※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 今日は何のはずみか書いてしまった、三杉&岬の話です。(源岬前提ですが) 注意はしました。 三杉淳は周囲を見渡した。狭く薄暗くその上かび臭い部屋は、それまでの彼の人生になかったものだ。
三杉は今回父親のお供でフランスに来た。夏にJr.ユース大会で来たことがあり、もう一度行きたいと言っていたのを、父親が察したためだ。ホテルから母親への土産を見に街に出たところで、彼の記憶は途切れている。 三杉は記憶を確認した後、自分の体の状態を把握することにした。椅子に座った状態で後ろ手に縛られているが、鈍い痛みのある腹部以外は異常もなく、怪我はないようだ。薬を使われた形跡もない。 おそらくは腹を殴られ、誘拐されたのだろうと三杉は考えた。自分の親の仕事をよく知っている三杉としては、政治的な意図はないと判断する。それよりは、見る人が見れば分かるデザイナーズブランドの服が災いした、金目当ての稚拙な人間の仕業だろう。 一通り思考を巡らしたところで、三杉は情報収集に努めることにした。 遠くで人の話し声がする。話しているのはフランス語で、内容は分からないものの、若そうだと三杉は推測した。 「Excusez-moi」 元来大きな声を出すのは得意ではない。それでもできるだけ大きな声で呼びかけると、暗闇に似合わないサングラスの二人組が入って来た。 何を言っているのか分からないが、騒がしい。挨拶以外も勉強しておけば良かった、と思いながらも、三杉は耳を澄ませる。少しでも分かる単語が混じっていないか聞き取るためだ。 と、その時ドアの向こうで何か話し声がした。大声で言い争う声は、先程より若く、幼い印象がある。 やがてドアが開いた。入って来た人影は周囲に比べて小さい。 「何も言わないで」 二人ではなく、三杉の言葉を制するような日本語に、三杉は目を見張った。そこにいたのは、この夏に共に戦った日本人、岬だったからだ。
岬は三杉に目もくれず、戸口近くに立つ二人に何やら話してから、ゆっくりと三杉に近付いて来た。 「何も言わずに聞いて」 岬は三杉の前に立つと、すぐに切り出した。息を切らしていることから、相当急いで来たらしい。 「君がさらわれるのを見かけて、後をつけて来たんだ。彼らは日本語が分からないから、僕が交渉役になった」 そこまで言い切ると、岬は声を高くした。訊問している風を装っているのだろう。 「君は誰と来たのか教えて。外来語は使わないで」 三杉は視線を動かさないようにして、立っている二人を見た。先程三杉がしたように、岬の言葉に耳を澄ませている様子だ。日本語が分からないのは本当だろう。 「父と二人で来たよ。泊まっているところは後で話す」 三杉がそう話したところで、後ろの二人が業を煮やしてか、早口で何か喚いた。 「君の名前を聞けって。あと、身代金の交渉相手も。それも知らずに誘拐なんて短絡的だね」 メモを取り出しながら尋ねる岬に、三杉は首を振る演技をしてみせる。 「同感だよ。父に連絡して警察を呼んでもらおうと思うけど、ここはどこ」 三杉は語尾の上がり下がりを減らし、疑問であるのをごまかす。 「下町。建物の前に隣の国の応援団募集の紙を貼ってきた」 岬は自分で言ったルールを守り通した。それは日本と結び付けられるものではなく、フランスでよく見かけるものでもないため、特定しやすいだろう。 「さすがだね。それにしても、よくここに入れてもらえたね」 「友達の友達なんだ。相手は僕のことを知っていたし。詳しいことは後で」 後ろの二人が焦れていることを推測して、岬は三杉にメモを突き出す。 「…じゃあ、名乗ることにしようか。僕の名前は三杉淳。泊まっているホテルは…」 三杉の言葉にいちいち頷きながら、岬はカタカナで書き取った。岬にしか読めず、余計な証拠を残さないためだ。 「電話の途中で代わって」 付け加えられた三杉の言葉に、岬は頷くことはしなかった。だが、岬がそれを承諾したことを三杉は理解した。
