※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 「岬、よく来たな」 若林くんは言った。周囲には誰もいなくて、若林くんと二人で会うなんて初めてだと思った。 そもそもここはどこだろう?富士山は見えているけれど、南葛なんだろうか。 と思っていたら、景色は一変していた。この立派な門は…。 「修哲?」 修哲小学校には一度しか来たことがない。グランドに続く道には、桜が幹を連ねていた。ヒラヒラと落ちる花びら混じりの風の中、若林くんが手を伸ばす。 「岬にうちの学校の桜を見せたいと思ってたんだ」 確かに、南葛では桜を見ることはなかった。富士山の麓にまで広がる桜はまるで霞のようで、桜の春を逃した父さんはもったいないことをしたな、と思うくらい感動した。 「ありがとう、きれいだね」 桜の洪水の中、若林くんに言ったところで、目が覚めた。
懐かしい友達の夢で目が覚めるのは、初めてのこと。僕はあまり友達の夢を見ない方だ。夢を見たら、いっそう辛くなると、無意識で分かっているのかも知れない。 珍しいこともあるものだと、夢を思い出す。若林くんは、相変わらず大きかった。僕は多分今の僕で、ということは、若林くんが三年経った姿を想像していたようだ。大人だったな、と何だか悔しくなりながら、学校に行く支度をした。
「岬どうかしたのか?変な顔してるみたいだけど」 友達の田中くんに言われて、首を捻る。そう変な顔をしている自覚はなかったけど…。 「昔の友達に会う夢を見たんだよ」 広がる桜はまるで洪水で、見応えがあった。若林くんと一緒というのが不思議ではあったけど。 他の友達なら分からなくはない。同じ南葛でも、翼くんなら。 「岬くん、夢占いって知ってる?」 隣の席で話を聞いていたのか、山本さんに声をかけられた。 「聞いたことはあるけど…よくは知らない」 夢は見るものじゃなく、手に入れるものだ、と小次郎なら言いそうだ。…と考えて、柄にもなく感傷的になっている自分に気付く。ここは日本を離れて幾千里。普段封じている記憶の発端がほつれると、簡単に解けてしまう。意識的に山本さんの話に集中する。 「私もたまたま本で読んだばかりだけど。夢で会うってね、その相手も同じ夢を見ていて、本当に会っているみたいなものなんだって。覚えてなくても、同じ夢を見ているらしいわよ」 「えっ!?」 それなら、もっと他の友達の夢を見そうなものだ。若林くんとは、同級生にもなったことがないのに。 「そんなに親しくない友達なんだけど…」 そう言いながら、ふと前の席の田中くんの机の上に目が行った。広げられたままのサッカー雑誌。そこに映っているのは。 「もしくは近い未来に会うのかもね。魂が近付いている証拠らしいわよ」 山本さんの声に、胸がざわついた。…まさか、こんな近くにいたなんて。 「田中くん、この雑誌貸して」 雑誌に載っていたのは、若林くんだった。ハンブルクのジュニアチームに所属していて、先日フランスのジュニアチームと対戦して活躍した日本人、と記事には書かれていた。
起きた時に、懐かしさで胸がいっぱいになることはなかった。昨日会った友達に、今日も会ったような、そんな感覚だった。降る花吹雪、蒼い富士山。鮮やかな彩りの中、楽しく過ごした。
途端に会いたくなった。
ドイツは隣の国だけど、ハンブルクは決して近くない。それでも、会いたくなった。占いの類いを信じる方でもないけれど、乗ってみるのも悪くない。
そして、僕は友達に会いに行く。夢で見た通りに。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 友達の夢を見て、夢占いのサイトを見たら、書いてしまいました。 若林くんは度々岬くんの夢を見ていて、岬くんが若林くんの夢を見ても懐かしいと思わなかった、というオチです。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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