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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
勇者と魔王(前)
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
パラレル




「待っていたぞ」
目の前に現れた勇者の姿に、魔王は口角を上げて、笑みを刷いた。凶悪な牙や角があっても、なお人好きのする笑みに、何より自分に向かって伸ばされた手に、勇者は一瞬怯み、そして剣に手を掛けた。
「今日こそ倒す」
甲冑に身を固めているものの、端正な顔立ちや華奢な体躯までは隠せない。鎧よりは花の似合いそうな顔に似合わぬ強気な表情を浮かべ、ミサキは剣を構える。
「俺はお前のことが気に入っているんだがな」
魔王ワカバヤシは勇者ミサキの気迫に動じる様子もなく、かえって手招きする有様だ。
「また、可愛がってやるよ」
傲岸な表情と物言いに、ミサキはみるみる顔を赤くした。

 この城に来たのは、これで三度目だ。
 最初は城の入り口から中に入るのがやっとで、そこで引き返した。

 二度目はやっとの思いで玉座のあるこの部屋までたどり着き、そこで魔王と対決した。
 汗と泥のこびりついた鎧を拭いながら、ミサキは重厚な扉を開け放ち、剣の鍔に手を掛ける。その瞬間、恐るべき速さで向かってきた魔王をかろうじて抜いた剣で受けたものの、ミサキはその反動で弾き飛ばされた。
「っ痛…」
扉に打ち付けられた体は、鎧を纏っていてもなお強い衝撃を受けた。
 向かい合う魔王は、圧倒的な力を誇る。胸に巣くう本源的な恐れから目を背けて、ミサキは剣を握り直す。
 体力と魔法力は回復して来ていたものの、甲冑は相当傷ついており、甲に至っては割れて使い物にならなかった。それでも、何とか進みはした。が、魔王の圧倒的な力の前に、今まで鍛えた魔法も、剣の腕も役に立たず、ミサキが追い詰められるまで、そうかからなかった。肩で息をしつつ、壁についた腕で体を支えたところで、不意に手を取られた。あっと思った時はすでに遅く、支えを失って傾く体を横から奪うように、手が伸びる。
「勝負あったな」
にやりと笑ったまま近付く顔に、ミサキは目が離せなくなった。目を見開いたまま、唇が貪られるのを見ていた。
「っや・・・放して・」
鎧に身を包んでいるとはいえ、細い体を強引に壁に押し付け、上からのしかかるように唇を蹂躙する魔王に、ミサキは何とか逃れようとするものの、力が違いすぎる。己の非力さを呪いつつ、ミサキはそのままの姿勢で踵を上げた。反動をつけ、勢いよく壁を蹴ると、そのまま足を振り上げた。
 魔王もさるもの、その攻撃は予想の内で、瞬時に反応し、軽くかわした。ミサキは更にその隙をついて腕をかい潜り、そして逃げ出した。
 背後の笑い声に耳を塞ぎ、頭の中に流し込まれる声に耳を背けて、ついに後ろは振り向かないまま。

 一度制覇したエリアにはそこに戻るための道標となる石を置ける。ある程度のレベルと魔法力の消費を必須とする魔法だが、ミサキは以前の自分の慎重さと努力に心から感謝した。その標石で魔王の城を見上げる丘に戻り、ミサキは息をついた。
 これまでの戦歴も何の役にも立たなかった。安堵のせいか震えの止まらない体をやっとの思いで支えて、ミサキは目を閉じた。
 圧倒的な力の差は恐ろしいはずだった。それなのに、頭のどこかが甘く痺れているようで、激しいままの鼓動は、誰かの声を繰り返し刻むかのようだった。
「また来いよ。待ってるぜ」
声は、確かにそう言った。


 決してその声に動かされた訳ではない。ミサキに与えられた使命は、魔王を倒し、王国の民の不安を消し去ることだ。そしてそれは、勇者の血を引くミサキにしかなしえない。
 怖くないと言えば嘘になる。唯一の希望である勇者が魔王に唇を奪われたとは誰にも言えない。それだけに、恐怖が次第に増幅しているのは明らかだった。
 それでも、行くしかない。勇気を振り絞り、ミサキは城の中に踏み込んだ。

 相変わらず広大な城である。最初に来た時には、中に進むことすらかなわなかった。それでも、魔王の王座までの道を忘れることはない。緊張で青白く見える頬を引き締める。
 国中で怪物が暴れ回ることがなければ、魔王を倒す等という話は出なかっただろう。それまで武器を取ることもなかったミサキだ。今でも無益な戦いは避けたいと願う気持ちは胸の奥底に留まっている。

 先代の魔王が倒されて数十年、魔物と呼ばれる者達の雌伏の時は過ぎた。新しい魔王の元、勢力を盛り返した魔物が闊歩を始め、魔王城の周辺の国々は、徐々に人の住めない場所となっていった。
 とはいえ、魔王軍も当初から一枚岩であった訳ではない。先代からの有力魔族の中には、公然と反旗を翻す者もあり、鎮圧にも時間がかかった。その間に、王の選んだ勇者は着実に進み、魔王城まで乗り込むに至った。
 城の中は相変わらず物音一つしない。延々と続く迷路には、ところどころ罠が仕掛けられているものの、大きな障害ではない。
 このエリアに着くまでは大変だった。モンスターを倒しながら道を切り開く。途中からはモンスターが増えた。既に倒した将軍達のような強敵はもういないが、数が多いだけでも、ミサキの心は折れそうになった。仲間が支えてくれなければ、とても進むことはできなかった。

 今はその仲間もいない。独りで戦わなければならない。


 ミサキは重い扉を開けて玉座の間に入った。前のことがあるので警戒はしていたものの、今回は何の障害もなく中に入ることができた。
 豪奢ではあるが、薄暗い部屋の中を進み、ミサキは玉座にたどり着いた。ひとであれば、数人座れそうな巨大な椅子に、魔王は静かに座っていた。
「遅いじゃないか」
突如顔を上げ、口にした魔王の声に呼応するように、広間の明かりが一斉に灯る。明々と照らされる部屋の中には、二人しかいない。
「待っていたぞ」
素早く伸びて来た手を避け、ミサキは身を翻した。

(つづく)

拍手ありがとうございます。
敵同士の二人が書きたいなあ、と思って書きました。
一応後半は源岬っぽさが入っているはずなのですが。

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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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