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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
悪魔の誘惑
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

 それは、ささやかな好奇心だった。

「紅茶飲むだろ?」
「うん、ありがとう。若林くんが紅茶って珍しいね」
カップの取っ手に細い指を添わせ、香りを楽しんだ後、岬の唇がカップの縁に触れるのを横目で窺う。そして、岬の喉が動き、飲み込んだのを確認した。
「おいしい」
「良かった」
紅茶は上物だったし、淹れ方も教わった通りにできたはずだ。三杉が及第点をくれるとは思わなかったが、そればかりは仕方がない。


 三杉から連絡があったのは、先週だ。こっちに来る用事があるからと、事前に電話をしてきた奴は、うちと取引のあるドイツの企業の信用調査を頼む代わりに、ある薬をくれると持ち掛けて来た。
「素直になる薬だよ。なかなか折れない相手を、口説き落とすとかに使えるよ」
三杉の声は内容さえ聞かなければ魅力的といわれる声もあいまって、悪魔の誘惑そのものだった。思わず息を飲んで、聞いたことを反芻する。

 なかなか折れない相手を、口説き落とす。

 まるで、俺の心を見透かすように言いやがる。毎月のように誘い、一緒に出掛けたり飯を食ったりするが、それ以上には進まない関係。好きだと言葉にしても、考えさせてという言葉で、繋がれたままの。
「…害はないんだな?」
「ちょっと素直になるだけ、それも数時間効果が続くか続かないか…後遺症もないよ」
三杉は軽く話し、静かだが粘着性を感じさせる口調でまた囁いた。
「無味無臭で、紅茶に数滴垂らすだけで良いんだ」
声は出さないようにしている。つい息を飲んだが、気づかれてはいないだろう。まして表情は見えないはずだ。それなのに、こちらの目の色まで見えているかのような錯覚に陥る。つい聴き入った俺の顔色が変わるのを、観察しながら話しているかのようだ。
「紅茶はサービスしてあげるよ。ちょうど良い葉があるんだ。おいしいよ?」
それ以上は聞くに堪えなかった。俺が何も言えずにいることを肯定と捉えて、三杉は先を続けた。そして、俺は否定しなかった。

 三杉は、それからちょうど一週間後に来た。
「本当に害はないんだな?」
何度目かの問いかけに、三杉は苦笑していた。
「副作用はないよ。…若林くんは本当に心配性だよね、薬盛る気のくせに」
失礼なことを言い放ち、口元に笑みを浮かべてみせるが、目は全く笑っていない。
「悪いけど、君が誰に薬を盛るつもりかも分かっているんだ。友達に毒を盛るような真似はしないし、大事な情報提供者を怒らせるつもりはないよ」
その言葉には折れざるを得なかった。奴は約束通り、紅茶の缶と煎れ方のレシピもくれて、俺は一週間練習をした。


 他愛のない話をしながら、岬の隣に座った。何を言ったかはあまり覚えていない。いつも通り、チームのことや日本のことを話しながら、隣に手を伸ばした。
「岬」
肩に手を回し、引き寄せる。普段ならしないことだが、これ位ならそう問題ではない。
「ちょうど冷えるな、と思ってたんだ。若林くん、手あったかいね」
岬はそう言うと、俺の手を引っ張った。嫌がっているどころか、嬉しそうに聞こえる口調で、当然のようにくっつかれると、かえって俺の方が動揺しそうになる。…これはまだ、友達の距離だ。
「岬」
かろうじて声が出た。岬は振り返って、優しく微笑んだ。
「なあに、若林くん?」
今まで聞いたことのないような口調だった。甘えるように小首を傾げた岬と、目が合った。いつもならこんな距離を許されることはない。柔らかい肌の感触と、布地を通して感じられる体温に、緊張が高まった。
「好きだ」
じっと俺を見つめる瞳に、誘われるように声が出た。岬は一瞬目を細め、かすかに開いたままの唇が、動いた。何度も口にしてきた台詞だが、その過去とは違う反応だった。ふわっと持ち上がった口角は、笑顔の時のカーブだ。
「僕も」
言い終わるか終わらないかの内に、唇を重ねた。抱き寄せるまでもなく添われても、まだ満たされることはなかった。背を反らせる程に強く抱き締めて、深く口付ける。のしかかる俺の背に、そっと手がまわされたのを感じたら、もう引き返せないと思った。

 そこから先は、今まで自分独りで思い描いていた、それ以上の状態だった。岬は苦しそうに眉を寄せてはいるものの、快楽に目を輝かせ、身を委ねていた。細い体を揺すると、蕩けそうな声を上げる様はどこか幸せそうだ。どうして今まで我慢できていたのか、不思議でならなかった。荒い息の下で、名前を呼ばれるだけで、また欲が疼いた。
「……す…き…」
上気した頬に汗がにじんでいる。涙の浮かんだ目は、言葉よりも雄弁だった。上擦った息の切れ間に囁かれた言葉に、思わず強く抱きしめた。


