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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
勇者と魔王(後)
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
パラレル注意



 また可愛がる、と魔王は言った。魔王の戯れ言を真に受けるつもりはなくとも、じっと見つめられるのは居心地が悪い。ミサキは後ずさりしたい願望に駆られながら、前を見据える。
「どうした、かかって来ないのか?」
煽るような言葉にも、すぐには踏み込めない。隙のない様子を窺いながら、ミサキは息を整えた。
「やあーっ!!」
渡り合うこと数合。振り上げた剣も、その度に弾かれた。魔王からの剣をかわしはしたが、その攻撃が本気のものとはとても思えなかった。自分の技量を見誤るミサキではない。以前まみえた時には、恐ろしく長い剣を切っ先も見せずに繰り出していた魔王の剣筋。それが急に見えるようになったのは修練の成果だとはとても思えなかった。
「手加減するなんて、余裕があるね」
向けられた剣をかわしながら、魔王を皮肉った。
「傷ひとつ付けずにさらってやる算段だからな」
本気か空言か分からない言葉に、釣り合うような表情で魔王は笑った。
「ばかなことを!僕は勇者だよ」
性質の悪い冗談として魔王の言葉を一笑に付すと、両手が利き手なのを活かし、ミサキは盾を持つ手に短く握った小刀を繰り出した。
「あっ」
鋭い小刀が肌の上を滑り、かえってそのまま掴まれる。勢いのまま引き倒されて、床に押し付けられた。
「そう言うなよ。こうして会いに来てくれるのはお前だけだ」
ゆっくりと迫る手。片手で完全に動きを封じられ、身じろぎをするのがやっとだった。
「会いに来ている訳じゃない」
「それでも、ここまで来られるのはお前だけだ」
ミサキの脳裏を過ぎったのは、城を目前に進めなくなった仲間達だった。そして、遮る者ひとつなかった迷宮。
「俺の魔力が強すぎて、誰も近付けない。この城にいるのも俺とお前の二人きり」
低く響く声は奇妙に甘く、ミサキは胸の痛みを感じた。胸の奥の疼くような感覚に、禁忌に触れてしまった錯覚に陥る。
「どうしても僕が倒すしかないということだね」
「ああ、逃げたければな」
捕まえた獲物を逃がしはしないと押さえ付ける腕は圧倒的で、抗うこともできない。まだ大人に成り切らない細い首に手を掛けて、魔王は洪笑する。
「殺せば良いだろ」
「殺してやると思うか、俺が?お前は俺を殺すしか逃げられないぞ」
首筋に唇を当てられ、ミサキはびくっと身を震わせた。震えながらも気丈に睨んで来る勇者に、魔王は微笑む。
「相変わらず意地っ張りだな」
喉を押さえていた手に、不意に頬を撫でられて、ミサキは身を固くした。強張る腕で払いのけようとしても、元々力の差が大きい上に、押さえ付けられていては無力な足掻きでしかなかった。
 押さえ付けられた身体に寄せられる唇。太い指が鎧を剥がされた肌を滑る度に、力が失われていくようだ。甘くなる息遣いを気付かれまいと、ミサキは唇を噛む。
「声を出しても泣いても良いんだぞ?」

 光の射さない薄暗い部屋に、ミサキの肌は更に白く見える。もう身を守る防具はなく、魔法力も尽きた。痛いほど擦られた肌に付けられた赤黒い痕は、まるで魔王の所有印。
「…」
足どころか指先一本も動かせないことに焦りながら、ミサキは視線を走らせた。背を撫でる手は慈しむかのように優しく、ミサキはかえって鼓動が激しくなっていくのを感じた。憎むことすら許さない手に翻弄されながら、夜は過ぎた。


