※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 曇り空に、乏しい光で街ごと灰色に見えるそんな冬の日に、岬は突然やって来た。いつもは会いたいと言ってもなかなか会ってくれない岬らしくないふるまいだが、嬉しくない訳がない。すぐに招き入れる。 冷たい空気をまとったまま岬は部屋に入って来た。いつもなら、玄関のドアを閉めた時に抱き着く俺も、まずはヒーターに近いソファーへ案内した。
ソファーでホットミルクを飲む岬の隣に座り、肩を抱く。岬はこちらを見ないまま、カップを置いた。それを承諾の印と解釈して、前にも腕を回すと、岬はそのままもたれかかって来た。
どうしたのだろうか。
まず最初に思ったのはそれだった。俺と岬は恋人同士だが、相当な奥手で恥ずかしがりである岬は、抱き寄せることにさえ抵抗を示す。ましてキスなんか、簡単には許してくれない。 それが、今日はやけに素直に甘えて来ている。 「ねえ若林くん」 岬は細い声で話し掛けて来た。もし、これだけ密着していなければ、気付かなかったかも知れない。 「なんだ、岬?」 岬はゆっくりと顔を上げ、俺を見た。可愛い顔立ちにあって、凛とした印象の強い双眸が潤んでいて、ぞくっとした。 「若林くん、別れようか」 限界まで溜まっていた涙の粒が、ゆっくりと頬を流れ落ちる。切々と訴えるような岬の声は、どこか遠くに聞こえた。冷静とは程遠い頭を立て直して、できるだけ穏やかに尋ねる。 「どうした?俺のことが嫌になったのか?」 「ううん、そんなことない」 岬は大きく首を振った。その必死な表情に嘘でないことは明らかだった。だから、怒る気にもなれず、ただ岬がこんなに苦しそうな理由が知りたいと思った。 「それなら、どうして・・・」 「今度・・引っ越すことになって・・・もう会いに来れない・・」 途切れ途切れの言葉を拾う。 引っ越し続きの岬だ。いつかこんな日が来る可能性はあった。それでも、岬は分かっていない。俺が、距離くらいで手放すと思っているのかよ。 「俺は許さないからな。絶対に別れてなんかやるもんか」 そのまま強く抱き締めた。岬は驚いた様子で、顔だけ上げた。 「だって、会えなくなるんだよ?」 岬がこんなことを言うのは、一緒にいる時には俺がひたすら側から離れず、いつも会いたい会いたいと連絡するからだろう。会っていない時の俺はクールで通っていると言っても、岬は信じない。 「俺が会いに行く。それなら良いだろ?」 「いやだよ。そんなに離れているなんて辛い」 「はっ?」 今度は俺が驚く番だった。好きどころか、会いたいという言葉さえ、恥ずかしくて口にするのをためらう岬が、すごいことを言ったものだ。 「僕のこと忘れてよ。その代わり、君のこと忘れさせて」 そう言いながら、俺の服を掴んで泣いている岬のことを忘れることができるはずがない。どうして良いのか分からない衝動が、体の中で暴れた。 「じゃあ、もう帰るのはやめて、このまま一緒に住むか?」 冗談で言ったつもりだった。岬のことだから、断って帰ると言うと思っていた。3割くらいの本心に、6割くらいの下心があったとしても。だが、岬は涙を拭い、ゆっくりと顔を上げた。 「良いの?」 目は真っ赤だ。頬も赤いし、涙の跡も残っている。涙を拭っても、さっきまで泣き崩れていた顔だ。それでも、その笑顔はとてつもなく可愛く見えた。優しい笑顔とその下のぶ厚い鎧の下の、岬の心に触れたように思えて、俺は岬を抱き締めた。 「もちろんだ」
こうして、岬は俺の家で暮らし始めた。その時のことを言うと、恥ずかしいらしくて、いつもすぐに逃げ出そうとする。それがまた可愛くて、ついからかってしまうのだった。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 何となく書いてしまいました。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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