 薬の効き目が切れたのは、二人で眠りについて数時間経ってからだった。あるいはもっと早かったのかも知れない。俺の胸にもたれかかって眠っていた岬は、目を覚ました途端に、ゆっくりと周囲を見渡した。それから、みるみる赤く染まる頬に、その時間が終わったことを知った。
「岬」
動揺が収まったら、岬は逃げ出すような気がした。まだ眠りの覚め切っていない無防備な体を抱き寄せて閉じ込める。岬はびくりと体を震わせ、俺を見た。
「あの……これは…昨日は僕おかしかったみたいで…」
説明を求めるのではなく、弁解しようとする辺り、昨夜のことを覚えているのは明らかだった。もう、逃がす理由はなくなった。
「好きだぜ。お前もそう言ってくれたよな」
岬は困ったように眉を寄せたものの、黙って頭を預けてきた。


 それから一週間後、また三杉がやって来た。
 件の会社を訪れたついでに、情報提供の礼を言いに来たらしい。俺の家に残ったままの岬の荷物を一瞥して、日本土産の羊羹をテーブルに置いた。
「わざわざありがとうな。あの薬も。…効き過ぎて怖い位だが、本当に副作用はないんだろうな?」
三杉がくどいと苛立ったことは、ポーカーフェイスの割にははっきり伝わった。三杉のことだから、わざと表情に出したに違いない。
「勿論大丈夫だよ。君は惚れ薬みたいに思っているけど、違うんだよ」
そう前置きした後、三杉は声のトーンを落とした。
「あれは、ちょっと理性を低下させる薬なんだ」
「はあっ!?」
三杉はあっさり言ってのけた。
「アルコールみたいなものだよ。酔うと、羽目を外す人もいるだろう?」
三杉は笑いながら俺の淹れたコーヒーを味わっている。確かに、惚れ薬なんて物騒なものがあるのなら、俺の家では飲み食いしないだろう。間違っても三杉にそんな物を盛る気はないが。
「欲望が抑えられなくなる、と言う方が良いかな。だから、嫌なことはやらない。本能のままに、動いてしまう。そうなると、岬くんの気持ちはそもそもどうだったんだろうね」
岬がいない時で良かった。それなら単純に惚れ薬の方がマシだった。幸い岬は留守で、俺は潤んだ双眸を向けてきた岬を思い出した。それこそ、思い出すだけで胸が痛くなるような眼差しだった。
「それは聞かなかったことにするな。あと、この薬はもう返す」
「そうだね。僕としたことが、いらないお節介を焼いて悪かったよ」
三杉は静かに言った。その口調からは悪魔の片鱗も感じることはできず、三杉が岬の親しい友達であることを改めて思い出させた。
「また来いよ。今度は岬のいる時に」
「是非そうさせてもらうよ」
三杉はそう言って、もうすぐ岬の越してくる俺の家を後にした。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
「五十音」終わりました!!
五十はないのですが、それでも結構ありましたし、「る」とか本当に苦労しました。
源岬に限定したことも実は地味にきつかったり。後は三杉くんばかりだったので、最後も三杉くんで。(「愛してる」で〆ようと思ったら書けなかったのもありますが)
こんなダラダラブログですが、まだまだよろしくお願いします。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


コメント
達成!
五十音達成おめでとう御座いますー!♬♬٩(๑❛▽❛๑)۶♡
しかも最後にまさかのラブな合体!
今度パセラかどっかでサライ熱唱しますねw
やはり真さんは良い意味で源岬廃人だなあと痛感しました!
師匠と呼びます!
[2016/07/09 21:09] URL | みちんちん #ntbreMG6 [ 編集 ]


50音達成おめでとうございます&お疲れ様でした。毎回楽しませていただきました。
メインの二人はもちろん、すっかりレギュラー化した三杉くんや若島津くんも愛しかったです。
源岬縛りじゃないお話だとどんな風になったのかなとそっちもちょっと気になりました。(どうでもいいけれど字面がヤバいですね、源岬縛りって)
楽しそうだったので、真似してやってみたくなりました。お話は到底無理だけど簡単な会話くらいなら出来るかな。
次の連載も凄く楽しみにしています。
[2016/07/10 04:45] URL | 銀月星夢 #mQop/nM. [ 編集 ]

Re: 達成!
みちんちん様、コメントありがとうございます!
確かに、ラストで「できあがる二人」でした!
気付いていなかったので、何だか感慨深いです♪
サライ…黄色いTシャツは着て行きませんから、やめて~。
いや、もう廃人で良いです。認めますとも。
引き続き、萌えの供給にご協力ください!!
[2016/07/10 22:20] URL | 真 #- [ 編集 ]

Re:
銀月星夢様、コメントありがとうございます。
メインの二人だけでなく、じゅんちゃんけんちゃんへのコメントまで♪
源岬ではなく、若林くん単独の話になりかけていたものもあったのですが、何とか源岬に。
いや、本当に「源岬縛り」って単語だけで萌えるので、そのタイトルでいつか書きたいものです。
会話だけでなく、どんどん使って下さいませ。こちらこそ、新作楽しみにさせていただきます!!
[2016/07/10 22:25] URL | 真 #- [ 編集 ]


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