※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 若林くんが誘ってくれたのは、動物園だった。何かの話で行ったことがないと言ったら、じゃあ、と誘ってくれた。好奇心はあったけれど、一人で行くほどでもなかったから、誘ってもらえたのはありがたかった。
若林くんと歩く動物園は思いの外楽しくて、初めて見る動物の大きさや鳴き声や動きに、キョロキョロしている僕を、的確に案内してくれた。 「岬がこんなにはしゃぐとは思ってなかったぜ」 「そう?」 それを言われると辛い。試合中でもないのに、喉が痛くなるほど、歓声を上げたのは久しぶりだった。 「ああ。何か意外で可愛い」 「えっ!?もう、何だよ、それ」 子供の頃から可愛いと言われるのは慣れている。でも、同い年に改めて面と向かって言われるのは、照れ臭い。女っぽい見た目はともかく、どちらかというと年の割には落ち着いている方だと思っているだけに、はしゃいでいて可愛いと言われるのは心外だった。 「ペンギンでも見ときなよ」 突き放して言うと、若林くんは小さく笑って、僕の肩を抱いた。 「岬が良い」 そう言われた途端、急に恥ずかしくなった。
若林くんに好きだと言われたのは、半年前再会した時のこと。好きとかそういうのは分からないから、と答えた僕に、若林くんは友達でも良いから、今まで通り会ってほしいと言ってくれた。僕の方も、若林くんとの時間が楽しいのは確かで、急に誘いを断るのも、とか自分に言い訳をして、それまで通り会って遊んだりしている。今日もそうだ。一緒にいるのは楽しいからと甘えていた。それでも、このままで良い訳がない。 「・・ダメだよ、離して」 接している肩から、熱が上がる。頭まで上ってくる熱気に、思わず振り払った手は、若林くんの頬に当たった。 「あ、ごめんっ!」 手首の痛みよりも先に、頭に血が上った。思いの外大きな音がしたのだ。痛くなかった訳がない。 「本当にごめんなさい」 「大丈夫だ」 頭を下げた僕に、若林くんはゆっくりと言った。顔を上げて見ると、少し赤くなっている。 「俺こそ悪かったな。そんなに嫌だとは思わなかった」 苦い口調に、楽しかった気持ちはあっという間に萎んだ。悪いことをしたという後悔よりも、寂しさが沸き上がり、僕は目を逸らした。 「そんなんじゃないよ・・・びっくりして」 「そうか」 安堵したように解けた表情に、僕の方が安心した。 「それより、手、大丈夫か?」 手首を掴まれて、持ち上げられる。掴まれた瞬間は反射的にびくっとしたけれど、口調から心配してくれていることが感じられた。 「赤くなってるから冷やした方が良さそうだな」 若林くんは僕の手を引くと、売店で交渉して、飲み物と一緒に氷ももらってくれた。
売店の前のベンチに腰掛けたところで、ようやく落ち着いた。僕は手を冷やしてくれている若林くんを見上げる。 「ごめんね。若林くんこそ、大丈夫?」 過剰に反応してしまった上に、ここまで世話をかけたことが恥ずかしくて、なかなか顔も見られずにいた。よく見ると、当たったところが赤くなっているようで、僕は若林くんの頬に手を伸ばした。 「ああ。これくらい平気だ。この前シュナイダーのボールがかすった時の方が痛かったし」 冗談めかして笑う若林くんに、笑い声だけ合わせた。そうは言ってもまだ赤いし、冷やした方が良いのかも知れない。 「ごめん、今度は僕が氷もらってくるよ」 立ち上がりかけたところで、若林くんが手を伸ばした。さっきまで冷やしていた僕の手を取って、自分の頬に当てる。 「冷たくて気持ちいいな」 今度こそ払いのける訳にはいかなくて、僕はそのままベンチに腰をおろした。若林くんと目が合うと、不意に笑顔を向けられた。 「何?」 好きだという告白を聞いて、嬉しかったのは確かだ。でも、その想いが怖くて、踏み切れないまま、それでも側にいたいという気持ちはあった。そんな僕の弱さも甘えも、怖いのに、その先も知りたいわがままも、自分の心に向き合いたくない臆病さも、きっと全部読まれているんだろう。絞り出した声は、低く小さくなった。 「ずっとこうしたかったんだよな」 からかうように軽く口にする若林くんに、だから信じられないのだと恨みごとを言いたくなる。 それでも、その笑顔を見ていると、何だか嬉しくなって、もっと見ていたいと思った。若林くんの言う好きは分からないけれど、こんなに暖かい気持ちのような気がした。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 デートの話を書きたかったんです。ただそれだけで。
以下、私事。 埼玉の方には非常に申し訳ないのですが、私の中では埼玉というと、日向くんと『翔んで埼玉』だったりします。 自分の中で「どうしてこう変わった」漫画家三本の指に入る魔夜峰央先生の怪作で、好きな作品集がリメイクになっていました。旧版持っているのに、書き下ろしありという帯に釣られて買ったのですが、期待していた続編ではなく。いや、うん、面白かったですが。 ということで、桐乃様、ごめんなさい。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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