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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
危険な術(後)
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

「まずい!」
三杉は大きな声を上げると、近くの携帯電話を手に取った。

「どうした!?」
三杉からの電話に、日向は最大ボリュームで応じる。暗示を解くのに必要だからと、若林を伴って他の者のいない部屋に篭っていた三杉である。その電話に日向が過敏になるのも当然と言えた。
「なにィ、失敗しただとォ!!」
轟音一声吠えた後、電話を持ったまま駆け出す日向に他の者達が続く。
「松山、岬はどこだ?」
「翼と自主練してるはずだ!グラウンドだろ」
「それは都合が良いな」
激しい印象のある顔をニヤリと歪めて、日向はグラウンドに向かった。今の時間ならば勝機はある。

 日向と松山がグラウンドに出ると、若林もちょうど違う出入口からグラウンドに出ようとするところだった。グラウンドには、自主トレを始めている人影がある。
「早田、次藤!若林を止めてくれ!!」
佐野の特訓に付き合っていた二人は振り返り、一瞬にして事態を理解した。
「カミソリタックル!!」
「うおおおおっ!」
それぞれ鋭いタックルと肉弾戦に定評のある二人だ。素早く反転してコンビネーションよく動き、正面から若林にぶつかる。
「これはいけたか!?」
死亡フラグそのものの台詞を叫ぶ松山に、不吉な予感を覚えながらも、日向は松山の肩を叩く。こんな時に若島津がいない心もとなさを痛感する。
「いくぞっ!」
先に早田のタックルを飛び越え、次藤の体当たりに耐えた若林は、その勢いで松山のローキックを避けた。
「くらえっ!」
日向は松山を避けて隙の出た若林を、狙いすまして後ろから押した。
「うおっ!」
前に倒れる若林の肩を、日向はそのまま地面に押し付ける。松山がいつの間に呼んだのか、石崎まで現れ、若林の手足を押さえるのを手伝った。
「行かせるか!」
暴れる若林を押さえ付けるのは、日向にも骨が折れる。催眠暗示と三杉は言ったが、怪しい薬か呪いの間違いではないかと疑い始めたところで、若林がいきなり身を起こした。
「ぅおおお!」
「何だとっ!?」
ウェイトが不足していたのか、松山、日向、石崎の重量を跳ね退けて、若林が頭を上げたところで、顔にボールが命中した。
「岬くんは俺が守るからね!」
「…う、うん」
薄れゆく意識の中若林が聞いたのは、ドライブシュートで若林を仕留めた翼の勝鬨だった。

「大丈夫?」
若林の落としたタオルを拾い上げ、身長差もさることながら、体格差のある相手をまっすぐに見上げて、岬は問い掛けた。
 さっきまでの記憶があいまいな上、岬に近付こうとする度に実力行使されるため、自分が何かやらかしたらしいと若林は結論づけた。それでも、こうして岬が普通に話しかけてくれるのはありがたかった。この笑顔に近付けないのは、心が乾いてしまいそうだ。
「ありがとう。何とかな。体が妙に痛いのは困るが」
あの防衛線を突破したのは、体のリミッターが外れていたのもあるだろう。岬はそう考えながらも、ひそかにため息を落とす。この様子では、覚えていないのだろう。
「どういたしまして。じゃあ、お大事にね」
背を向けて歩き出した岬を見送り、後ろ姿を観賞したところで、若林はふと引っかかるものを感じた。
 さっき岬がタオルを拾ってくれた時に、見上げて来た岬の顔に何故か見覚えがあると感じた。
 何故かひどく胸に刺さるような甘さ。
「岬っ!!」
呼び止めて何を言えば良いのか分からないまま、若林は叫んだ。
「何?」
振り返った岬に追い付いた若林は肩に手をかけようとして、手を止めた。岬の細い肩の感触が不意に手の中に蘇った。そして、華奢な体、ほっそりした背中の線。薄いピンクの柔らかそうな唇。
「前にこんなこと…あったな」
「そうだよ。…思い出した?」
囁くように潜められた岬の声に、責めるような響きを感じて、若林は目を瞠った。
 この事件の前は、若林が距離を詰めれば、岬は再度その距離を空けて逃げようとしていた。それが、今はその距離を保とうとしていないことに、若林は気付いた。
「思い出せないんだが、一つ言っておく」
腕を掴まれても、岬は逃げる様子もなかった。
「好きだぜ」
もし、今度のことがなければ、自分の想いに気付くことはなかったと岬は思う。人前で同性に唇を奪われたのだ。普通ならずっと避けても許される。それでも気にならなかった。暗示の上でのキスだったのが恨めしく思えるほど、ドキドキして止まらなかった。
「僕も」
急に腕の中に飛び込んで来た岬に、若林は幸せな気分で腕を回した。

 その若林の幸せが、暗示にかかっている時に既にキスを済ましていたという事実に打ち砕かれるのはまた先の話。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
後編は暴走する若林くんが防衛線を突破して…という絵面だけで書きました。ラスボスの翼くんも。
前編では翼くんは葵くんと練習中だったので、とっさに止める人がいなかった、という設定。

7/16からブログの夏休みとして、1ヶ月位パラレル連載します。明るい話ではないためご注意ください。(書いた私は楽しかったのですが)
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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