 昼と夜の区別すらない城の奥で、屍のように力ない体をまた貪られる。終わりのない夜と朝に、逃げ場のない檻の中、囚われの身のミサキは膿み疲れていた。
 逃げようとすれば、手足を切るとまで脅された。
「俺はお前がここにいてくれるだけで良いからな」
魔王のただならぬ眼差しを見れば、全くの嘘ではないと分かる。逃げるための、否戦うための手足を失う訳にはいかなかった。それでも、えぐられるように苛まれた内腑は痛み、立ち上がることすら叶わない。
「起きたか?」
ミサキが目を覚ましたことに気付き、魔王も身を起こした。ミサキが気付いた時には、王座の間から豪奢な寝台に移されていて、天蓋の向こうは更に分からなくなった。本当に世界に二人しかいなくなったとしても、自分にはもう分からない。そう思えば、ミサキの背を冷たいものがよぎる。
「食えるか?」
「何とか」
昔の自分ならとうに死んでいた、とミサキは確信している。あれだけ鍛えた体さえ、夜の魔王の相手は勤まらず、最初に貫かれた時には息絶える寸前だった。それから何度も魔王に壊され、回復させられて生かされている。世界中を焼き払う力を持つ魔王が、勇者であるミサキを生かす意味はミサキ自身分からない。その上、食事まで運ぶ魔王の意図は知れない。
「早く殺せば良いのに」
何度抱かれても、回復されても、食事を運ばれても、ミサキは決して心は許さないでいる。抱き込もうとする腕を逃れて眠り、慈しむように優しい手には、背を向けた。
「そんな勿体ないことをする訳がないだろう?この世で俺が触れられる生あるものはお前だけだ」
それならこの執着も分からないこともない。ミサキ自身は仲間以外には特別な存在を持ったことはない。今の仲間に会って、そういう相手のいる幸せを、ようやく知った。そして、その相手を欠いていた魔王が、己以外の存在に飢えていたのは確かだった。
「じゃあ好きにしたら良い」
魔王がここに足止めされている間は、仲間に立ち向かい得る敵など存在しない。ミサキは冷静に判断する。それは、ただ殺されるよりも正しい勇者の在り方だ。
「どうせ、足止めとか思っているんだろうが、ありがたいことだ。お前のきれいな身体をあまり傷付けたくはないからな」
白い敷布の上に無造作に投げ出されていたミサキの足を、魔王はゆっくりと撫で上げた。
「きれいな訳がないよ。随分怪我もしてきた」
世界を救うために剣を取った時に、己が身命は諦めた。ミサキの全身には細かい傷や疵がいくつも残り、焼け焦げた跡まである。
「だが、あんな耳飾りよりはずっと良い」
ミサキが王様から受け取った防具の耳飾りは、すぐに奪い取られている。ミサキ自身も、路銀に困った時のために受け取ったものだからと、逆らいはしなかったが。
「お前みたいにきれいな奴は見たことがなかった。まっすぐに俺を目指して来るお前が、俺の運命の相手だと気付いた時には、ゾクゾクした」
魔王と勇者という立場を弁えない、普通に口説いているような台詞に、ミサキは驚いて魔王に目を向けた。
「何を言って…」
魔王はミサキの疑念に応えるように、手の中に水晶玉を呼び寄せた。
「見てみろ」
水晶玉の中には世界があった。ミサキの訪れたことのある世界、知らない世界が映し出されていた。そして風景は変わり、映ったのはかつてのミサキと仲間の姿だった。通りかかった村で、子どもがくれた花を、ミサキは笑って受け取った。それをからかう仲間たち。
「…」
今では夢にも思えるほど楽しく、懐かしい旅だった。仲間と笑い合う自分の姿に、ミサキは泣きそうになるのを堪える。
「ここでは笑うお前を見たことがない」
当たり前だとミサキは思う。ミサキは誰に対しても笑う、とコジロウは呆れていたが、その誰、には魔王は含まれない。
「敵に笑いかけることはないよ」

 それがきっかけになると、ミサキは思っていなかった。
 人間が禽獣を弑し、その肉を食んで命を繋げるように、強いものが弱いものを奪い、貪るだけの行為だとしか、ミサキは思っていなかった。魔王の思いの吐露も、悪夢のような戯れ言としか思えなかった。

 抱くというよりは食い荒らした後、動けないミサキをいつものように回復させながら魔王が言った。
「勇者、世界を半分やるから、お前をくれ」
劣情と呼ぶには激しすぎる情愛をぶつけるように、手ひどく扱われた体は動くことさえ辛い。ミサキは首だけを動かして、寝台に座り自分を見下ろす魔王を見遣る。
「こんなに好き勝手しているのに?」
触れられていないところはない。闇の中でも互いのかたちが分かる程、何度も繋がった。ミサキの問い掛けに、魔王は目を閉じたまま嘆息した。
「敵でなくなれば、笑いかけてくれるのだろう?お前は」
ずっと人間の自分と体を繋げていたせいで、魔王もまるで人のような感傷を抱いたらしい、とミサキは思った。絶対に心までも喰われることはないと、意地を張った自分の心が勝ったのだとは思えなかった。
「…半分じゃなくて世界を諦めてよ。それと」
ミサキは半身を起こし、腕だけで進むと、もう既に頷きかけている魔王の膝に頭を預けた。
「僕が死ぬ時に君が一緒に死んでくれるなら、良いよ」
水晶越しではなく、初めて見るミサキの笑顔に、魔王は魅入った。それが人間の言葉では心中ということは知らなくとも、とても美しい行為に思えた。元より、勇者がいなくなってなお生き延びようとは思わない。ミサキがいるだけで、空虚だった心は満ち足りている。ミサキが笑ってくれるなら、あれ程憎んだ世界すら許せるだろう。
「ああ。それで良い」
魔王の腕に抱かれながら、ミサキは心の中で仲間に詫びる。

 もう二度と戻ることはできない。この体も心もあげてしまうから、せめて平和な世界をあげるよ。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
魔王が「世界を半分やるから降伏しろ」と言う、ゲームの古典的な設定から、こうなりました。
最初は前世で恋人だった設定等を入れていたのですが、湿っぽくなってきてやめました。ミサキしか近付けない設定はその名残。
勇者ミサキの割り切りの早さに加えて、魔王ワカバヤシの尽くしっぷりから分かる通り、以後は恐らくとても平和に暮らしていそうです。これだから源岬は。
ちなみに、ミサキのパーティーは剣士コジロウ、武闘家ケン、賢者ジュンジュンという4人組。
あと、以下は最初考えていた設定。勇者ツバサ最強設定だけは残しています。

<設定>
「悪夢」シリーズの二人の転生後。魔法使いのミサキは戦士のワカバヤシを庇って死に、ワカバヤシもその後すぐに戦死している。世を呪いながら死んだワカバヤシは魔王に転生し、記憶が朧げにあるが、転生を繰り返したミサキにはほぼなし。
魔王ワカバヤシに近付けるのは、ミサキのみ。
ちなみに、この世界にはツバサがいないため、ミサキが勇者。その後魔王は勇者の寿命と共に姿を消す。
二人が次に転生したのが、勇者の憂鬱シリーズで、二人はとてもに幸せに。
ちなみに、今回のターンで勇者ツバサが生まれていた場合、ミサキは魔法使いで、闇へのジョブチェンジも可能だったが、魔王はツバサに倒されたはず。勇者ツバサ本当に強い。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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