「はじめまして。息子さんが誘拐されました。僕は息子さんを助けたいんです」 ホテルに電話をして、繋いでもらったところで、岬はまずそう切り出した。電話の向こうで相手が息を飲むのが分かる。 「君は?」 「僕は岬と言います。偶然、三杉くんが誘拐されたのを発見して、通訳を買って出ました」 普段から穏やかな口調を、速度を遅くすることで更に穏やかにする。三杉の父にストレスをかけるのは得策ではない。 「身代金は?」 三杉の父が問うのを待ってから、岬は近くのフランス人に叫んでみせた。身代金の額を聞き、相手が本人の声を聞きたいと言っている、とでも伝えているらしいと三杉は他人事のように考えていた。 「じゃあ、出て」 プリペイドらしい携帯電話を、岬は三杉の口元に近付けた。三杉が策を立てているのは分かっている。お互いに共有するまでの時間がない以上、自分を信じて動いてくれるかが勝負だと岬は思っていた。 「父さん、僕の携帯電話はまだ動いているから、位置情報を特定して。建物にドイツ語の紙が貼ってあるはずだから」 三杉の指示は簡潔だった。三杉のバッグは三杉の足元にあったが、財布は先に物色されていた。携帯電話があれば、すぐに見つかっていたはずが、近くには見当たらず、岬は不思議に思った。 「それで身代金は…」 岬は言われた通り、バッグに詰めた身代金を近くの駅のホームに置くことを指示した。それでどうやって受け渡しをするのか不明だが、それが分かることはないだろう。三杉の父親は、銀行が閉まっていることを理由に、支払いを三時間延ばした。 「とりあえず、後は君のお父さん次第だよ」 そう言うと、岬は入口近くの椅子に座ると、脱いでいた上着を羽織った。部屋の外にいた一人も寒そうに部屋に入って来る。温暖な気候のパリだが、夕方ともなれば、確かに冷え込んで来ている。 「J'ai faim」 声高に空腹を訴える岬に、他の三人がいそいそと立ち上がる。夏に散々見た光景だと三杉は笑いを堪えた。その間も、元々部屋にいた二人が上着を手にして部屋を出ようとしている。岬は二人を呼び止めると、何か言って微笑んだ。リクエストを受けた二人が嬉しそうに部屋を出て行くのを、三杉は退屈しのぎに眺める。 それから、10分後に外で物音がした。恐る恐る部屋のドアを開ける岬に、部屋に残っていた一人が自分が見に行くと言い出した。 「メルシー」 岬は微笑むと、喜んで出て行った相手を見送ってから、さっさと部屋の鍵をかけた。直後部屋の外からは怒声と物音がいっそう激しくなった。岬は緊張した面持ちで耳を澄ませつつ、あまり立派ではないドアが開かないように押さえていた。
やがて、部屋の外が静かになり、ドアがノックされる音がした。岬は注意深くドアを開ける。制服を着た警官らしい二人が姿を現したところで、岬は今日初めて三杉に笑いかけた。声も弾んでいて、三杉は今日初めて岬の声を聞いたような気がした。 「助かったよ!」
二人がパトカーに乗せられてすぐ、買い出しに行っていた二人も捕まったという知らせが届いた。 「僕の同級生の恋人らしいけど、どうも色々ある人だって聞いていたんだ。彼女と付き合っても、日本嫌いで、お金目当てだろうって言われてたし」 岬は少し疲れたように見える表情で、ポツリポツリと話し始めた。 「その彼が、誰か肩を貸して歩いているから、よく見たら三杉くんで、これは絶対おかしいと思ったんだ」 独白めいた岬の言葉に、三杉は黙って頷く。 「それで、彼を見かけたからって言って中に入れてもらって。…彼女が呼ばれるよりは良いと思ったんだ」 日本語を分かる人間を呼ぶとしたら、まず候補に上がるのはその同級生だったろう。