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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
5日間の思慕(4)
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
4日目。


 フランス戦は長く苦しい戦いになった。僕も色々試合に出てきたけど、こんなに絶望的に感じたことはなかった。ピエールとの因縁がある以上、僕はある意味当事者だったから、余計にそう感じたのかも知れない。
 周囲がみんな敵に見えた。高い壁の中、10人で立ち向かう。早田くんの絶望を、若島津の痛みと三杉くんの苦しみが赤く滲む。それでも負ける訳にはいかなかった。ここで負けたら、みんなとはお別れだ。そして、若林くんは救われない。不意の雨に、延長戦に、僕は何度か小学生時代の決勝戦を思い出した。あの時は走ることすら辛かった。もどかしかった。でも、今日は走れる。自分の足で取り返せる!

「今日も頑張ったな」
今日も帰り際に若林くんが公園で待っていて、送ってくれると言ってくれた。若林くんの声がいつもに増して優しく聞こえるのは、僕がピエールとの対決を終えて、肩の荷を下ろしたからだろう。
「ありがとう。…大変だったけどね」
確かに、大変な試合だった。辛勝という言葉がこれほど相応しいことはなかった。満身創痍で延長戦を乗り切り、PK戦を制して、日本は勝った。若島津と三杉くんは、この試合で大会出場は終わりだと覚悟していたと後で聞いたけど、きっとそうだろうと思っていた。PKの時の二人の悲壮な覚悟は自ずと伝わって来た。その気迫に引きずられて、チーム全体にも重い緊張感があった。それでも、僕達は勝った。
「明日はいよいよドイツとだね」
「ああ」
若林くんの返事は鈍い。確かに、若林くんは複雑だろう。
「ねえ、若林くん」
街灯の並ぶ道で、若林くんは自然に歩道の車道側を歩いてくれる。守られるのはあまり好きじゃないけど、若林くんらしくて、今更咎める気にもなれない。そして、思う。君の守るべきものは、違うはずだと。
「いつも励ましてくれてありがとう」
言いたいことはたくさんあった。試合に出ることになったら観念してほしいとか、もっと正直な気持ちを言ってほしいとか。でも、追い詰めたくはなかった。
「岬」
若林くんは僕よりずっと背が高い。こうして並んでいても、見上げるしかない。
「明日…決勝戦が終わったら、少し会えるか?」
決勝戦。明日が終わればまた翼くん達とはお別れになる。小学生の時の決勝戦の朝、若林くんが戻って来てくれたのが心強くて、最後の試合を思い切り楽しもうと思ったことを思い出す。
「うん。良いよ。時間はまた知らせて」
毎日、会えた。こうして送ってくれた。毎日、励ましてくれた。優しくも厳しくも。改めてお礼を言う時間は僕にもありがたいことだった。
「それと、僕からも一つだけ。決勝戦、僕達に楽をさせてくれる気はあるの?」
おそらく若林くんは大会に参加する気はないのだろう。それでも、若島津の怪我はひどくて、明日は出場できない。
「小学生の時みたいに」
小学生の時の決勝戦、若林くんのいる試合はとても心強かった。それだけで志気が上がるということはないけど、安心して試合に臨める。
「お前も知ってるだろう?俺は…」
若林くんはそう言うだろうと思っていた。でも、僕は知っている。強敵と対戦する内に、チームのみんなの考えが変わっていったこと。若林くんが真剣に応援する姿に、気持ちが解れていったこと。
「じゃあ、僕は何も言わない。でも、待ってるよ。若林くん、また明日」
軽く手を振って、別れを告げる。アパートのドアを閉める前に振り返ると、若林くんは何か考え込んでいる様子だった。

(つづく)

拍手ありがとうございます。
Jrユース編を岬くん視点で書くと、若林くんを守りたいという気持ちが出過ぎて、いつも必要以上に男前になります。
若林くんが自分から動かない時期なのもありますが…難しい。
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