※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 「誕生日プレゼントに、お前の秘密を一つ教えて」
誕生日に欲しいものがあるかと尋ねた僕に、若林くんは様子をさぐるというよりは、甘えるような口調で言った。二人でいる時に繰り出されるこの攻撃はなかなか手強くて、僕はいつも断り切れずにいる。 そういう意味では、いつものように、会いたいと言われなかったのは助かったけれど、それでもなかなかの難題だ。
付き合っているとは言っても、普段は海を隔てて遠くにいる。秘密という訳ではなくても、共有できることの方が少ない。 だからって、何でも良いという訳ではないだろう。ジョンに眉毛を書いていたのが石崎くんだと知って、石崎くんの後頭部にこっそり眉毛型の紙を付けた話や、翼くんにサッカー部の写真を送った時に、中沢さんの写真をこっそり紛れ込ませた話ならあるけど、それは子供の悪戯の類いでしかない。 かと言って、面白い秘密がそうある訳でもない。僕の太ももにホクロがあることは、若林くんが教えてくれた位だ。
何より、秘密と言われて一番に思い付くのは若林くんのことだ。 誰にも内緒で会っていること。付き合っていること。キスをしたこともあること。 でもこれは二人の秘密であって、僕の秘密ではない。
後は・・・と考えて、、一つ思い付いた。若林くんが絶対に知らない秘密。 若林くんが思っているよりもずっと、僕は若林くんのことが好きだ。
ドイツに初めて会いに行った時はそういう話になる度に話を逸らしたけれど、小学生時代から気になる存在だったのは確かだった。
全国大会決勝戦の日、誰にも言えなかったけれど、僕は緊張していた。ブラジルを目前にして気合いの入る翼くんや、若林くんが合流したことで落ち着いて見える修哲のみんなの中、明らかに震えている石崎くんの背中を撫でながら、僕も少し落ち着かなかった。あまり気負う方ではないし、そう緊張する方でもない。でも、正真正銘のラストゲーム。この試合が終わったら、もうこのチームにはいられない。できるだけのことをやる、後悔はしたくない。そう思うだけに、初めての緊張が重い。 そこに現れたのは若林くんだった。石崎くんの背中を撫でる僕を見て、近付いて来た。 「岬」 呼ばれて見上げると、若林くんは僕の頭の上に、ぽんと手を置いた。 「頑張ろうな」 若林くんがどれだけのものを背負っているか、みんな知っている。その若林くんに、これ以上背負わせたくなかった。 「うん、頑張ろう」 何より自分に言い聞かせた。僕が冷静でなくてどうする?MFの僕が周りを見られなくてどうする?緊張のせいか、胸の中で痛いようだった動悸は、心の中の熱に変わった。胸を灼くような思いに、これで前に進めると感じた。 「ああ、その意気だ」 若林くんと目が合うと、ふっと表情を緩め、それから他のみんなの方に歩いて行った。その後ろ姿を見送り、どうしても勝ちたいと願った。
多分、その時に、胸の中には熱のかけらが残った。時々蘇っては繰り返し、胸を焦がす想いに負けて、僕はドイツへの道を辿った。
今までその話をしたことはない。いつ好きになったかという話になっても、いつもはぐらかしていた。 「俺は、初めて会った時だな。岬にボールぶつけられそうになった時、何かすうっとリラックスできてな。サッカーはやっぱり楽しまないと嘘だと思ったんだ」 そう言う若林くんが対抗戦の時の五月晴れを忘れないと言うなら、僕だって決勝戦の高い空が印象に残っている。いつもチームのお客さんとして仲間を励ますことの多かった僕に、チームのメンバーとして励ましてくれるチームメイトがいたことも。
「誰にも秘密だけど」 若林くんの誕生日、電話で誰にも言ったことのない恥ずかしい秘密を話した。 「小学生の頃松山と雪サッカーでずぶ濡れになったことがあったんだ。それで慌てて、松山の家に行ったんだけど、松山の服で着られるのがなくて、お姉さんの服を借りて帰ったことがあったよ」 「その写真ないのか?」 「ないよ。すごく恥ずかしかったし」 一応プレゼントも送ったし、納得はしてくれていたけれど。
まだ、この秘密を打ち明けるのは怖い。保留になった僕達の関係が、変わってしまうかも知れない。 秘密を打ち明けた時の若林くんの表情を想像して・・・それから僕は今回はこの秘密を話すのはやめにした。 どうせなら、目の前で話したい。いつか若林くんの想いに応える勇気が出た時に。
(おわり)
若林くん、お誕生日おめでとうございます。 お誕生日話らしくしようと思っていたのですが、無理でした。でも、仕事が忙しくても、頑張って書いたのは愛ゆえ。本当に好きです。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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