※女性向け二次創作です。今日は「オメガバース」の設定を使用していますので、苦手な方は特にご注意ください。 「オメガバース」という設定があります。元々は海外から輸入された「設定」らしいですが、同人誌などで重宝されて、最近よく見ます。 男女という性別の他に、アルファ、ベータ、オメガという性があるという設定で、一言で説明すると、「(男女とも)アルファはエリートの超攻、オメガは超受、ベータはどちらでもない」というものなのですが(詳しくは「最近話題の同人設定、オメガバースって何?」等をご覧ください)その設定を見ていて、「あれ、これ既視感が…」と思って書いてみました。
急に訪れて来た事実に驚く前に、若林は岬の匂いに驚いていた。15歳になったばかりで、まだ幼い顔をしているのに、何とも言えない匂いを漂わせている岬に、これで成熟したらどうなるのかと思わず息を飲む。可憐な顔立ちや純情そうな雰囲気で、甘い香りに包まれて佇む様は、まるで一輪の花だった。 「若林くん!」 笑顔で近付かれて、若林は慌てた。周囲にはもう成熟している連中もいる。その匂いを嗅ぎ付けられることを考えて、若林は顔を険しくした。 「とりあえず、そこのベンチに座ろうぜ」 隅のベンチを勧め、しかも少し隙間を空けて若林も座る。分かってはいても、近付くべきではない。
「お前、身の周りで何もないか?」 しばらく身の回りの話をして、落ち着いたところで若林は切り出した。一緒にいた長さの割に、話したいことはなかなか尽きなかったのだ。 「それが、急に変な人が来るようになって…。よく手紙も貰うし…」 何も分かっていない様子で無自覚に笑う岬に、若林は嘆息した。いかにもベータそのものの父親に育てられた岬は、そのこと自体に疎いらしい。間違いなくオメガで、これから咲く年齢の子供をこんな風に放っておくとは、通常では考えられないことだった。 これは既に良くない状況だと若林には分かった。岬はオメガであることを別にしても、リーダーに好かれる性質だ。その上、人目を引くほど繊細で可憐な容姿の持ち主だ。…アルファを引き付けない訳がない。 「ちょっと俺の家に来い!」 訳が分からないという顔をしている岬を引っ張って、若林は自分の家に急いだ。 性教育は普通に受けていても、岬は自分がオメガだという実感はなかった。まだ検査を受けてもいない。 「僕、ベータだと思うけど」 不思議そうな顔で首を傾げる様がまた愛らしい。並の男なら、ここで襲っていると確信しながら、若林は腕を組む。 「オメガだ。そりゃラブレターだって来るだろう。それに知っていると思うが、オメガは発情期がある。そんな時にフラフラしてたら、襲われるぞ」 若林の声の低さ、襲われるという響きに、岬も思わず背筋が寒くなるのを感じた。オメガには発情期があり、それ以外でも独特のフェロモンを発するため、アルファやベータを引き付ける、それが強くなる発情期には襲われることもある、という話は聞いたことがある。 「じゃあ、どうすれば良いの?」 自分はベータだからと、いい加減に聞いていた訳ではない。イメージできていなかった知識を、突如目の前に付き出されたと言ってもいい。岬は問わずにはいられなかった。今まで感じたことのない恐さから、目の前にいる相手に縋るしかいない。 「簡単だ。アルファと番になれば良い」 「つがいって?」 「簡単に言うと夫婦みたいなもんだな。相手がいれば、フェロモンも抑えられるから、襲われる危険も発情期も無事に済むってことだ」 若林の説明に頭がついていかず、理解はできても、内容が頭に入らないまま、岬は渡された本のページをめくった。説明が正しいと確信する前に、その手を掴まれて、手を止めることになったが。 「岬、俺と番になるか?」 「はあっ!?」 聞き返す岬の口調には、不信感の他に、怒りがこもっている。無理もないことだと、若林はそのまま岬の本を取り上げ、必要なページを開いてみせた。 「俺はアルファだ。お前の周りには他にもアルファがいると思うが、友達と番になるのはさすがに嫌だろ?俺なら、近すぎなくて良いと思わないか?」 今度は開かれたページの内容が入って来なかった。すぐ側で囁かれる若林の甘い声に、岬は落ち着いていられなかった。確かに授業でリーダー資質が高く優れているというアルファの説明を受けた時に、脳裏に浮かんだのは若林のことだった。