※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
「ゲンさん、また新しいのを連れてたな」 カルツは誰に言うともなく呟いて、普段はあまり表情の判別がつかないと言われているとは思えない程、あからさまに呆れ顔になった。 カルツのチームメイトの若林は日本人である。サッカーではまだまだ遅れているアジアの片隅出身の割に、体格も大きく、サッカーテクニックもセンスもずば抜けたキーパー、そして、日本人のことをよく知らないカルツでも違和感を覚える程、はっきりモノを言い、アニメ好きでもなく、態度は尊大不遜というべきか堂々としているというべきか、とにかく一般的な日本人のイメージをことごとく裏切る男だった。 そして、それはこの男の漁色家ぶりにも言えることだ。若林は入れ食い状態なのを良いことに、次々と女性を食い散らしていた。しかも、アジア系ばかり。
以前に、不思議に感じたカルツが尋ねたことがある。すると、若林は笑ってみせた。 「日本の有名な文学に『舞姫』というのがあるんだが、ドイツに留学してきた日本人がドイツの女性と恋仲になって、色々あるが捨てる話だ。ドイツの娘だと、どうもその話を思い出してな」 作品のモデルとなった女性も見つかったらしいとか、情報を付け加える若林に、カルツはそれが今の所業とどう違うのか知りたいと言いたかった。 若林は釣った魚には餌をやらない。気まぐれに釣っただけだからと、餌も遣らずに放り出すため、それでは魚も死んでしまう。まして、かりそめの愛など更に儚い。 そんな中、少しだけ続いた相手もいた。カルツにはアジア人の見分けなどつかないが、若林は日本人ではないと言っていた。小柄な笑顔の可愛い子で、三ヶ月位はもった。そして、いつのまにか姿を消した。 「何か違う気がしてな」 問い詰める、程ではないが尋ねたチームメイトに、若林自身疲れたような表情で話しているのを見てからは、カルツもそのことに触れるのはやめた。 今回の子もいつまでもつだろうかと思いながら、カルツは憂いた。それが気の毒な少女のためか、おかしなチームメイトのためかは分からないが。
通り過ぎようとしたカルツに声を掛けて来たのは、若林の方だった。 「おい、カルツ」 こういう時には、見なかったふりをして通り過ぎるのが常だった。少なくともカルツは、一度若林に睨まれてからはそうしている。若林の連れの女性が目敏くカルツに気付き、声を掛けたがることはあっても、若林から声を掛けて来ることはなかった。 カルツは不審に思いながらも、若林に近付いた。そして、若林が相手を紹介するつもりだと分かり、更に驚いた。 「岬~~カルツ~。カルツ、こっちは昔同じチームだった岬だ」 カルツに分からない前半は、日本語なのだろう。そして、てっきり新しい彼女だと思った相手は、男だったようだ。小柄で華奢で整った顔をしてはいるが、確かに、服装はシャツにズボンだし、履いている運動靴のサイズも小さくはない。 それ以上にカルツが驚いたのは、若林の声だった。ミサキ、という相手に呼び掛ける声も、ミサキ、という名を口にする時の響きも優しい。そして、カルツ程でないにしろ、実年齢よりも老けて見られる若林らしくなく、優しい微笑みを浮かべている。
「岬はMFなんだ。カルツ、ちょっと相手してやってくれ」 笑顔で言う若林に勧められるままに、カルツは岬とボールを追った。少女にしか見えない可愛い顔に似合わず、岬はなかなかスピードがあり、テクニックもあった。サッカーの盛んなドイツで生まれ育ったカルツから見ても、岬は日本人にしては相当だった。 「ミサキはなかなかやるな」 「岬は俺の知る同年代では最高のMFの一人だからな」 岬を褒められ、自分のことのように笑う若林は、カルツの知らない男のように見えた。翼の話は何度も聞かされたカルツだが、岬については聞いたこともなかった。 「特に、翼と岬のコンビプレーはすごくてな。岬が引っ越してからは、所在が分からなくて、心配したんだ」 嬉しそうに笑う若林に、カルツは何故か胸に詰まったものがすとんと落ちるような気がした。
ゲンさんはこいつに惚れてるな。
そう鋭くないカルツにも分かった。
ニコニコ笑う岬を、まるで眩しいもののように眺める若林に、そりゃ違うはずだ、とカルツは思う。好きな相手の面影を追うようにして、他の相手と付き合っていれば。
翌朝、若林と顔を合わせたカルツは、当然岬のことを話題に上げた。家に泊まった岬を駅まで送ってから若林が来た以上、当たり前の社交辞令のつもりだった。 「若林、昨日はミサキが来てくれて良かったな。で、付き合うのかよ?」 カルツの認識はそうだった。とうとう本命に会えたのだから、当然口説くものだろうとばかり。だが、若林の認識は違っていた。 「はあ?」 聞き返されたカルツの方が、困った顔をしていたに違いない。若林はカルツの疑問に答えるべく、話す。 「岬は男なんだぞ。顔は可愛いし、性格は優しいし、サッカーはうまいし、料理もうまいし、本当に可愛いんだが…」 外見だけでなく、内面にまで称賛の言葉を連ねる若林に、カルツは困惑せざるを得ない。男同士だから、と言いながら、若林は岬自体に対する好意を隠していない。 「…前のユウ、だったかいう子は、ミサキによく似ていたと思うんだが」 苦言を呈する程の意志はない。ただ、思いついたまま、つい口にしてしまったカルツに、若林は一瞬目を見開いた。 「そうか…それは違うよな」 ぼそっと呟いた言葉は、若林が自分の誤りに気付いた証拠だった。
カルツはまだ知らない。来る者拒まずに見えた若林が好きな相手には一途であることも、百戦錬磨で入れ食い状態だったくせに、身持ちの固い本命相手には苦労することも。 ただ、二人が幸せになったことは、カルツの予想通りだった。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 みちんこ様のアイデア「岬ちゃん似相手の子と付き合う若林くん」「百戦錬磨の若林くん」で書いたものです。 若林くんがすぐに岬くんを口説く話にしようかと思いましたが、カルツを書いたら楽しくなって…。 現在、グラジャンではドイツVSブラジル戦の真っ最中。という訳で、今日の更新はこれに。 頑張れ、カルツ。
キリ番140,000が近付きましたので、お知らせします。 キリ番踏まれた方がおられましたら、リクエスト応じます。 内容はもちろん源岬のみです。あまり過激なものは書けませんが。 それ以外なら、当方トラウマ持ちですので、源岬の二人が絡まないCPなら相談に応じます。ご連絡先をお教えください。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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