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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
危険な術(前)
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

 事件は、三杉のごく小さな呟きから始まった。

「あれ?」
夕食後の談話室で、若林のテーピングを直していた三杉が不意に手を止めた。
「若林くん!」
三杉の制止を振り切って若林は立ち上がった。止めていないテープの端をヒラヒラと揺らし、若林は周囲を見渡す。
「どうした?」
心配そうな三杉の声と視線をさまよわせる若林の様子に、日向が立ち上がる。弟妹の世話に慣れている上、寮生活の長い日向は、一目で若林の異変に気付いた。
「おい、大丈夫かっ!?」
視線の定まらない様子の若林に、腕を掴んで揺するものの、若林は全く反応する様子もない。業を煮やした日向は、座ったままの三杉に視線を向ける。
「三杉、どうしたんだ?」
「…すまない。僕はうっかり若林くんに暗示をかけ損ねてしまったらしい」
日向に声をかけられて初めて、三杉が弾かれたように答えた。さっきまで半ば意識が抜けたような顔をしていたものの、今は表情も元に戻っている。
「はあッ!?」
日向が至近距離としてはあってはならない音量で聞き返した。三杉は半分耳を塞ぎながら、日向を見上げる。
「言葉の通りだよ。リラックスさせようと理性を抑制しようと思ったら…やりすぎちゃって。欲望が解放されて、やりたいことをしてしまう状態なんだ」
「どうして、お前はいつもいつも…」
日向に釈明を始めた三杉の側、若林は周囲を見渡していた。ただならぬ様子に数人が立ち上がる中、その内の一人、岬に目を留めた若林は、そのまま一目散に近付いていく。
「若林くん、どうしたの?」
話しかけた体勢そのままに、岬は不意に抱き寄せられた。岬を抱き締める若林は、獲物に襲いかかる猛獣並の早さで、誰も止めることはできなかった。
 若林が岬に想いを寄せているらしいというのは、合宿所内では既に噂になっていた。世界旅行から戻った岬が合流した途端に、若林が妙に機嫌が良くなったことは衆目の一致するところだ。そして、テーピングを頼んだり、遊びに誘ったり何かと近付こうとする若林に、岬が少し戸惑っているのも明らかで、三杉がテーピング役を引き受けたという事実もある。
 そもそもそんな事情がある中、若林の理性が低下し、欲望の塊と化したところに、当の岬が現れたのだ。抱きついた勢いに、やはり噂は本当だったのかと好奇心の目を向ける者や、心配そうな目を向ける者もいたが、若林の異常な気迫に、誰も近付けないでいた。
「ちょっ…と」
色白の頬を赤く染め、岬は後ろに逃げようとするが、背後に伸ばした手はテーブルに当たり、それ以上は逃げられそうにない。
「岬」
熱のこもった口調ではあったが、いつもよりも更に甘い声で囁かれ、岬はテーブルに手をついたまま動けなくなる。岬の顔を両の手で固定すると、若林は覆いかぶさるように唇を重ねた。長い睫毛に飾られた大きな目を見開き、岬が身体をよじるが、腕力の差は歴然としていて、若林は逃がそうとはしない。右手を岬の背中にまわし、それ以上動けなくする。
「んん…」
岬が苦しそうに呻いたのが合図のように、日向に長々と説明していた三杉が慌てて立ち上がった。続いて日向も動き出し、二人して駆け寄る。その声で、固まっていた面々が蘇生した。
「おい、若林!」
「若林くん、やめたまえ」
「岬に何しやがる!」
「やめるタイ」
言葉よりは周囲の助力もあり、ほぼ腕力での救出になった。

