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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
5日間の思慕(5)
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
最終回。


 決勝戦、見上監督はゴールキーパーに若林くんを指名した。固辞する若林くんを説得したのは、反対するはずだったみんなだった。実力のある仲間をちゃんと受け入れて一緒に戦える、そんなチームになったのは自分のおかげだと、若林くんは自惚れても良い。少し離れて見守りながら、心の中でそう呼び掛けた。力強い仲間を得て、さあキックオフだ。

 若林くんのメモを確かめるのは、僕の仕事だと思っていた。若林くんは、黄金コンビで中盤を制して欲しいと言っていた。メモの正しさを確かめる位の余裕がなければ、期待に応えられない。
 若林くんのメモの正しさは証明された。それでも、メモに弱点の書かれていないシュナイダーとそもそも記載のないミュラーが、僕達の前に立ちはだかった。
 一点を先取されたものの、ほどなく同点に追い付いた。後半に入って、ドイツの攻撃が激化する中、僕は何度か下がり、ディフェンシブ・ハーフとしてディフェンスに加わるようにした。マンツーマンが基本の守りの中で、ゾーンで動く人間はいた方が良い。マークがなければ、チャンスにも動きやすい。何度もチャンスを拾って、翼くんに繋げた。

 宿舎は、勝利の喜びで満ちていた。お祝いの花やご馳走やケーキなんかもあって、なかなか帰らせてもらえそうにない位だった。でも僕が抜け出したのには、結局誰も気付かなかったに違いない。
 勝利に酔うというよりも、その熱気に酔ったみたいで、夜の空気は心地好く感じられた。
 約束通り、宿舎近くの公園に行くと、若林くんは既に待ってくれている様子だった。僕も相当早く出て来たのに、いつ宿舎を出て来たんだろう。
「今日は良かったな」
「うん、おめでとう。若林くんと一緒に戦えて嬉しかったよ」
ゴールを直接守る技能だけじゃなくて、チーム全体を見る力、DFを動かして、敵に攻め込ませない力はさすがだと思った。DFとの連携ができていないと言っていたけど、誰よりも練習を見ていて、試合を必死に応援してくれていただけあって、問題なくこなしていた。
「こちらこそ。岬がフォローしてくれて助かった」
「それなら良かった。君の力になりたいと思っていたから」
若島津は、DFを使うというよりは、DFの動きに合わせて自分も動き、弱点を補っていくタイプだ。僕が入るとかえって邪魔をする可能性がある。若林くんは、DFを動かして、侵入を防ぎ、その間隙を縫って来たシュートを捉えている。僕が加わる時には、それもちゃんと活かしてくれた。
「岬」
突然抱きしめられて、言葉も出ない。若林くんの逞しい腕に見合わない優しい抱擁に、かえってどうして良いか分からなくなった。何度かこうして抱きしめられた。僕達はサッカー選手だし、若林くんもドイツ在住だから、感情表現が豊かなのかと気付かないふりをしてきた。でも、多分、違う。嬉しいとか感極まった時のような勢いはなくて、優しくそっと抱いてくる腕。…まるで僕の気持ちを知っているみたいに。
「好きだ」
自分の聞いたことが信じられなかった。自分の都合の良いように聞いているんだと思った。
「若林くん?」
聞き返す僕の声は震えていたのかも知れない。心の中に次に沸き上がった疑念は、僕の想いは知られていて、同情されているのかということだった。
「僕に合わせてくれたんじゃないよね?」
若林くんが嘘をつくとは思わない。でも、僕に同情して、揺らぐことはあるかも知れない。
「何のことだ?俺はお前が好きで…」
僕の声をどう取ったのか、そっと抱いていた手を離そうとする若林くんに、逆に安心した。離された手を、僕の方から掴む。
「ねえ、本当に?」
自分でも思わず力が入っていた。驚いた様子で覗き込んで来た若林くんを見上げた。
「岬が好きだ」
若林くんは嘘をつくような人じゃない。同情でもない熱い感情が、誠実な眼差しに溢れていた。
「ずっと好きだったお前が、俺を支えてくれるのが嬉しかった」
普段は饒舌な若林くんにしては、少しぎこちない言葉に、かえって想いが伝わるようだった。
「ありがとう。僕も、若林くんが好きだ」
そう言った途端に、今度はきつく抱きしめられた。苦しい程抱きしめられて、僕も夢中で縋り付く。
「岬」
見上げた顔を、両手で挟むようにして、持ち上げられた。目と目が合って、ゆっくりと顔が近付いた。若林くんの真剣な顔に、恥ずかしさが込み上げて目を閉じたら、唇が触れる感覚が追いかけてきた。

「じゃあ、僕帰るね」
この公園は、合宿所から近い。誰かが来る可能性もあって、そう長くはいられない。
「じゃあ、家まで送る」
「…うん」
いつもと同じように、若林くんは送ってくれると言い出した。いつもと違うのは、僕の方に伸ばされた手。手と手を繋いでいること。繋いだ手からは、若林くんの体温が伝わって来る。唇に残る感覚と、手を包む暖かさに、心臓がドキドキ爆発しそうで、落ち着かない。ドイツに勝ったことも、大会で優勝したことも薄れてしまうほど、胸が熱い。
「何だか夢みたいだよ」
いつもの騒がしい町並みなのに、歩く足元はふわふわしている。色々ありすぎて、処理が間に合っていない。
「俺の方こそだ。岬が同じ気持ちだったなんて」
繋いでいる手が振られる。若林くんらしくない子供っぽい仕種に、妙に嬉しくなる。
「もし優勝したら言おうって決めてた」
死に物ぐるいで戦った5日間だった。そして、若林くんへの想いに向き合い続けた5日間だった。
「それで、こんな素敵なご褒美がもらえるなんてね」
ギュッと握り込まれた手が熱い。それを意識するだけで、胸の中に暖かいものが満ちた。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
黄金コンビびいき過ぎる若林くんが好き。GKが若林くんだとすぐ助けに行く岬くんが好き。そんな気持ちで書きました。
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