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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
「ごめん。」
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

「ごめんね」
岬は言った。色の薄いきれいな目には、それにふさわしい、きれいな涙が浮かんでいる。長い睫毛に絡んだ涙の粒は、岬が目を閉じると、ゆっくりと流れた。


 約束していた通り、岬はドイツに遊びに来た。岬が日本に帰ってからは初めてで、俺はずっと会いたいと言っていたが、最後に会ってから、もう一年以上経っていた。

 久しぶりに会った岬は、また背が伸びたようだった。相変わらずまっすぐ背を伸ばした夏服が眩しく見える。
「若林くん、久しぶり」
目の前で微笑む岬は、記憶にあるものよりも、ずっと繊細で、儚くさえ見える。差し出された手も白くて、あまり波立たないはずの胸がざわついた。
「会いたかったぜ」
いつものように握手をすると、岬は少しはにかみをみせ、微笑んだ。
「…僕もだよ」
その様子に、随分大人びたように思った。
 前から整った顔はしている。まっすぐ見るのが怖いような澄んだ目をしている。それでも、可愛い印象が強くて、きれいだと思ったのは初めてだった。何がその変化にあったのかは分からないが、何故か胸が苦しくなった。
 フランスにいた時とは違い、日本に帰るのには相当時間がかかる。だから、俺の家に2泊する約束になっていた。高校の大会のない時期を待った理由はそれだった。

 空港から、家に帰る道すがら買い物をした。日用品は持って来たと岬は言ったが、食料は岬が来てから買おうと思っていた。
「好き嫌いはないよ」
「じゃあ、このパン買おうぜ。うまそうだろ?」
「うん!」
ちょっとしたことでも、岬は楽しそうに笑う。岬も背が伸びたが、俺も伸びた。腕を伸ばしやすいところに岬の肩はあったが、その細い肩に手をかけるのはなかなか勇気が要る。
 小学生時代、全国大会の決勝戦の時に、岬と肩を組んだことがある。足の怪我や自分の身を顧みず、ゴールポストに飛び込み、岬はゴールを守ってくれた。試合終了のホイッスルの後、岬を助け起こした。立つのも辛そうな岬に、そのまま肩を貸した。掴んだ手も、肩も細くて、力を加えたら壊れそうなほど弱々しかった印象がある。
 肩幅は広くなったものの、相変わらず岬の肩は薄くて、触れるのは気が引けた。たまに遊びに来てくれる、昔同じチームだったことのある友人、そんな微妙な関係そのもののようで、壊してしまうのは怖かった。
「どうしたの、若林くん?」
見下ろす岬は首も細くて、透き通りそうな白さだと思えた。憂鬱な空は雲の影を落として、灰色に見える分、白い色は目に焼き付く。
「荷物重くないか?」
「平気だよ。僕こう見えて、丈夫だから」
その細い肩に荷物を背負い、首をすっと伸ばして岬は歩く。
「そうは見えないな。ちゃんと食ってんのか」
「もちろん食べてるよ」
シャツにチノパンの姿でも、足や腰の細さは目立つ。冗談めかして言うと、岬はいつもの通り言い返して来た。
「まあ、帰ってからはしっかり食えよ。すごい量だぜ」

 食べ切れなかった分は、冷蔵庫に入れた。岬は「買い過ぎだよ」と笑った。
「共同責任だ。岬、もっと食えよ」
言い返すと、岬はまた笑い声を立てる。

 片付けを終えてから、岬にどこか行きたいところはないかと聞いた。特にないと言われたから、家でゆっくり過ごすことにした。俺の試合の録画や岬が持って来た高校での録画なんかを見ながら、話した。高校の様子を尋ねても、岬が楽しく過ごしているのが分かる。
 相当話したところで喉が渇いた。二人分のコーヒーを淹れ直して戻って来ると、岬はソファーにもたれて、外を眺めていた。
「月はどこで見ても変わらないね」
ふと窓の外を見遣ると、岬の言う通り、月が出ていた。岬は色々な土地で月を見て来たと言ったことがある。満ち欠けがある分、いつも同じに見えないから、どこで見ても同じに見える、と逆説的なことを話す岬に、それはまるで岬本人のことを言っているようだと感じた。
「月きれいだね」
ため息混じりに言葉を重ねた岬を見返して、不意に目が合った。
 岬はこんな目をしていただろうか。人の心を見透かし、誘うような目を。慌てて逸らした。

 その後も、他愛のない話をした。日本の高校が大変なのも、岬が楽しく過ごしていることも分かった。
「楽しそうだな」
岬が普通の生活を送ることはほとんどなかったらしい。友達に囲まれ、引っ越しのない生活、サッカー部の仲間、後輩。
「うん、これで若林くんがいれば良いのにってこの前も…」
言いかけてやめた岬の目を今度こそ見た。
 光を閉じ込めた甘い瞳に、吸い込まれそうだと思った。
「岬」
唇が触れても、岬は逃げなかった。静かに目を伏せた瞼があんまり白くて、さっきの月ごと心に焼き付いた。

 キスの後に岬は言った。
「…好きになったりして…ごめんね」
岬の頬を流れる涙が落ち切る前に、抱き締めた。いやいや、振られるならともかく、好きだからと謝られることはない。
「岬、俺の方こそお前のこと…」
いつ好きになったのかも分からない。最初に会った時は、単に可愛い子だと思っていたのが、対戦したり同じチームになったりしている内に、好きな相手になっていた。あの決勝戦、岬の肩を抱いた時には、勝利以外の感情も確かにあった。
「好きだぜ」
真っ白な顔に、朱が滲む。涙で汚れても、可愛いとしか思えなかった。
「ごめんね」
俺の腕の中で、岬は繰り返す。…いくら誘われても、俺は好きじゃない奴のご機嫌を取ったりはしないんだが。
「きっと、君に迷惑をかけちゃう…」
誰かに投げ付けられた台詞なのだろう。ぐずぐずと俺の胸で泣く岬に、今すぐにでも、岬の名前ばかり書かれた俺の胸の中を見せてやりたいと思った。しゃくり上げる肩を撫でて、細い背中を撫でて、もう少しで下心を起こしそうになった。そこまで好きなんだが。
「頼むから、謝るな。俺は嬉しくて仕方ないんだから」
岬の嗚咽が収まるのを待って、好きだと繰り返した。泣いたのが恥ずかしいのか、少しだけ顔を上げた岬の頬に、軽くキスした。
「好きだぜ」
涙を溜め、潤んだままの目を赤くして、岬は柔らかく微笑んでいたが、その笑顔はどこか明るくて、何故か感動した。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
若林くんを好きすぎて泣いてしまう岬くんが書きたくなったのですが、何か違う。
ここ一週間で、他の方の作品を掲載させていただく話を2件まとめました!明日から5日間、ゲスト様特集です。やったあ!
他の方の源岬を楽しめるって素晴らしい!!ということで、ご堪能下さい。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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