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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
逃げ水
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。


「それで、もう帰っちまったのかよ?」
カルツの問い掛けに、若林は憮然として頷く。若林のところに久しぶりに岬が来たのは、チームの誰もが知るところだ。それほど、若林は浮かれていたし、嬉しそうだった。
 若林の様子にすべてを悟ったカルツに、若林は独り言のように呟く。
「今回は短かったな」
昨日までとは明らかに違う態度に、今度はカルツが首を振った。
「何だ、ゲンさんついに手ェ出して振られちまったのかよ」
からかうというよりは慰める口調のカルツに、若林はまた首を振った。そんな単純な話なら良かった。


 岬が来るとなると、若林の生活は一変する。仕事サッカー、特技サッカー、趣味サッカーの翼程ではないが、そう変わらない若林の生活が、彩り豊かなものになる。健康管理のための食事は楽しみに変わり、日頃は億劫な休日の外出も娯楽になった。一緒にいると気を遣わなくても良い、だが心の弾む相手だった。
 カルツ達はその思いに恋というレッテルを貼ろうとしたが、そんなものではない。

 岬は、時々ふらっと現れる。若林の家に遊びに来て、泊まっていくものの、それ以上のことは求めない。
 若林以上に友達が多く、人付き合いの活発な岬だ。当然に付き合っている相手がいるらしいことも、若林は知っている。その相手がよく変わることも。
「・・・何か違うんだよ」
詳しくは知らなくても、それくらいのことは話す友人関係である。
「若林くんは、僕のことそういう対象じゃないだろうから、ずっと友達でいられるのが嬉しい」
いつか岬が口にした言葉を、一言一句たがわず思い出せるのも未練がましい。友情の言葉で蓋をして、挨拶代わりのキスも、他の者とはしていても、苦手な若林には求めては来ない。最近では、友達同士としての抱擁すらしない。
 正々堂々、清い友達関係だ。

 だが、そうとも言い切れないことを若林は知っている。

 岬が自分を見る時の目を、知らない訳がない。
 岬が自分の視線に気付かない訳がない。

 岬の白い首筋や細い指先に誰かが触れたと想像すると、胸の中が火がついたように熱くなる。
 その感情の名前は、もう知っていた。
 追われると消える逃げ水は、いつか追う者を溺れさせる。

 溺れるのが先か、捕まえるのが先か、それとも。

 水を得られずに渇いて飢えるのが先か。

「いつもの気まぐれだろ。また来るさ」
それまでに、答えが出ているかは分からない。それでも、いつかはこの関係が変わるのは間違いなかった。いつかは、分からなくても、そう遠くはないと若林は思った。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
最近同じようなものを書き続けていたので、違うものを。続きます。

先日来、大変な地震が起こっており、不安な毎日を送る方が多くおられます。
昨年熊本城に行き、雄大さに感銘を受けました。その旅行の時を思い出し、旅先でもあれ程印象深い風景が失われ、暮らしが脅かされていることを思えば、被災された方の大変さは計り知れません。一刻も早く地震が収まることを心から祈ります。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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