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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
笑わない秘書
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
今日はボスの日に合わせたパラレルです。

「本日のスケジュールは、10時に役員会議、11時に××社と打ち合わせ、12時から副社長とランチミーティングで・・・」
秘書である岬の冷たい声が社長室に響く。まっすぐな姿勢で岬が読み上げる本日の予定を、システムと照合して確認する。今日も良い声だ。発音も良い。
「以上です。・・・社長、聞いていましたか?」
少し気を抜いたのがばれたのか、岬は鋭い視線を向けて来た。黙っていれば、きれいな顔をしている。異性のみならず、同性の観賞用にもなりうる容貌だが、未だ笑ったところを見たことがない。
 秘書としても岬は有能だ。俺の予定を完璧に管理し、その下準備は常にぬかりない。頼んだ資料は素早く期待以上の出来で用意されている。突発的な問題にも上手く対応するが、その突発的な問題が起こらないよう配慮しているのがよく分かる。
 ただ、常に表情を崩さない。整った優しい顔立ちはいつも冷静で、それ以外ではない表情に固定されている。

 だが、それも当然の話だ。岬はなりたくて俺の秘書になったのではない。

 株式会社明和を手に入れたのが、今年の春。岬は若いながらも営業部の課長をしていた。元々同業界であり、社長が代わった後、業績はあっても経営の危なくなった明和を買収するのは簡単だった。明和の営業は一騎当千の曲者揃いで、業績が落ちなかったのは前社長に恩義を感じる営業部隊によるものだと聞いていた。その曲者を率いる岬も営業上がりで、銀行から天下りした部長ではなく、岬こそ買収反対派のトップだとすぐに分かった。
 だから、俺はその岬を自分の目の届く秘書に抜擢し、営業部の分断と取り込みを図った。
「私は構いません。みんなを残してくれるって言うなら」
俺の提案に、岬は静かに答えた。癖のある営業を残すのは、という反対意見も社内にはあった。ただ、その営業力は業界でも評価が高く、買収に踏み切る際の決め手になった程だ。もし彼らを上手く使いこなせるなら。

 一度、エレベーターで元の明和営業部隊とすれ違ったことがあった。その時岬の見せた笑顔は、それは優しいもので、背中越しに鏡で垣間見ることしか許されなかった俺は、それが自分に向けられることがないことが何となく悔しく思えた。

「岬、笑えよ」
冗談めかした俺の言葉に、岬は一瞬手を止め、それから顔を上げた。
「ふざけている時間はありませんよ。今日の会議で・・・」
「ふざけてなんかないぞ。・・・笑えよ」
「笑顔の強要ですか?パワハラ案件ですね」
「快適に働くための環境づくりに努めるって社則にあるが」
「じゃあ社長が譲歩なさってはいかがかと。部下に対しての寛容さも力量の内では?」
一言言えば、二言三言返って来る。しかもにこりともせずに。その会話の間にも、岬は俺宛に届いた荷物を片手間にしかも手際よく処理していた。取引先へのご機嫌取りに買った大量の缶コーヒーの詰め合わせだけは扱いに困ったらしく、一瞬手を止めて隅に避けただけだが。

 それでも、岬が残ったおかげで、明和の営業部隊はそのまま取り込めた。見るからにすかした二枚目の若島津や口から先に生まれたように愛想のよい反町は分かるが、無愛想で色黒の日向までもが営業成績トップ5に名を連ねているのは解せない。
 岬から渡されたばかりの資料を見ながら、首を傾げた俺に答えたのは岬の方からだった。
「小次郎・・・日向はリピート率がトップなんです。顧客満足度も。初見の印象が良くない分、一度買ったお客様は必ず満足させるのが日向のポリシーなんです」
スラスラと答える岬の顔には優しい笑みが浮かんでいた。初めて向けられた笑顔に、不覚ながら息を飲んだ。
 整った顔なのは知っているが、つんと澄ました冷たい印象しかない。
 それが。
 優しげに角度をつけた唇に、見とれた。

 沈黙で、俺がただならぬ視線を向けているのに気付いたらしく、岬はすぐに表情を戻した。いつもの表情も、一瞬の笑顔の反動で無表情に見える。さっきはあんなに、と考えて、気付いた。俺はこの秘書に笑っていてほしいらしい。

「岬、業務命令だ。その缶コーヒーの箱を営業部に配って来い。今日はそのまま上がっても良い」
「良いんですか!?」
声が弾んでいる。顔を上げるまでもなく、笑顔なのが分かった。
「ああ、どうぞ」
どうせ、付き合いで買った物だ。秘書さんの笑顔の対価としては安い。
「ありがとうございます」
極上の笑顔を惜し気もなく向けられる。やっぱり笑うと一際可愛いと、今朝まで憎らしかった顔に見とれる。
「配ったら、また戻って来ますね。まだ資料の説明終わっていませんから」
振り返った顔は、普段の凛とした雰囲気を残した笑顔で、また目を奪われた。
「じゃあ、待ってるぞ」
ドア側と、社長の椅子と。普段の秘書席と比較すれば、いつもより距離がある。それでも、いつもよりは近い気がして、俺は秘書を見送った。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
ボスの日なので、ちょっと変わったものを。
笑わない秘書と笑わせたい社長の攻防、また機会があれば続きを書きたいです。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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