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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
友達(後)
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。



「岬の部屋に行って良いか?」
明日休みだと話すと、若林くんはそう言い出し、結局僕の家に招待することになった。ピエールに知られたら、きっと良い顔をしないだろうけど。

 以前、付き合ってた頃に、若林くんが泊まりに来たことがあった。父さんも一緒にご飯を食べて、それから若林くんとソファーで雑魚寝して、夜通し話した。子供の頃は友達が泊まりに来てくれるのが夢だったから、感動したのを覚えている。…好きな相手だから余計に、嬉しかった。
「散らかっているけど、良い?」
僕はまだ、父さんと暮らしていたアパルトマンにそのまま住んでいる。最初は父さんに家賃の一部を出してもらっていたけど、今では何とか自活している。
「どこがだよ。俺の家も片付けて欲しいくらいだ」
若林くんは僕のお気に入りのソファーに座って、僕のお気に入りのクッションにもたれて笑っている。この家に人が来ることなんかないから、それだけで嬉しい。
「ご飯、何が良い?」
「和食なら何でも良い」
冷蔵庫の中身を考えて、肉じゃがにすることにした。それにご飯を炊いて、玉子焼きを作る。それと、キャベツのお浸しにキュウリもみ。和食ではあるけど、質素きわまりないメニューだった。それでも若林くんは随分喜んでくれた。
「キャベツもこうすると和食だな」
「有り合わせでごめんね」
冷蔵庫の中身が充実して良かった。そういえば前の時も、若林くんは和食をリクエストしていたような。

「いや、うまかった。家庭料理って感じで、俺は好きだ」
若林くんはその気はないんだろうけど、好き、と聞いただけで僕の胸の中で何かが膨れ上がる。
「それはありがとう」
さりげなく振る舞えたかどうか。赤くなってしまった顔を隠すように、立ち上がった。
「岬」
若林くんは立ち上がると、僕の目の前まで来た。
「好きだ」
急に抱きしめられて、声も出なかった。
「わ、若林くん!?」
もがく僕の手を掴み、ソファーに座らせると、若林くんは僕の顔を上に向けた。

 キスされたと気付いた時には、唇の感触だけでなく、触れた肌の熱さにものぼせそうになった。それでも、抗わずにはいられなかった。自分では突き飛ばしたつもりだったけど、若林くんは数歩退がっただけだった。
「僕達は別れたじゃないか!別れたのにキスするなんて、おかしいよ」
責めるつもりも詰るつもりもないのに、涙が出た。冷静さを失うだけでも恥ずかしいのに、泣いたりするのは卑怯だと思う。
「俺はお前を諦める気なんかない!」
若林くんは僕の腕を掴み、離してくれそうにはない。
「じゃあ、どうして別れたの!?」
別れようと背を向けた僕に、若林くんは分かった、と言っただけだった。ケンカにもならなかった。
「俺がまだ冷静な内に、お前から離れてくれるなら良いかと思った」
若林くんの話は、混乱した頭に入って来ない。
「とりあえず、座ってゆっくり話そうよ。紅茶いれるね」

 紅茶をいれる間も付き纏ってくる若林くんに、頭の中は疑問符だらけになる。それなのに、どんどん鼓動は激しくなっていく。冷静さなんかとっくになくなっていた。
「座っててよ。逃げないから」

「岬がこっちに残るって言い出した時、俺のこと頼ってくれないんだなって思ってな」
「うん、それは聞いた。でも、ここ半年でそうでもないって思っただろ?」
若林くんと再会してから、色々相談もするようになった。チームの仲間に聞きにくいことや、ニュアンスの伝わりにくいことは、若林くんがいてくれて助かった。
「ああ。チームとの交渉のこととか、代理人のこととか色々聞いて来てたしな。だから、早まったことしたな、とは思った」
「そうなんだ?」
…そんな風に思ってくれてるとは、思ってもみなかった。嬉しい気持ちを隠して、素っ気なく相槌を打った。
「本当はあの時お前を監禁しようかと思った」
「…」
今、すごく怖いことを聞いた気がする。聞いちゃダメな単語があったような。…聞かなかったことにする。
「でも、俺はサッカー選手としての岬のファンでもあるからな。それで、諦めようと思った」
「じゃあ、どうして…」
別れた理由は理解できる。僕も頑なだった。でも、若林くんが僕のように別れた相手をグズグズ引きずるとは思えない。それだけに、どうして諦めずに、フランスまで通ってくれていたのか気になった。どうしても、それが聞きたい。
「チームのアルの誘いで、カルツと遊びに行ったら、シュナイダーとピエールも来ててな。それで、ピエールにお前の様子を聞いたら、怒り出したんだ。お前が元気がないって」
「ピエールがそんなこと…」
いつもいつも怒っていたくせに。ピエールはドイツ語も得意だし、シュナイダーとも交流があるとは知っていたけど、若林くんと会ってたなんて知らなかった。
「その時に、シュナイダーが、岬は諦めてるからヨリは戻らないって言い出してな」
…シュナイダーならそう言うだろう。「お前は諦め慣れているだろうが、ワカバヤシは諦めたことなんかない、だから別れるつもりなら、徹底的に逃げるしかないぞ」と謎の助言をされたことがある。その時は別れるつもりなんてないよ、と言っていたけれど。…確かにシュナイダーの言葉は正しかったみたいだ。この情熱に、早くもほだされそうになっている。
「それで、ピエールが賭けるって言い出して、ヨリを戻す方に賭けた」
多分そんなに大きな金額じゃないとは思うけど…みんなで人をネタにして、一体何してるんだよ。
「それからピエールは色々手を貸してくれてな」
若林くんと別れた時、周囲に心配をかけたくなくて、ポーカーフェイスを装っていた。それでも最初に僕の様子に気付いて、相談するように言って来たのは、ピエールの方だった。…その時に気付いたのかも知れない。でも、ピエールはずっとよりを戻すのを反対してたのに。
「ピエールは、岬は諦めるつもりだが、まだ未練たらたらだから、押せって言って来たぜ。自分からアドバイスしたら意地張るから手は貸さないとか言ってたけどな。そんな話の合間に、アルの集めた女の子をほとんど掻っ攫っていった」

