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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
バスの中
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

「このバスはどうかと思う」
それを言ったのが松山でなければ、たとえば新田なら、たちまち非難を受けていたかも知れない。だが、誰かが言い始めるのは時間の問題だった。
「ちょっと狭いし、シートは固いし…降りた途端にストレッチしないとな」
松山が言うように、バスはあまり上等とは言えない。シートの固さもさることながら、クッションが良くないのか、道路の状態が悪いのか、やたらと振動が伝わるし、おまけに狭い。スポーツ選手の移動用のバスとしては、致命的である。
「じゃあ…とりあえず、組み合わせを変えようか」
それを受けて実行するのは三杉である。以前のようにコーチ兼任ではない、一介の選手の立場であっても、周囲の安全管理に努めるだけの甲斐性がある。
「次藤くんの隣が佐野くんだったら、狭くないだろ?」
その言葉通り、次藤が思い切り占領したシートの隙間に収まった佐野は、それでも幸せそうだ。座席表を慣れたボードに挟むと、三杉は頭の中の選手データを元に、すばやく車内整理を行い、若島津の横に新田を、松山の隣を早田から石崎に変えて、窮屈感のないようにする。そして、自分の隣に座っていた岬に最後に声をかけた。
「岬くんは、若林くんの隣に座ってくれる?」
三杉の言葉に、岬の顔に一瞬緊張が走り、何か言いたそうな顔をしたものの、それから、何事もなかったように笑顔に戻って、岬は若林の隣に移動した。他の者が、早田でさえ文句なく従っているものを、自分の感情で覆すようなことはしない岬である。許されるのであれば、三杉の澄ました頬を張ってやりたいと思わずにはいられない。いくら知っているのが三杉と若島津くらいだからといって、人目を忍ぶ恋人とこんなところで二人にされるなんて。
「いらっしゃい」
迎える側の若林が喜んでいたのは、言うまでもない。独り席だったのが、隣の席がふさがることで、狭くなるには違いないのだが、可愛い恋人と思いがけず触れ合える方が、ずっと価値がある。
「お邪魔します」
他人行儀に言って、岬は笑いもせずに座った。岬としては、こんな公衆の面前で若林と隣り合うのは、少々気恥ずかしい。会話をしないのはおかしいし、かといって、話せばおそらくいつもの雰囲気が出てしまう。
「何だ、岬。もう少しこっちに来ても良いぞ」
今にも肩に手を伸ばし、抱き寄せそうな勢いの若林に、岬は少しだけ怖い顔をしてみせる。だが、幼児が駄々をこねたところで、大人からすると、可愛いとしか見えないように、岬がいくら渋面を作ったところで、普段あまり会う機会自体少ない若林にしてみれば、目の前で岬が動き、岬の貴重な表情が見られるのだから、文句のつけようがない。
「…というか、このシートが固いよな」
そりゃ、贅沢になれきった殿の感覚ならそうだろうと話し声を漏れ聞いた周囲が思う。だが、その殿の所業は、その周囲の予想を遙かに超えていた。
「俺の膝の上に座れよ」
岬の腰を慣れたしぐさで掴み、ひょいと持ち上げて、自分の膝に乗せるという荒技に、岬は「きゃっ」と何ともか弱い声を上げてしまった。いつものことだから、予想はできていたはずなのに。
「いやいや、おかしいから」
周囲の注目を浴びている自覚はある。立花兄弟など、身を乗り出して見ている。
「お前を守るのも俺の仕事だろ?」
「君はゴールだけ守って」
しかも、お尻は確かに守ってくれているが、背中や腰に手を回して、そちらは守るどころか、本当に危ない。
「つれないこと言うなよ。俺とお前の仲だろ?」
岬が身をよじる度に、さらさらした髪が揺れる。その香りを思い出し、若林が掴んで嗅ごうとしたところで、岬は正気に戻った。
「何がそんな仲だよ。というか、君この状態で何する気だよ」
狭い狭い移動バスの中、隣のシートにも前後のシートにもチームメイトがぎっしり詰まっている。
「まあ、それは後の楽しみにしておいてやろう。こんな狭いところじゃ無理だしな」
「だから、何をする気だったんだよ!」
岬はつい声を荒げるものの、その岬の様子自体が周囲の好奇心を煽り、注目を集めた上に、「ああ、やっぱりできてんのか」という反応を引き出しているとは当人は思っていないのであった。


(おわる)

拍手ありがとうございます。
夏コミ特化のツアーを利用したんですが、バスが夜行用ではなく、どう見ても観光バスで左右も前後も狭くてシート倒せない、隣の人はお尻が痛いとうめいている…という悲劇の中、思いついた話でした。
上等の肉座布団の上に鎮座した岬くんのお尻が痛くなるのは、後々の話でございます。(書く予定はございません)
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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