岬が声を掛けたのは正解だった。もし相手の人間性を知らず、また三杉を助けたいという思いがなければ、いくら岬でも、段取り良く立ち回るのは難しかったに違いない。 「本当に岬くんのおかげだよ、ありがとう」 「そんなことないよ。僕はできることをしただけで」 見張りを追い出して鍵を掛けた岬の作戦は、三杉から見ても見事だった。突入に巻き込まれて怪我をしたり、人質にされるリスクは高い。 「それより、三杉くんはよく僕を信じてくれたね」 岬の説明を聞けば、岬が現れたのが偶然でなかったのが分かる。だが、そうでなければ、作為を疑われるタイミングだった。 「まあ、岬くんのことはよく知っているしね。騙すつもりなら、目を合わせてくるだろうと思ったんだよ」 あの室内で、岬は三杉と一切目を合わせなかった。そこで三杉は岬が嘘をついていないことを悟った。岬が一味なら、三杉を信用させようとするだろう。岬が目を合わさないのは、側にいた二人を慮っていたとしか思えない。 「それに、騙すつもりなら、ハンブルガーSVを応援しようチラシは書かないだろうし」 突入の目印になった、ドア横のチラシは、岬が咄嗟に書いて貼ったものだった。ドイツ語のため全く不自然ではなく、しかもこの辺りに貼られているはずのないもの。 「それくらいしか書けるドイツ語がないからね」 岬はそっけなさを装って言うと、少し早口で逆に質問する。 「それはそうと、携帯電話はどこにあったの?」 発言の内容と、赤くなっていることを指摘すれば、岬は怒るに違いない。三杉はやり過ごすことに決め、今は自由な手で、メガネを外した。 「これ、ウェアラブル端末なんだよ」 従来のメガネ型端末よりも、随分スマートなスタイルで、確かに誰も気付きはしなかった。 「もらったばかりの新商品で、こっちの登録だからGPSは辿りやすかったと思うよ」 珍しく愛想よく微笑む三杉に、岬は三杉のことをよく知っていて良かったと安堵した。 「とにかく、ありがとう。後で何かお礼のものを贈らせてもらうよ」 「いいよ、気にしないで」 岬は手を振ると、三杉を覗き込む。 「それより、体は大丈夫?それだけは心配だよ」 三杉の持病である心臓病にも、ストレスは良くない要素といえる。 「おかげさまで大丈夫だよ」 三杉は微笑み、それからまだ少し頬の赤い岬の様子を窺う。 「岬くん、もし誘拐されたのが若林くんだったら、どうしてた?」 ある程度予想していた質問であったためか、動揺する様子を見せず、岬は三杉に視線を向けると、ニコッと笑った。 「そんなことは考えられないけどね。入るだけ入って、縄解いたら、後は避難しておくよ。さっきみたいに誘拐者の懐柔までやったら、絶対後が怖いからね」 三杉と話す合間、岬は時々他の者に話しかけていた。それで助かった面はあるが、場合によっては違う対応が必要になる。 「君も苦労するね」 「本当だよ。三杉くんブランドショップに行ってたらしいね。僕達の年齢でそんな店に出入りしたら、目をつけられるに決まってるよね?」 三杉は何気なく口にしたが、岬の逆鱗に触れていたことには気付いていなかった。笑顔のまま繰り出される思わぬ攻撃に、三杉は謝る。 「ううん、無事で良かったよ」 岬の言葉を聞きながら、この小言も喜んで聞く恋人は大したものだと、しみじみ思ったのだった。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 夏の夜中に何故か書いてしまいましたので、11月14日に公開するしかないと思いました。 一体何が下りて来たら、これを書いてしまうのかは不明。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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