※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 太陽と月が並ぶ空は、紫がかった奇妙な色をしている。フリーハンドで描いたような道を進むと、白いレースのクロスを掛けたカフェテーブルが浮かんでいた。その椅子に座り、どこかで見たような魔法使いがお茶をしている。 「教えてあげよう。嘘をつく度に、君はきれいになれるよ」 笑顔なのに疑わしい。第一、男の僕がきれいになりたいと思う理由がない。胡散臭い魔法使いの囁きを気に留めることなく通り過ぎ、そこで立ち止まった。目の前には大きなお屋敷がある。そこに誰がいるか、何故か僕は知っている。
重い扉を開けて中に入ると、パーティーの最中だった。映画で見たような吹き抜けを見下ろす2階の廊下で、若林くんがたくさんの人に囲まれていた。
遠い。とても遠い。 誰か僕の知らない人と話す若林くんは、僕の知らない表情で、普段より大人びて見えた。 知らない人に見える横顔を眺める。忙しそうにしている若林くんは、僕に気付かない。
いつも、あんなに好きだって言って来るのに。
もし、嘘をついてきれいになったら、若林くんは僕に気付いてくれるんだろうか?あんな冷たい顔じゃなくて、いつもみたいに笑いかけてくれるだろうか?
嘘。
いつも言っていることだ。 「僕は好きじゃない」 好きだと言われる度に、僕はそう嘯いた。若林くんは気にした様子もなく、そんな僕の隣で笑っていた。
「好きじゃないんだ」 いつものように口にした。途端に目の前で星が弾けたように光が走った。 きれいになったかは分からない。でも、僕の着ていたシャツは、一瞬でキラキラ光を放つものに変わっていた。 若林くんはちらりと僕を見て、それから元のように話し始めた。どうやら光るシャツだけでは足りないらしい。僕はまた嘘をつこうとして気付く。その嘘しか思い付かないことに。 「岬、好きだぜ」 耳に残ったままの、あの声を打ち消して忘れることはできなかった。
「好きだよ」
自分の声で目が覚めた。隣では若林くんが眠っていて、一向に起きる様子もない。聞かれた可能性もないだろうと安心して、また横になった。 もう何度もこういう関係になった。好きだと僕から言うことはなくても、若林くんは僕の想いを知ってくれているはずだ。 若林くんは、いつも通り精悍な顔を半分枕に沈め、気持ち良さそうに眠っている。高い鼻、濃い眉、凛々しく引き締まった口元、案外長い睫毛。何度かこうして寝顔を眺めたことがある。起きている時だと恥ずかしいから、こうして眠れないままに、若林くんの寝顔を見つめていた。 こんなに長く一緒にいるつもりもなかった。僕はずっと若林くんのことが気になって仕方なかったけれど、付き合うというよりは、一度くらい寝てみたかっただけだと言い続けていた。若林くんから誘われたのは、ラッキーだった、とも。 本当の気持ちなんて言えない。僕が好きだと本心を打ち明けた途端に、若林くんの熱が冷めたら。臆病風に吹き飛ばされて、とても言えないけれど…もし、好きだと言えたら、若林くんは恋人になってくれるだろうか。 思いに耽りながら、若林くんの柔らかい髪をそっと撫でる。 「岬」 不意に手を掴まれた。若林くんはまず右目だけを開けて、僕を見た。まるで射すくめられたように動けなくなる。 「・・いつから起きてたの?」 落ち着かない胸を押さえて尋ねる。若林くんは一度目を閉じて、ゆっくりと開けてみせた。 「お前に好きだって言われてから」 「あれは、夢で・・・」 そう言った瞬間、若林くんに腕を引っ張られた。ベッドに倒れ込む反動で、若林くんは素早く身を起こし、僕を見下ろしてみせた。 「夢でも良いぜ。・・・知ってるから」 若林くんの顔が近付いて、唇が触れるまで、僕は見惚れてしまっていた。軽く触れては離れる唇がもどかしくて辛くて、ねだるように、若林くんの髪を掴んだ。 「好きだって言ったら、何でもしてやるよ」 夢の魔法使いは嘘をつかなかった。夢の中の僕は嘘をつき切れなかった。嘘をつきたくはなかった。 「本当に?」 「ああ」 若林くんの目の中には、星が入っているように見える。夢で見た太陽と月よりも眩しくて、目が離せない。 「じゃあ、君をちょうだい」 嘘つきより、欲張りになることにした。手を伸ばして、若林くんを捕まえる。 「その代わり、お前ももらうけどな」 そのままキスをかわし、僕の嘘は終わった。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 今回も、いまさら何を、な岬くんを。シリアス(つもり)なのは本人だけ。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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