※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 最初に岬の声を聞いた時に、僅かに違和感があった。 「どうした?疲れているみたいだな」 「先輩を見送ったり、なかなか大変だったから」 電話の向こうの岬は、ぽつりぽつりとゆっくり話した。確かに、疲れているらしい。 「でも」 岬はそこで逆接を使った。心配させまいと気遣っているのではないかと、かえって心配になる。 「どうした?」 あまり心配ばかりするのも岬は気にするだろうから、俺は努めて軽く尋ねた。 「通学路の桜に、蕾がついたんだよ。まだ肌寒いのに」 そう語る岬の声は静かではあったが、朗らかに響く。そうだった。故郷の3月は梅や桃が咲いて、その次に桜が花開く。 「じゃあ、もう春なんだな」 「まだ肌寒いけどね。でも、もうすぐだよ」 ドイツの春は遅い。カレンダーを見ても、春の実感はない。だからここ数年は、俺が春を知るのは岬からになっていた。 「もうすぐ俺の好きな春になるんだな」 「そうだよ。僕も大好きな季節だ」 岬の声から、春の気配を感じる。慣れ親しんだ場所ではあるが、それでも故郷の春は特別だ。 「また写真送ってくれよ」 「うん」 去年に送ってくれた写真の一枚は、堤に植えられた桜が満開で、トンネルのように見えるもので、随分気に入ってしばらくサイドボードに貼っていた。岬はこっちの春が遅いのをよく分かっていて、それぞれの時期の花の写真を送ってくれたから、俺は今まで知らなかった花まで楽しむことができた。 「ちゃんとお前が写っている写真な」 「君はそればっかり」 岬は笑うが、いつも春を知らせ、俺の心にまで春をもたらしてくれる岬は、まるで春の精だ。 「春の精がいたら、春が来たのが分かるからな」 「それより、見たい花は?」 くすぐったそうに促す岬の声に、また心が弾んだ。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 友達からのメールで「もうすぐ一番好きな春が来る」という部分があり、それだけで、春が急に間近に迫って来た気がして、本当にワクワクしたんです。自分のワクワク感すら再現できずに、本当に残念です。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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