※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 「せっかくハロウィンなんだから、仮装とかしてみたいよな」
言い出したのは、例によって石崎くんだ。 「まあ、孫悟空とかジョージならすぐになれそうだな」 そう返したのは、もちろん井沢だ。いつもながらの見事な切り返しに、石崎くんが一瞬沈黙する。 「いや、だから、ハロウィンだから、お化けとかだろ」 「ボケモンで言おうか?」 「・・・遠慮します」 ぐうの音も出ない石崎くんを部室に残して、グラウンドに出る。10月も末ともなると、放課後の風も少し冷たい。 「じゃあ、アップ代わりに走ろうぜ」 「おう」 来生くんは石崎くんがまだなのを気にする様子もない。マイペースにも程がある。それでも、じっとしているのは寒い以上、その提案には心から同意だった。
「さっきの話だけどな、仮装面白そうじゃないか?」 「そう?井沢も興味あるの?」 グラウンドを走る時、たいてい井沢と二人先頭を行く。今日は寒いから、最初はローペースから徐々に上げていくと、井沢も同じようにペースを合わせて来た。これくらいのペースなら、雑談くらいは問題ない。そう息を乱さずに動いたまま、聞き返した。 「ああ。みんなで写真撮って、若林さんと翼に送ってやろうかと思って」 井沢の話に出て来た二人の名前に、なるほど、と納得がいった。 つい先日、翼くんから手紙が届いた。チームの仲間との写真の中に、親しそうな女の子の姿があった。部のみんなで念のために先に見ただけのことはあって、それを抜いてからマネージャーに見せたけれど、心の中に小さな棘のような引っかかりが残ったのは事実だ。 「じゃあ、仕方ないね。衣装とかはどうするの?」 「演劇部に予約入れた。あっちはコンクールが近いから、使わない衣装くらいは貸してくれるってさ」 井沢は軽く答えたけれど、さすがの人脈に舌を巻く。それから3周走るまでには、明日の昼休みに演劇部前に集合という連絡まで終わってしまった。
「で、これはないよな」 赤い魔女衣装の来生くんが言う。帽子の似合いっぷりが怖い程、合っている。 「ああ。ないよな」 青い魔女衣装の滝くんも頷く。こちらも妙に似合っていて、やはり怖い。 「悪かったな。これしかないって言われてさ」 そう言う井沢も紺の魔女衣装だ。色がそれぞれ違うが、さすがに二年全員がこんな衣装だと異様だ。 「まあ、借りられただけでも良いよ。ね?」 演劇部なら、もっと色々持ってそうだと思っていたけれど、ハロウィンがはやり出したのは最近で、専用の衣装はないらしい。となると、ひと昔まえに「眠れる森の美女」の時に作った魔女の衣装しかなかった。 「岬は似合うなあ」 黄色の魔女衣装の森崎くんが言う。 「森崎くんこそ似合っているよ」 つばの大きな帽子のおかげで、そう顔が見えないのがありがたい。 「じゃあ、写真撮りますよー」 撮影係を買って出た、そして石崎くんには「自分だけ逃げやがって」と言われた新田が手を振る。僕は隣を見て、それから少し緊張している様子のピンクの魔女の中沢さんの肩を小さく叩いた。いくら衣装で仮装でも、スカートをはいていると思うと、あまり気が進まない。それでも、願いが魔法のように届くためなら、こんなバカ騒ぎもやぶさかじゃない。 「マネージャー、そこのかぼちゃ取って」 「かぼちゃって・・・何、これ」 それは、ボールにかぶせる用のかぼちゃランタン風ラッピングだった。一日では大したことはできなかったけど、かぼちゃランタンの下からボールが少し見えているのは、我ながらなかなか愛嬌がある。 「ボール。持っててね」 くすくす笑っている中沢さんの笑顔に、作って良かったと心から思う。
遠い、遠いところにいても、心は通じ合うし、相手の笑顔を思い出すだけで満たされることを、僕はよく知っているから。願わくば、そのランタンの光が、遠いところまで、届きますように。本当に、ささやかな魔法ではあるけれど。
「じゃあ、行きますよ!はい、チーズ」
(おわり)
拍手ありがとうございます。 ハロウィンに更新するつもりで、ついついTVを見てしまっていましたので、この時間になりました。 ハロウィン、やったことはないですが、けっこう書いています。・・・特に好きな訳ではないのですが。 ちなみに、岬くんは黒の魔女です。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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