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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
寄せ書き
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

「この写真!」
岬はソファーに座る前に、ボードに飾っている写真に歩み寄った。

 予告もなく急に現れた岬に驚きながらも、嬉しい気持ちは抑えられず、話し足りないからと家に呼んだ。
「ああ。あの時の写真だ」
優勝した後、岬の転校前にみんなで撮った。翼も渋々出て来ていたな。その割には、額の怪我の治った岬とはしゃいでいたが。
「懐かしいな…」
感慨深げに眺める岬に近付き、その隣にある帽子を指差した。
「こっちは初めて見るだろ?」
「これ、もしかして寄せ書き?」
岬の時はボールに寄せ書きした。俺が見た限りでは、解読不能な文字もあって、読むのはなかなか骨が折れたんじゃないだろうか。
「ああ。お前以外はみんな書いてくれた」
もらった時から言われていた。前の寄せ書きのことが記憶にあるからだろう、みんな岬がいないことを改めて思い起こしていた。
「僕も書いた方が良い?」
首を傾げ尋ねる岬に、もちろん、と帽子を渡す。さすがに愛の言葉を書いてくれることはないだろうが、岬が俺に何を書いてくれるかが楽しみだ。
「こっち見ちゃダメだよ」
口調だけでも、岬のいたずら心が発揮されているのが分かる。どんな顔をして書いているのかだけでも、見たいくらいだ。
「ねえ、若林くん」
振り返れない後ろで、岬が言う。
「僕の寄せ書きに何て書いたか、覚えてる?」
忘れる訳がない。岬のためのボールを前に、何を書こうか迷った。

また会いたい
好きだ
また戻って来い

 色々脳裏に浮かばなかった訳ではない。それでも、岬に公に投げかける言葉は一つしか残らなかった。
「おれも旅立つ、だな」
「うん。意味が分からなかった」
旅立つ岬に、ここから去って行くのはお前一人じゃない、だから、いつまでも仲間だと伝えたかった。そして、俺も大きく成長するつもりだと言いたかった。
「…悪かったな」
「でも、一番気になったよ」
反対側を向いている岬の表情は見えない。見えないから、余計に知りたくなることもある。
「ほら、書けたよ」
振り向いた岬は笑顔だった。あの声色から想像した、切なさは見えない。
「僕も旅立つ、って何だ、これは」
「対にしておいた」
朗らかに笑い声を上げ、岬は俺の頭にもう小さくなったキャップを被せた。

 岬は不思議な奴だ。突然現れて、俺の心を全部引っつかんで、突然いなくなる。突然現れるくせに、側にいる誰よりも俺の心を知っている。…今度も、岬は全部知っているような気がした。俺が言い切れなかった、あの時の気持ちを。

 多分初恋だった。三年前の淡い想いに過ぎないはずが、こうして目の前で笑う岬に、胸は落ち着かない。
「ありがとうな。でも、文字数の割に時間かかってないか?」
そう尋ねると、岬は瞬きを二度して、それから顔を赤くした。
「…思いつかなかったんだよ、寄せ書きなんて初めて書いたんだから」
岬はいつも送られる立場だった。その岬が「僕も」と書いてくれたのなら、俺の言葉にも意味があったことになる。
「そうか、それは嬉しいな」
キャップを取って、岬の書いてくれたつばを見直す。
「あまりジロジロ見ないでよ、恥ずかしいから」
「うまく書けてるぜ。俺の書いたのを覚えてくれていたのも嬉しかったし」
わざと岬を覗き込むように言うと、岬は体を捻って、俺の視線から逃げる。
「…あんな気になることされたら忘れる訳ないじゃないか」
少し唇を尖らせた横顔に、期待がよぎる。
「それなら書いた甲斐があったな。俺も変わりたくなったんだ」
翼が現れ、岬と出会ったあの夏は、目まぐるしい日々だった。それでも、輝いていた。あの夏の空の眩しさと共に、思い出の中のあの夏はいつも輝いている。
「僕もだよ。もっと遠くにいけるんだって信じられた」
呟いた岬に、なるほど僕も、だと思った。やっぱり岬は分かってくれていた。
「キャップありがとうな。大事にする」
「こちらこそ。…あのボール、ありがとうね」
あの日、石崎に急かされながら、文字を書いた。まだ十分ではない足を恨みながら、走って行く石崎を見送った。あの夏は、そんな苦さをも思い出させる。まさか、その先でこんな出会いがあるとは。
「これからもよろしくな」
もし、また会えるなら。言おうと思っていた言葉もあった。幾つもあった。それはまだ先でも良いと、楽しそうな岬を前に思う。初恋は今でも甘くて苦い。いつか熟す時が来ることを願いながら、岬と握手を交わした。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
あのキャップに岬くんにも寄せ書きしてほしいな、と思ったのですが、肝心の書く内容が思いつかず。
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