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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
心配性
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

「岬ー!!」
駅で会うなり、抱きこもうと伸びた腕を、岬はいつものように避けた。若林はそれを察したように、すぐに岬の荷物を持つと、歩き出す。
「荷物ぐらい、自分で持つから大丈夫だよ」
奪い返そうと試みて、岬はすぐに諦めた。この町で再会した日にも、若林は同じように荷物を掴んで離さなかった。

「この辺りも、治安の良いところばかりじゃないからな」
再会してすぐ、そう言って荷物を守ってくれたことに岬は感謝していたが、真相は全く違っていた。
「岬が勝手に帰らないようにと思ってな」
根負けして、若林の家に泊まることになった時、若林が口にした言葉だ。
「君って、どうかしてるんじゃない?」
呆れたように返した岬を見下ろし、若林は楽しそうな笑みを浮かべる。
「何だ、今頃分かったのかよ」
その笑顔があまりに屈託のないものであったため、岬は心底呆れ、一方で見惚れた。
 常に勝ち負けにこだわる自分に時々呆れながらも、優位に見せてくれる若林の鷹揚さが岬には時にうらやましい。
「若林くんって案外駄々っ子だね」
「そうか?あまり言われないぞ」
岬の指摘に、若林はいかにも愉快そうに笑うと、コーヒーを差し出した。
「とりあえず、我が家の自慢のコーヒーをどうぞ」
「ありがとう」
香りも良いが、味が強いわりに口当たりの柔らかいコーヒーに、岬が声を上げる。
「うん、美味しい!でも、まさかこのために誘ったんじゃないよね?」
「実はそうなんだ。鋭いな、岬」
若林くんがあんまり真面目な顔で言うので、岬は吹き出しそうになった。らしくない冗談にも程がある。
「うそばっかり!」
「でも、遊びに来て欲しかったのは本当だぞ?」
平然と言う若林に、岬は小さくため息をついた。
 そんな口説き文句には慣れていた。可愛らしく清潔感のある容姿と柔らかい物腰のおかげで、岬はとにかくモテた。だが、すぐに引っ越さなければならないという事情とその原因である家庭事情から、岬は一方的に寄せられる好意を歓迎せず、むしろかわし続けてきた。
 その観点から、若林は安全な相手だと岬は思っていた。若林ほど異性からも同性からもモテるタイプなら、自分に好意を向けない相手には執着しないだろうし、小学生時代も過剰に構いつける翼の暴走を咎めてくれる立場で、特別扱いをされることもなかった。

 それが誤算だったことに岬が気付くまで、そう時間はかからなかった。

「お前はどう思っているかは知らないが。俺は岬のこと好きだぜ」
ごく当たり前のように口説く若林に、岬は伸ばされた手が重なる寸前にかわした。
「若林くんうまいね。言い慣れてるの?」
笑顔ではあるが、友好的ではない口調で、岬は尋ねた。
「言ったのは初めてだな」
気にした様子もなく笑って言うと、若林はそのまま岬の手を捕まえた。俊敏さには自信のある岬であるが、虚をつかれた形だ。
「三年間練習したけどな」
「・・・その冗談面白くないよ」
岬はぷいと横を向いてしまったが、その左手は若林の右手に掴まれたままだ。ソファーで隣り合わせた若林は、掴んだ手をゆっくりと口元に運んだ。
「ちょっ・・・、何する気!?」
その癖、目は岬から逸らすことなく、若林は岬の手の甲に、静かに唇を当てた。まるで挑発でもしているかの仕種に、歓迎していないことが伝わっていないようだと、岬は眉をしかめる。
「冗談はやめてよ」
「なあ岬、俺がいつから好きだったと思ってるんだ。どれだけ心配したか」
普段の穏やかな口調ではあるが、ごく抑えた低い声に、岬は顔を上げた。目が合った。怒っているというよりは案じている顔に、岬は安心する前に、胸が苦しくなった。
 臆面もなく、よく言うものだと思う。だが、それだけ正面から来られては反論する言葉すら見当たらなくなる。
「何言ってるんだよ」
「冗談に聞こえるか?」
冗談というには、重く響く口調で若林は問い返す。それがひどく苦しそうで、岬は顔を伏せた。
 もし許されるなら、ここから逃げ出したい。
「冗談にしておいてよ」
小さい声で答えた岬に、若林は微笑んだ。岬を困らせるのは本意ではない。だが、嫌だとはっきり言われなかったことに安堵した。
「じゃあ、今は冗談にしておいてやるな」
笑顔でそう言う若林に岬は一瞬表情を緩めた。今は、というフレーズが気にかかっても、確かめるのは得策ではなかった。
「ありがとう」
告白めいた話をした時よりも、鮮やかな笑顔を返す岬に、今度は若林が目を見張る。あくまでも友達の自分にしか微笑まない相手を、どう口説いたものか、考えを巡らす。長い勝負にはなりそうだと若林は思う。だが、これに関しては譲る気はなかった。たとえ岬本人が拒んでも。
「まあ、俺は冗談なんか言わないけどな」
「本当に君って強情だね」
「そこがいいってよく言われるぜ。岬こそ」
「顔と合わないって?」
「そこがいいと思うぜ」
笑い出した若林につられて笑いながら、岬はこの会話を楽しんでいる自分に気付いていた。

 付き合い始めた今もそんな会話は変わらない。長い勝負であったが、根負けしたのは岬の方だった。
「じゃあ、じゃんけんしようぜ。負けたら荷物持ってやるよ」
「じゃあ、君が勝ったら?」
「俺の言う通り、荷物を寄越すこと」
悪戯な笑顔と優しい声で言う若林に、岬も笑みを返す。ふざけているようで実は心配されていることも知っている。この辺りは本当に治安は良くない。
 そして、今はありがたいと感じる。一緒にいる口実を与えてくれることを。一緒にいる度に、その時間がすぐ宝物になってしまうような幸せな関係を。
「もう・・・君って仕方ないね」

(おわり)

拍手ありがとうございます。
二人がじゃれているだけの話を書きたかったので、書いてみました。

リンク先のクレスリウム王国 さまが10年目を迎えられたということで、お祝い話を贈らせていただきました。本日UPしていただいたようですので、お祝いの意味も込めてお知らせさせていただきます。
建国記念日おめでとうございます。
源岬に再燃し、のめりこむきっかけになったサイト様ですので、感無量です。これからも末永く続けていただきたいものです。

以下、拍手お礼
桐乃様、いつもありがとうございます。
手紙、若林くんが男らしいというよりは、いつもよりは感情的になってしまったような気がします。
何となく、若林くんは手紙がとても上手な印象があります。理知的で、でも暖かく面倒見の良い人柄のなせる技でしょう。
岬くんが会いたくなってしまう程の手紙はなかなか難しいかも知れませんが、それをきっかけ意識してしまうという展開は憧れます。(書けてはいませんが)
桐乃様の方の”手紙”話楽しみにしておりますね!

拍手のみの方もありがとうございます。励みになります。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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