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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
手と手
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。



「何だ、この混み具合は」
「ビックリするよね。日本の電車は混み過ぎだよ」
隣で岬が笑った。

 実家の用事で、一時帰国することになった時に、一番に連絡したのは岬だった。
 俺は岬が好きだ。小学校時代から何となく気になる存在だったのが、ドイツで再会してからは一気に意識してしまった。それで、好きだと気付いた。岬はほかのことは鋭いくせに、色恋のこととなると、翼並に疎いようで、遠回しに何度も言ってはみたが、全く気付く様子はなかった。わざとかわしているのかと疑う程。
その上、岬が日本に帰ってしまってからは、電話やメールくらいしかできていない。手紙は気が進まないようで、ましてやこっちに来てくれと頼むにも遠い。フランスにいる間は時々会いに来てくれたのが、嘘のように離れてしまった。
 岬に会わずに帰ることなど考えられなかった。
「うん、良いよ。ちょうどテスト週間で練習もないから」
「じゃあ、静岡駅で待ち合わせな。土産も渡したいし」
岬は新幹線の駅まで来てくれることを了解してくれた。

 そして、今に至る。
「僕も日本に帰って来てビックリしたよ。それでも、整然と並んで乗る辺りは、日本らしいけど」
電車のドア近くに落ち着くと、岬は笑いながら話す。しばらくぶりに会う岬は少し背が伸びたようだが、相変わらず細くて、しなやかな手で手すりを握って立っているのさえ、絵になった。
「前に森崎が手紙で書いて来てな、誰かと一緒しか乗れないな、と思ってたがこれ程とはな・・・」
「うん、慣れてないと降りるのも大変だよ」
岬は揺れるトランクを片手で押さえると、ドアの上の表示を見上げた。
「次だよ。気をつけてね」
試合中のように真剣な表情で見つめる岬に、俺は思わず息を飲み、頷いた。

「ほら、こっち!」
「おう」
駅に着くと、岬は俺の手を引いて進んだ。トランクを持っている分、ハンデがあると判断したらしい。確かに、引っかかりかけたのを、うまく回避して、首尾よく降りられた。そのまま改札まで進み、一息ついたところで、目の前にあった喫茶店に滑り込んだ。いつもなら、浪費をたしなめる岬が同意したのは、あの混雑が原因に違いない。

「なかなか大変だったな」
エスプレッソとカフェオレを頼み、一口飲んだ辺りで人心地ついた。岬は小さく首を振ると、微笑んだ。
「無事で何よりだよ。大変だったね」
中途半端な時間のせいか、駅ビルの喫茶店にしては広い店の中には客がまばらだ。トランクが邪魔にならないよう奥まった場所に陣取ったおかげで、ゆっくり寛げそうだった。
「岬、ありがとう。引っ張ってくれて助かった」
「ううん。前に、ドイツの駅で手を引っ張ってもらったからね、お返しだよ」
笑みを浮かべたまま、岬はカフェオレボウルを口元に運んだ。そして、ふと目を留めた。
「そう言えば、若林くんって手大きいね」
「いきなり、どうした?」
「さっき手を掴んだ時に、そう思ったんだよ」
何となく手を出して開閉してみせると、岬は俺の手をじっと見ていた。それから、右手を伸ばして、掌を向けて来た。比べろということか、と俺は左手を伸ばして重ねてみせた。第一関節の半分くらいの差があるが、指の太さの差は更に歴然としていた。
「ほら」
岬は何故か得意げに言った。だが、俺はそれよりも他のことが気になっていた。
「岬の手は柔らかいな」
さっき手を引っ張られた時にも気になっていた。ふわっとした感触の掌は、意識し始めるともっと気持ちよく思えた。
「そうかな?」
「俺は手の皮厚いから、硬いぞ。触ってみろ」
「そうなの?じゃあ失礼して」
テーブルに左手を置くと、そのまま岬の指先が伸びて来た。白くほっそりとした指先は、少しひんやりしていた。
「確かに硬いね。この手でゴールを守ってくれたんだものね」
警戒心はなさそうだ。楽しそうに笑う岬の手の甲に、俺は右手を重ねて、捕まえた。
「捕まえた」
こうして手の中に収めると、岬の手の華奢さが分かる。指は長いが、細いきれいな手だ。そうだ、ずっと捕まえたいと思っていた。
「若林くん?」
指先を握り込むように掴み、指を滑らせて絡めた。細い指は少しだけ戸惑ったように震え、それから止まった。
「岬」
いつもなら、岬の鈍さに負けて、逃げられるところだが、手と手を絡めている以上、逃げられはしまい。そう思って顔を上げると、岬は頬を染めていた。
「あの、触り方がやらしいんだけど」
さっきまで無邪気に掌を突き出していたのが嘘のように、恥じらう岬の表情は、思ったよりなまめかしかった。
「じゃあ、今日は許してやるな」
今日だけは。日本だからお互い油断していたのかも知れない。岬はいつもの知らないふりをできない程余裕を失い、俺はいつもは自制している衝動に負けていた。それでも、岬の本心らしいものを見られたのは収穫で、こうして逢った甲斐があった。
「次は口説くから」
絡めた手を離す前に囁くと、岬は顔を赤くしたまま、離したばかりの手で×マークを作った。その指まで赤かったのは言うまでもない。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
同じタイトルで別に書いていたものがあったのですが、こっちの方が先にできました。私も油断をしていたようです。

以下、拍手お礼。
くるみ様、いつもありがとうございます。
二人の家の壁!なりたいです。幸せ絶頂の若林くんを拝んだ日には、同じ表情になってしまいそうな。
でも、キッチンかリビングか寝室か・・・迷いそうです。

桐乃様、いつもありがとうございます。
まず、『紅白戦』、きっとコメントくださると思っていました。
若林くんは翼くんとの対決があまりなかっただけで、他の選手のシュートは防いでいましたとも。
ただ、得点の起点になりやすい翼くんをマークするという三杉くんの作戦勝ちだったのは間違いありません。
そして、『いってらっしゃいの××』、若林くんはこの日もちろん無失点でしたよ。
帰ってからの方が大活躍でしょうが。新作楽しみにしております。

拍手のみの方もありがとうございます。励みになります。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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