「落ち着いたかい?」
「うん、何とか」
別室で尋ねる三杉に、岬はまだぎこちなく微笑む。まだ顔が赤いのも無理はない。たまたま昼食後、天気予報の時間だったため、談話室に居合わせた人数は多く、滅多に見ることのない場面ということもあって、皆が食い入るように見つめていた。反射神経の塊である日向が動かなければ、救出は更に遅れていたに違いない。
「若林くんは?」
「とりあえず隔離中だよ。…こんな時でも、君は人の心配をするんだね」
三杉の皮肉に気付かない岬ではない。静かに微笑み、頷いてみせる。
「うん。若林くんが無理しているのは知っているから。こんな時くらい羽目を外せば良いんだよ」
いつもよりも余裕のある表情に、三杉はため息をついた。衆人環視の中、約2分間のキスシーンを繰り広げたのだ。同情にしては寛大過ぎる言葉の意味は、勘繰るまでもない。
「素直になれば良いのに」
言い捨てた三杉に、岬は更に低く温度を伴わない口調で突き返した。
「…そう思うなら、さっさと暗示を解きなよ」

 三杉が談話室に戻った時には、たくさんの監視があるとはいえ、若林はおとなしく座っていた。
「若林くん、テーピング直すから、少しじっとしていて」
横から掛けられた声に、若林が即座に反応する。
「どこへも行かないから、君も少し落ち着いてね」
若林が下から覗き込む岬の顔を見つめて、頷く。三杉は岬とは反対側の椅子に座り、嬉しそうに腕を伸ばしている若林を眺めた。大きな怪我をして、爆弾を抱えながら試合を迎える若林は、張り詰めた糸のようなものだ。せめて少しでも気を楽にしてあげようと三杉が気を利かせたことが、とんでもない結果をもたらした。
「…嬉しそうだね」
「岬がテーピングしてくれるんだぞ。まさに白衣の天使だ」
明瞭に話してはいる。それでも、視線は定まらず、いつ理性を失うか分からない。三杉が暗示を解く方法を考え始めた、まさにその時に岬が突然口を開いた。
「若林くん、君暗示にかかっているらしいけど、聞いてる?」
「ああ。さっき日向と松山から説教された。いや怒鳴られた、か?」
笑いながら口にする若林は普段とは変わらない。
「じゃあ、おとなしくしておいた方が良いね」
静かに話す岬を、若林は食い入るように見つめている。周囲の者達は更に固唾を飲んで見守っていた。いつまた襲われるとも限らないのに、平静を保つ岬の心情を慮る者も推測する者もいる中、岬はテーピングを終えた。
「…岬、怒っているか?」
若林にしては弱さの目立つ声が尋ねる。説教だけではなく、自分のしたことを覚えていることは確かだった。
「ううん。暗示だって分かっているから。三杉くんだって、若林くんの緊張を和らげようとしたんだよ」
大きく首を振って、岬はそのまま若林の正面に立った。
「悪いと思うなら、早く解いてもらって」
明るい笑顔で言い置き、立ち去った岬に、若林はすぐ近くで見守っていた三杉に尋ねる。
「岬怒ってるな」
「ああ。めちゃくちゃ怒ってるぜ、ありゃ」
若林の問い掛けに答えたのは、三杉ではなく日向だった。相変わらず不気味な怒り方だと、勝てない恨み込みで見送る。
「三杉、暗示をできるだけ早く解いてやってくれ」
「だよな。岬が迷惑するのは可哀相だ」
日向が横から口を出した松山を睨む。毎度のことながら、その意見は極端で、日向は若島津の不在を痛感した。
「僕は異存ないよ。ただ問題は」
三杉はそう言って、若林の肩に触れる。
「うまく解けると良いんだけど」
真面目そのものの口調の三杉に、日向はかえって戦慄を覚えずにはいられなかった。

(つづく)

拍手ありがとうございます。
前に海外ドラマの再放送を見ていたら、暗示をかけられた人が「一番したいこと」と誘導されて、想いを寄せる相手にキスをする、という展開がありまして、とてもおいしかったので。勢いのみで書きました。

以下、拍手お礼
ヨッシー様、コメントありがとうございます。そして、グラジャンのツインシュート素晴らしかったですね!若林くんが登場しなかったのは、拗ねていらっしゃるからだと解釈しております。
拍手のみの方もありがとうございます。励みになります。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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