※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 三年ぶりに見た若林くんは背も伸びて、一段と大人びていた。一瞬声をかけるのをためらって、それでもここまで来た理由を思い出し、勇気を出して呼びかけた。 小学生の時は、若林くんの周囲にはいつも誰かがいた。僕から話をしようとしても、なかなか難しかった。だから、特に親しかった訳ではない。 それでも、どうしても会いたかった。
南葛を発つ前の日に、学校に挨拶に行った帰りに、偶然若林くんと会った。みんなには出発日を一日ずらして教えていたけど、夏休みも終わりがけに、小学校から出て来た時点で、相当怪しい。しかも、出会ったのがよりによって若林くんだ。たぶん気付かれただろう。 「岬、これから帰りか?」 ばつが悪くて黙って頷くと、若林くんはそのまま手招きした。 「じゃあ、寄り道しても平気だな。アイス食おうぜ。俺のおごりだ」 断る隙もなくて、僕はそのまま後についていった。 そう自分から話す方でもない僕は、特に話すでもなく後ろを歩く。確かに暑いし、アイスは魅力的に思えた。いつもなら、おごられるのは断っているけれど、そんなコミュニケーションに惹かれる気持ちもあった。 こうして一緒に歩いていても、若林くんと僕じゃ同い年には見えない。決勝戦で助け起こしてもらった時にも、僕の方に体重がかからないように気遣ってくれていた。若林くんがそういう人なのは、この頃にはよく分かっていた。自然にしているように見えるけど、周りの人をよく見ていて、さりげなく気遣う賢くて優しい人だ。 寂しさに流される気持ちを見抜かれていたのかも知れない。うむを言わせぬ相手に従う方が楽な時もある。 「どうぞ」 「ありがとう。良いの?」 「一人で食うのってつまらないだろ?」 若林くんは快活そのものの笑顔で、棒アイスの袋を寄越して来た。溶けない内に受け取って、お菓子屋さんの前のベンチの、若林くんの隣に座った。 「いただきます。あっ冷たい!」 「一気に食うと、頭が痛くなるよな」 「うん。アイスクリーム頭痛って言うんだよね?」 そう話しながらも、9月とは明らかに違う8月の暑さのせいで、溶ける前に食べるのに必死で、頭が痛くなる余裕なんてなかった。日陰なのに、じっとしていても汗のにじんでくる暑さの中、体の奥から冷やされる感覚に、汗が引いてスッキリした。 「岬、当たりだぞ」 「あっ、本当だ!」 当たり付きのアイスだったらしく、僕の方のアイスの棒に、あたりという文字が焼き付けられていた。当たりが出ると、もう一本もらえるのは知っていても、引っ越しに持って行く訳にもいかない。 「じゃあ、これもらっておくぜ。おごった分返って来ちまったな」 若林くんはそう告げると、僕の手の中からアイスの棒を取った。事情を察してくれているのは、明らかだった。 「ごちそうさまでした」 その事情を話すまでもない。小さく頭を下げて、アイスのお礼だけ言うと、若林くんはじっと僕を見ていた。 「岬、引っ越しても元気でな」 改まって言われて、しみじみと別れが胸に迫って来る。こうして落ち着いて見送られるのは、しばらく避けて来たことだった。 「お前にはまた会える気がしてな。さすがにボールをぶつけられそうにはならないだろうけど」 そうして笑った若林くんに、そんなことないよ、と合わせて笑おうとした。
でも、声が出なかった。
笑う代わりに、座っていたベンチにポタポタと涙がこぼれた。 「岬・・」 「・・アイスありがとうっ!」 泣いてしまったなんて、知られたくなかった。僕は俯いたまま、走り出した。
もし若林くんにまた会えたら、あの時のお礼とお詫びを言うつもりでいた。 あんな風に泣くつもりはなかった。きっと弱い奴だと思われたことだろう。そう思うと残念で、弁解したい気持ちもあった。 「あの時はありがとうね。アイスおいしかった」 そう言った時に、若林くんは少し複雑な顔をした。 「こっちこそ、お前が見送られたくないなんて知らなかったから、悪いことしたな」 見かけ以上に、大人っぽい口調で謝られて、僕は心臓が飛び出すかと思った。
三年ぶりに会ったばかりなのに、僕は君のこと。
少し目を伏せた。夏の太陽は眩しくて、きっと顔を上げていられない。 「ううん。会えて嬉しかった」 今も、三年前も。あの夏に封じたつもりの想いが、また巡って来た夏に、抑えきれなくなった。 「俺も。あの時わざわざお前を探したんだぜ」 「えっ!?」 太陽の眩しさも忘れて顔を上げると、若林くんと目が合った。あの時のように笑っているかと思っていたのに、若林くんは真剣な表情で僕を見ていた。力の強い二つの目が、じっと僕を捉えている。 「どうしても、引っ越す前に会いたくて」 昔より低くなった声に、大人びた口調で話す若林くんに、胸が苦しくなった。僕の方こそ、会いたくてここまで来てしまった。 「僕もだよ」 若林くんを見つめて、目を逸らさないまま僕は告げる。どうしても、打ち明けたくて仕方がなかった。胸の中に灯のように点った火は、焦がれる想いそのままに燃えている。 「岬」 ぎゅっと握り締められた手は大きく硬くて、とても同い年とは思えない。僕が見上げると、若林くんはすごく優しい目で見つめていた。 「あの時、泣いてただろ?涙を拭いてやりたかったんだ」 「ううん、見ないふりしてくれて、ありがとう」 普段は強がりで、素直になれない僕だけど、素直にならざるを得なかった。 「岬、好きだ」 気がつくと、若林くんはすぐ側まで近付いて来ていた。囁かれた言葉は、ゆっくりと胸で広がっていき、僕の息を止めていく。 「僕も」 本当に小さな声しか出なかった。それでも、その微かな声を若林くんはしっかり聞いていてくれた。
「三年ぶりに会ったばかりなのにな」 困った風に言う若林くんに頷く。僕もそう思っていた。 「でも、三年ぶりに会えたから、どうしても言いたくて」 本当は三年前に告白するつもりだった、と若林くんは続けた。 「それなのに、泣かしちまって・・・」 「ううん」 握り合った手が熱い。それがどうしようもなく嬉しかった。あの時以上に言葉が出て来なくなった僕の顔を覗き込み、若林くんは昔の面影を留めた笑顔で言った。 「アイスおごる」 「・・・うん」 若林くんを追って、立ち上がると、手を繋いでくれた。あの時と似ているけれど、違った夏がまた始まった。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 二人でアイスを食べる源岬が書きたかったのですが、思ったよりリリカルに。 ハッピーエンドなら問題ないという、源岬の許容範囲の広さが本当にありがたいです。
以下、コメントお礼 楓さま、コメントありがとうございます。 こちらこそ、お声掛けいただいて嬉しかったです! なかなか反応をいただくことがないので、一日幸せな気持ちで過ごさせていただきましたとも。拙いブログですが、過分なお言葉をいただき、恐縮しております。「テレフォン」は楽しんで書いたので、好きだと言って下さる方が多くて嬉しいです。 これからもできるだけ頑張りますので、よろしくお願いします。
拍手のみの方もありがとうございます。励みになります。
スポンサーサイト
テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
|