※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 「それで?どうしても行くの?」 岬の問い掛けに、若林は深く頷いた。岬が嫌がっているのは分かっている。その上、一緒にと言われているのだ、抵抗もする。 「もちろんだ。この映画見たかったし」 堂々と言い張る若林に、岬は深いため息をついた。二人で映画に行く自体は問題ない。日本で、しかもその映画が小さな子供のファンが多い作品でなければ。
子供向けのアニメ映画に、人気Jリーガーの岬が本人役で声の出演することになった。岬自身は後でディスクをもらうことになっていて、見に行く気はなかったが、岬が黙っていたにも関わらず、国を越えて情報を入手していた若林はそうではなかった。 「大スクリーンでアニメの岬を見たいんだ」 「君の家のホームシアターでも見るんだから良いじゃないか」 心の底からイヤそうに、岬は言う。ただでさえ、日本国内で二人で行動するのは目立つ。そして、自分の試合以外の映像を目の前で見られるのには耐えられなかった。 「大丈夫だ。策は講じてある」 「君またサングラスで変装、とか言わないよね?バレバレだし、子供は泣くし、やめてよね」 「大丈夫だ」 力強く答える若林に、岬の不安は更に強くなった。
その日、待ち合わせ場所に現れた若林に、岬はあからさまに顔を背けた。変な金髪のかつらに、目の色を隠すサングラスのおかげで、一見して若林とは分からない。確かに前回のサングラスだけよりは格段の変装だ。 しかも、話しかけてくるのはドイツ語で、時々でたらめな日本語を交えている。 「君、それ何のつもり?」 「Japanischシラナイ」 でたらめなアクセントに加えて、ドイツ語風の発音に、岬は頭を抱えた。 「僕には一切話しかけないでね。お願いだから」 「ya」 ピエールが時々得意げに使ってみせる日本語よりもひどい、と岬は確信した。
これ以上岬の怒りを買うのを恐れてか、若林はそれから話しかけなかった。おそらく誰かの真似に違いないと考えていた岬はネタが尽きたのではないのかと勘繰ったものの、とりあえず安心はした。近くにいる子供達から奇妙な目で見られることも、自分が笑い出しそうになるのにも堪えられそうになかった。普段ドイツ語を話している時の若林のカッコよさを知っているだけに残念で、八つ当たりだとは分かっていても。 それに、自分の出演シーンは正視できそうにない。こうして無視する口実があるのは実に都合が良いことと言えた。
「すまん、待たせたな」 岬は映画館の入口で待っていた。グッズを買い漁っている内に放置した若林が、金髪のかつらを外して出て来たことに気付き、ほっと胸を撫で下ろす。 「外して来たの?」 「ああ。飯食いに行くのに、あの恰好はないだろ?」 「ご飯じゃなくてもあり得ないよ」 苦言を呈しながら、岬は大きな紙袋を下げている若林の様子を窺う。映画館のショップの袋が共通仕様でなければ、横に並ぶのを許しはしなかった。巨大な袋いっぱいに何を買ったのかと不安になる岬に、対照的に機嫌の良さそうな若林。 「アニメの岬可愛かったな。後光が差してたぜ」 「ああいう演出なの」 アニメに登場したのは3Mで、三杉は華麗に、松山はさわやかに、岬は繊細そうに描かれていた。キャラクターデザインが少女漫画家という作品だけあって、ゲストキャラ3人の造形もそれは見事なものだったが、岬は光り輝いている自分、に違和感があり、椅子でずっともじもじしていた。 「まあ、本物には遠く及ばないがな」 ほんのり頬を染めて、恥ずかしそうにしている岬の様子を見られただけでも、一緒に来た甲斐はあった、と若林は思った。覗き込んだら怒られるのは間違いなかったから、知らないふりをして、眺めていた。 「カルツの真似をして見に来た甲斐があったぜ」 「あれって、カルツの真似だったの!?」 そう聞けば、確かに少しなまった口調はそうだったかも知れない。早く話を変えようと飛びつきかけて、岬は本当に言うべき言葉を思い出した。 「もう二度と一緒に行くのいやだからね」 「じゃあ、次は俺の家のホームシアターな」 それまで茶化していただけに、急に本気を出した若林の囁き、の威力を岬は忘れていた。不意打ちのように、耳元に落とされた囁きに、岬の顔がみるみる朱に染まる。さっきまで一緒にいることが恥ずかしかったことは頭から抜け落ち、違う動悸が収まらなくなった胸を抑えたのだった。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 周囲にはばれていると思います。嘘をつく時は、くれぐれもご注意を。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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