※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
転校初日は本当に良い天気で、この町に来て良かったと思った。春らしい暖かい日差しの中をドリブルするのは気持ち良かった。小学校に人がいなくて、他の小学校に行かされるという事態でなければ。 それにしても、対抗戦というのはそんなに大きなイベントなのだろうか。近くに全然人がいなくて、道を聞くこともできない。 「なんで南葛小にはいるのに修哲小までいかなきゃなんないんだろ」 つい愚痴っぽくもなるけれど、こう人がいないと楽しくなる。だったら、ドリブルを楽しんでしまおう。人通りのない道は、すごく走りやすい。よし、あの電柱の間をとおして、むこうのカベへシュートだ。 「やあっ」 その途端、電信柱の影に、人の姿が見えた。ぶつかるっ! 「あっ・・・あぶない!!」 ところがそうはならなかった。結構きつく蹴ったのに、相手は楽々と受け止めた。 「町ん中でむやみにボールをけるもんじゃないぜ!」 怒る、というよりは叱られたと感じた。大きな声だけど、決して怒鳴った訳ではなく、諭すような響きがあった。 「ごめんなさい」 年上だろうけど、そう年の離れていない相手から注意されて、すごく恥ずかしくなった。慌てて謝り、頭を下げると、不意にぽんと頭に手を乗せられた。 思わず顔を上げる。すると、相手は笑顔だった。 「ちゃんと謝れたな。次は気をつけろよ」 怒っている様子はない。穏やかな笑顔は思ったより優しくて、ドキッとして、次の瞬間、胸の中に暖かいものが生まれた。
そんな転校初日のことを、誰にも話したことはなかった。僕自身の失敗でもあるし、てっきり年上だと思っていたら、その後対抗戦で対戦したこともあって、気まずかったこともある。 「あんまり俺と話してると、南葛の奴らに怒られるぞ」 偶然河原で会った時に、改めて謝った僕に、若林くんの言った言葉だ。 「知ってると思うが、南葛と修哲は仲悪いんだ。下手したら、いじめられるぞ?」 それは知っている。対抗戦の前から対立していたこと、その後もわだかまりは解けなかったことも。若林くんなんか、ひどい言われようで、あの時僕が会った人だとは思えなかった。あんなにやさしく笑えるのに、きっと誰も知らないんだ。 「若林くんは優しいのに」 思わずつぶやいた僕に、若林くんは少し目を見開いた。 「俺が?まさか」 いかにも意外そうな表情に、僕の方がかえって不思議だった。怒られても仕方なかった。それでも、若林くんは怒らなかった。もし僕が女の子なら、恋に落ちちゃうパターンじゃないだろうか。 「少なくとも、僕はそう思う」 他の人のことは知らない。みんな人のことを色々言うけれど、それが常に正しいとは限らない。今までいろんなことを言われてきたから、よく分かる。だから、僕はいつも自分の目で判断したいと思う。 「そうか・・・」 若林くんはまだ意外そうな口調でつぶやくと、僕を見た。 「岬は不思議な奴だな」 「そう?」 見返すと、若林くんは静かに続けた。 「大体怖がられるからな」 若林くんの反応の方が意外だった。僕は柔らかい口調と女っぽい顔のせいで、必要以上に軟弱に見えるらしい。だから、あまり知らない人達はかばってくれたり、いじめようとしてきたり。しばらくいると、案外強情で気も強い本性がばれるらしくて、小次郎なんか「お前、転校先ではおとなしくしとけよ、化けの皮はがれないようにしろ」なんて失礼なことを言ってくれたものだ。そう親しくもない若林くんに指摘されるとは思わなかった。 「初めて会った時優しかったしね」 そう言うと、若林くんは急に右手で自分の顔を押さえた。指の隙間から、みるみる赤くなっていくのが分かる。 「それ、絶対周りに言うなよ」 ・・・この状態で怖いなんて思う訳がない。あんな優しい笑顔で笑うし、優しいって言っただけでこんなに照れるなんて。 そう思った途端、急に胸がドキドキしてきた。すぐにでも走り出したい気分だ。 「言わない・・・」 この状態をどうやって人に伝えると言うんだろう。負けず劣らず赤くなった顔を隠して、僕は答えた。
あの時、確かに恋に落ちたのだと、今はっきり分かった。うん、あれは恋に落ちても仕方のないシチュエーションだった。
「岬」 「ん?どうしたの?」 しばらく黙ったまま、お互い立ちつくしたところで、先に口を開いたのは若林くんだった。 「白状しとくとな、あの時岬が可愛かったから、怒れなかっただけなんだ」
どうやら、この勝負は引き分けのようです。
でも、あの時の笑顔で言われたら、負けていたのは僕の方だった。
「僕も、あの時・・・」 打ち明けたら、あの時のように笑顔になってくれるかな?若林くんを見上げて、僕は切り出した。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 風邪がどんどんレベルアップ中。喉のみ→喉・熱→熱・喉・鼻。しんどい。 今日の記事はまとめサイト記事が好きすぎて、書いてみました。 原作若林くんの記念すべき最初の笑顔ですからね。 年内あと1回は更新したいものです。頑張ろう。
スポンサーサイト
テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
|