魅力的なこの相手がアルファなのは間違いない。 「若林くんも友達なのに?」 「だが、親しすぎない」 知らない相手でも、親しすぎる相手でもないのは確かに最適だと思いかけ、釣られてはいけないと気を取り直す。見返した若林は冗談を言っている様子ではなかった。真剣な眼差しに、目を逸らしたのは岬の方だった。 「…守ってやる。お前が望まないなら、発情期以外は手を出さない。他に必要な条件は?」 性教育はあまり頭に入っていない岬だが、社会は小学校時代から好きな教科だ。アルファは社会的地位が高く、オメガが低く…そんなことを習った覚えはあった。アルファは望んだ相手をすぐに得られるとも。 「若林くん、悪いけど君に負担をかけるのは…」 「ここまで話してからだと信じてもらえないかも知れないが、俺はお前が欲しいだけだ」 「若林くん…」 大きな手を重ねられ、上から握り締められる。番がどういうものか、数ページ見ただけで理解できたのは、岬の内面に潜む何らかが理由だろう。納得はいかないにしても、自分の中の定まらなかった何かが行き先を見つけたように落ち着いていくのが分かる。 「…分かった。ありがとう、若林くん」 そして、若林は岬の本能に感心していた。他の男に襲われる前に、きちんと自分にたどりついた岬は、本当に自分と相性が良い。雑誌で見たというだけで、この時期に訪ねて来るのは運命的なことだ。 「とりあえず、発情期が始まる前に、引っ越して来い」 「うん、分かったよ」 若林が正しいのは間違いない。腹を括った岬は、若林が驚く程あっさり頷いてみせた。会いに来たのは自分だと岬は分かっている。雑誌で若林を見た途端に、会いたくて仕方なかった。もし、それが発情だと指摘されれば、それも間違ってはいない。初めて会った時から、あっさりと自分を受け入れてくれた若林だから、きっと会いたくなった。 「良いのか?そんな簡単に決めて。番は一生ものだぞ?」 一生何よりも強い結びつきで縛られることになる、それが番である。だから、強要するのは簡単だが、若林はそうしなかった。自分の直感の正しさを悟り、岬は若林を見つめ返した。 「うん。…引っ越した後に友達を訪ねるなんて、したことなかったから。きっと若林くんだからだったんだね」 匂いをいっそう振り撒きながらも、可愛らしく微笑む岬に、他の男の前で笑うなよ、と言いかけて、これは今すぐに番になるべきだと決心を固める若林だった。だが、もう一つだけ言っておきたいことがあった。 「あと、はっきり言っておくが、オメガじゃなかったとしても、お前と番になりたいのは本当だぞ。昔から好きだったからな」 それが蛇足だと若林は自覚していた。それでも言わずにはいられなかった。顔を真っ赤にして頷く岬に、告げて良かったと思える。どうせ一生縛られるなら、幸せな鎖で愛しいひとと。 「よろしくな、岬」 「こちらこそ」 伸ばされた細い手を、大きな手が力強く掴んだ。
数日後フランスでは 「バカな…この前まではフェロモン出していたのに…もう誰かが!?」 ピエールが喚いている姿が目撃されていた。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 最近、身内が少し腐りまして。若いので、取り込んで来るネタも若いため、色々新鮮です。で、この設定を知りました。奇をてらったつもりだったのですが、無意識で男子を引き付ける岬くんを若林くんが保護して囲い込むという、大体いつも通りの展開に。既視感があると思ったら、源岬の基本だったというオチ。暗いのは苦手なので、暗かったりややこしかったりする設定は色々ばっさりやっていて、本当はかなり違いはあります。最も大きな違いは、発情期あり設定とオメガが子供を産める設定。好き嫌いはありそうですが、今回は自分にとって一番おいしいところだけいただいてしまいました。ごちそうさまでした。 というか、この設定が自然にはまる源岬って…。さすが、C翼界のハーレクインと言われていただけのことはあります。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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