃に、エスプレッソに対する関心が湧いたことがあった。若林くんが好きな食べ物や飲み物は、全部知りたいと思っていた頃だ。 「エスプレッソって美味しい?」 僕が尋ねると、若林くんはニヤリと笑ってみせた。 「美味いけど、岬には苦いかもな」 確かに、自分で飲む時は紅茶が多いし、コーヒーしかない時は、カフェオーレにする。 それが何だか悔しくて、日本に帰ってから、喫茶店でエスプレッソを頼んだ。若林くんがそうするように、小さいデミタスカップに砂糖をざらざらと落とし、掻き混ぜる。覚悟はしていたものの、初めて飲んだエスプレッソは、本当に苦かった。
それ以来、エスプレッソを飲もうなんて思ったことはない。でも、今日エスプレッソを頼んだ若林くんを見た時に、ふと思い立ったことがあった。
「苦い?」 尋ねてみると、今度は若林くんは厭味っぽく笑うことはなかった。周囲を見渡してから、僕の首に腕を回した。 「どうだ?」 絡められた舌で、柔らかい苦みと濃い甘さと、味わいを感じる。 「…悪くはないね」 周囲の目を気にしながら、若林くんの腕をくぐり抜け、口元をハンカチで拭いながら、僕は答えた。若林くんのやり方はともかく、記憶にあるのと比べて、ずっと美味しかった。 「俺も今までで一番美味かった」 なんて戯言は聞かなかったことにする。家に帰れば二人きりだというのに、隙あらばくっつき、隙あらば抱き着いてくる若林くんに、翻弄されながらも、何処か嬉しい気持ちがある。
ドイツに移って来て、少し落ち着いた。そうなると、日々の暮らしのことが気になる。若林くんの家に、衣類と身の回りの荷物だけで転がり込んだけど、全く不自由はない。僕の今までの暮らしからすれば当然だけど、若林くんに対しては、時々それで良いのかと思ったりもする。
それで、若林くんと僕と二人で使える物を僕が買おうと思った。若林くんが使う度に、僕と一緒にいることを意識してくれるような品物を。
「岬、良かったのか?」 台所に置いたエスプレッソマシーンに、若林くんが驚いてくれたのは、少し気分が良かった。 「食後に飲むの好きだよね?二人で使えるもの欲しかったんだ」 カプチーノも作れるから、僕のカフェオーレ生活も充実間違いなしだ。 「岬、毎日俺のためにコーヒーをいれてくれ」 若林くんはふざけて、いつもより少しかっこつけて言う。それが本当にカッコイイ辺り、若林くんらしいんだけど。 「コーヒーが良いの?今まで通り、緑茶が良い?」 朝は和食が良いと言う若林くんのために、毎朝緑茶を煎れている。パンの日はコーヒーだけど、毎日ともなると。 「コーヒーは夜で。エスプレッソはカフェイン少ないからな」 「へえ…じゃあ、夜にいれるね」 僕の言葉に、若林くんは深く頷く。じゃあ、若林くんのリクエスト通り、毎晩夕食の後にコーヒーをいれることにしよう。そういえば、カップはどうしよう。 「デミタスカップはある?なかったら後で買いに行くけど」 「じゃあ、今日の予定はそれな」 若林くんの側の毎日は、特別なことがなくても楽しい。今まで通っていた時の、時間泥棒を疑うような時間の過ぎ方ではなくて、ゆっくりと穏やかに時間は過ぎていく。 父さん以外の誰かと一緒に暮らすことがあるとは思っていなかった。昔は物を持つことが負担だったとは思えないほど、この家には僕の食器が並んでいる。僕のための日用品もたくさんある。若林くんが僕の居場所を作るように、気を配ってくれた結果だ。 「岬のカフェオーレボウルも買おうぜ」 若林くんはここは僕の家でもあると言う。だから、僕に使ってほしいものを集めたと言う。
だんだんとその気持ちも分かってきた。物を増やすことには反対だけど、毎日お茶を煎れる喜びは、今まで知らなかったものだ。それにエスプレッソも加わる。 「良いカップを選ぼうね」
(おわり)
拍手ありがとうございます。 同棲生活。シリーズ、というほどは書けませんが、書くのは楽しいです。
クレスリウム王国さまで、色々お送りした話を公開開始だそうです。 にょた岬ちゃんパラレルが多くて、それ以外もパラレルという…何でも大丈夫という方位しかお勧めできませんが、よろしければどうぞ。
以下、拍手お礼 しののめさま、はじめまして。コメントありがとうございます。 2月は本当に忙しいですよね…このブログは記事数だけは多いですので、少しでも気分転換になれば嬉しいです。体調にもご配慮ありがとうございます。お互いに体調に気をつけて頑張りましょう。
拍手のみの方もありがとうございます。励みになります。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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