 怒って良いのか呆れて良いのか笑って良いのか、途方に暮れる。まさか、ピエールの差し金だとは思わなかった。僕が元気ないとつまらないから、と励ましてくれて、慣れたとはいえ、異郷に暮らす僕には、心強かった。
 それでも、よりを戻せとか言われたら、反発してたと思う。…性格をすっかり把握されてる。
「それで、お前の試合見に行って…確かに元気はなかったが、落ち着いていて、良いプレーだった。…惚れ直した」
話している若林くんの横顔を眺めた。男らしく整った、大人っぽい顔は見飽きることがない。…友達だと思うから、こうして安心して眺めることもできるけど。
 と思ったら、最後の一言にやられた。本当に、相変わらず予想外の口説き方をしてくれる。だから、僕はいつも振り回されるし、敵わないし…心を乱される。
「それで、こうして会うようになったら、やっぱり諦められなくてな。一緒にいると楽しいし、お前のことばっかり気になって目が離せなくなった。それに、二人きりも嫌がられないから、お前もきっと同じだと思った」
…確かにそうだ。友達に戻った、とか言うなら、二人だけで会うのはおかしいのかも知れない。しかも、こんな風に僕の家で。
「それで、お前はどうなんだ?」
僕は。シュナイダーの言う通り、諦める癖はある。必要以上の希望は持つべきじゃないと学びながら育った。でも、ピエールの言う通り、未練はあった。友達としてでも一緒にいたくて、求められる通りに応えた。
「好きだよ。忠告してくれる友達の目を盗んで会う位には」
「十分だ。…付き合ってくれ」
返事をするまでもなく、抱き寄せられた。恥ずかしくなる位に何度もキスされ、頭が蕩けた。
「ちょっ、僕まだ返事してな…」
だんだん深くなるキスに、僕の言葉も掻き消された。…今までこんなことされたことはなかった。
「二度と別れるなんて言わせないようにしてやる」
呟いた若林くんの口調も今まで聞いたことのないものだった。背筋に冷たいものが過ぎり、僕は震えたまま抱き上げられた。行き先は自分のベッドだと分かっていても、怖い。
「あの、若林くん?僕、二度と別れるなんて言わないから…」
さっきも怖い言葉を聞かされたような。続けてこれはちょっと…。
「当たり前だ」

 …自分の選択をこんなに後悔したのは二度目だ。一度目は若林くんと別れた時、二度目は今回。こんなに大変な目に遭わされるとは思ってもみなかった。
 
 目は覚めたけど、体力の限界で身動きも取れない。僕も体力がある方だけど、若林くんとは比べものにならなかった。若林くんの姿は見えないけど、起きる気配があったのはさっきだから、顔でも洗っているのかも知れない。
 一方僕は起き上がるのも辛い状態だ。仕方なくじっとしていたら、携帯電話が鳴り出した。しかも床で。昨日カーディガンのポケットに入れていたから、ベッドで服を剥ぎ取られた時に落ちたらしい。拾い上げて見ると、ピエールからだった。
 昨日、人の恋愛をネタに賭けていたことを知ったばかりだ。そして、若林くんに助言をしたことも、僕に助言をしなかったことも。
 鋭くて、優しい友達。
「おはよう、ピエール。どうしたの?」
普通に出たつもりだったけど、ピエールは電話の向こうで驚いたようだった。
「ミサキ、ひどい声だが、大丈夫かっ!?」
確かに、こんなに声が掠れるのは、風邪を引いた時以来だ。
「…若林くんから聞いた。色々ありがとう。ちょっと動けないだけだから、大丈夫」
「…分かった」
ピエールの声こそおかしかったような気もしたけど、まだ動けそうになかった。それでも、ピエールの声を聞いて安心したのか、僕はそのまま目を閉じて、眠り込んでしまったらしい。

 それからしばらくして、うちに押しかけて来たピエールが、先に起きて朝食を作っていた若林くんと大喧嘩をするという椿事で起こされることになるとは、僕は予想もしていなかったのだった。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
友達というより保護者のピエールを。一度別れたショックでヤンデレ入っている若林くんを書きたかったのですが、ピエールばかりが目立つ結果に。ある意味タイトル通り!
ピエール&岬は甘い友情だと思います。岬くんは友達みんなに甘やかされていそうで、若林くんには悪友やらが多そうだと思っています。
 そんな、べったり甘い友達関係と縁のない若林くんも、友達時代から岬くんには甘そうで、その延長上の恋人関係が甘くなるのも当然かと。源岬が甘い理由の一つとして、挙げておきます。
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