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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
波の音
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

 若林くんの誘いに乗って、港町に出掛けたのは秋になってからだった。
「潮風が気持ち良いね」
「そうだろ?」
ひんやりした潮風は心地好く、海に来たという実感が沸いた。
「若林くんはよく来るの?」
後ろを歩く若林くんを振り返ると、短い髪をなびかせたままに、風を浴びている様子だった。
「ああ。昔からよく海には行ってたからな」
夕陽が照らす海面を眺めながら、若林くんは静かに笑う。単調なようで、少しずつ変わる波の形は、確かに見飽きることはない。
 記憶を辿れば、そんなこともあった。遠い昔、どこかも覚えていない町を離れることになった時、ようやく慣れた波の音を聞きながら、暗くなるまで、寄せては返す波を見ていた。ざわつく胸の奥に、その静かな音を沁みつけるように。
 若林くんといると、まるで海と向き合っている時のように、楽になれた。聞き上手な若林くんがじっと話を聞いてくれるだけで、胸のつかえが軽くなるようだった。そんな若林くんも同じ思いを抱えているとしたら。
「若林くん、何か辛いことがあったら、いつでも聞くよ」
気付くと若林くんは僕の隣に来ていた。
「お前に再会してからは来てないな」
そう言って笑う若林くんの笑顔は明るくて、嘘でも嬉しかった。
「それなら良かっ・・・くしゅんっ」
夕焼けから夕闇に変わりつつある空の境目に、段々と寒さも追いついて来る。気がつけば、随分冷え込んで来ていた。薄手のマフラーは巻いて来たけれど、意識するとやっぱり寒い。
「岬、これ貸してやる」
若林くんは自分のパーカーを脱ぐと、僕の肩に掛けてくれた。じんわりとした暖かさにほっとしながらも、振り返った。
「ありがとう。でも若林くんは寒くないの?」
僕よりは寒さに強そうだけど。若林くんはすぐ隣まで来て、にやっとしか言えないような笑顔になった。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
そう言うと、若林くんはパーカーを取り返して羽織り、それから僕ごとパーカーの中に巻き込んだ。パーカーよりも、若林くんの腕は更に暖かくて、寒いどころか顔から火が出そうだと思った。
「・・・何するのさ」
「一番あったまる方法だろ?」
悪びれる様子もなく、若林くんは抱き寄せる腕に力を入れる。波の音さえ遮るように、心臓の音がうるさい。
「好きだぜ」
それでも、その呟きは聞こえた。いつもの僕なら聞こえない振りをしていた。でも、こんなに近いとそうもできない。動揺を隠して顔を上げると、若林くんはまた海を見ていた。
「もう少し待とうと思っていたんだけどな・・我慢できなくなった」
珍しく口ごもる様子に、僕は更に動揺して言葉になりそうもない。ドキドキする鼓動に、いつのまにか寒さすら忘れた。
「僕も君と再会してから、海に行かなくなったよ」
フランスに来てからも、サッカーの助っ人で港町に行くことはあった。それでも、海を見に行くことはなくなった。
 若林くんの言う感情とは違うかも知れないけれど、一緒にいるだけでこんなに安らぐ相手は初めてだった。
「君の言う好きじゃないけど、若林くんといるのは好きだよ。また海見に来ようよ」
「そうか・・・じゃあ、また誘うな」
戸惑っているくせに、突き放すのは嫌だった。
 若林くんは気にした様子もなく、静かだった。本気にした僕がばかだったのかと、何だか悔しくて、若林くんの腕に掴まった。
「どうした、岬?」
その途端に嬉しそうに覗き込んでくる若林くんに、何だか悔しくなった。
「寒いだけだよ」
そう言うと、若林くんはいそいそと強く抱き寄せて来た。それでかえって恥ずかしくなって、マフラーに顔を埋め、僕は途方に暮れる。それでも暖かい腕の中は居心地よくて、離れる気にはならなかった。

 遠くから聞こえる波の音も、いつもよりは優しく響いていた。

(おわり)


拍手ありがとうございます。
パーカーに二人で包まるバカップルを書くつもりが違うものに。あれれ?

仕事が忙しくて落ち着いて書いている暇がありません。クリスマス話・・・暇があれば書きたい。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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