※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 「罰ゲームは恋人に愛してるって言うこと、ね?」 一点の曇りもない笑顔で言い放った翼に、松山はびくっと肩を震わせ、岬は笑顔のまま青ざめた。 軽い余興のはずの卓球の結果だった。活躍したのは圧倒的に三杉の方だったが、罰ゲームを考えた翼は笑顔で言い切り、元々色白の二人は、誰も見たことがないほど白くなっていった。
最初はダブルスらしく、交代で打っていた。その時はチームワークの差で松山・岬組が有利だった。それでは面白くないギャラリーが、並んで打つことを提案したところ、実質2対1でも三杉が打ち勝つ、という結果となった。前半の悔しさ故か、ひどいことを言い出した翼に、負けた二人は何とか考えを覆そうとした。 「翼くん、松山が死にそうなんだけど」 「岬くんが俺に好きって言ってくれるなら、考えても良いけど」 「ごめん、無理」 翼は軽く言ったが、振り向くまでもない背後からのプレッシャーに、岬はブンブン首を振った。たとえ冗談であっても、後が怖い。恐らく顔色ひとつ変えないまま殺気を出している相手を想像して、岬は翼の命のためにも即座に拒絶するしかなかった。 「じゃあ、変更なしだね。電話で良いよ」 ごく明るい死刑宣告に、松山は机に突っ伏し、岬はうなだれた。
松山の罰ゲームについては、公開処刑以外の何物でもなかった。自室に閉じこもろうとしたところで、同室の石崎がさっとドアを開け放った。 「あっ、あの、藤沢、あの、その」 ちょうど電話が繋がったところらしく、携帯電話を手に、ジタバタする姿はおよそ人に見せられるものではない。 「あ、いや、別に用事があったとかじゃなくて、その」 真っ赤になって、ふしぎなおどりをする松山だが、普段の純朴キャラが幸いして、誰も笑う者はいなかった。恋人のいる者は遠く離れた恋人を想い、いない者は松山の懸命さに心を打たれ、いつしか部屋中が松山のサポーターと化していた。 「あの・・・あ・あ・・あいしてるぜ」 何度目かのチャンスの後、最後はピアニシモになった松山を誰も責めはしなかった。まるでゴールを決めたように、歓声を上げて、駆け寄る仲間に、松山は涙を流した。電話を切りそこねた向こうの彼女が、何事か訝しんでいるとは夢にも思わぬまま。
そのショーの影に隠れて、部屋に戻ろうとしたところで、岬は三杉に見付かった。 「電話を取りに・・・」 「ちょうど、部屋に戻ってるから、どうぞ」 訳知り顔でエスコートされる先は三杉の部屋で、そこに誰が戻っているのかを悟り、岬は顔を強張らせた。 「あ、あの、だから電話・・・」 「今なら、誰も来ないから。これで許してあげるよ」 折よく、遠くから歓声が聞こえた。次は自分の番だと分かった岬は、三杉が部屋を出てくれた時点で、諦めて内鍵を掛けた。
「岬、待ってたぜ」 部屋の奥に座っていた若林が立ち上がる。さっさと部屋に戻って待っている辺り、疑わしいと思いながら、岬は歩み寄った。 「若林くん」 素早く言えば良いだけだという決心も、満面の笑みで迎えられて、氷解する。 「罰ゲームの件だろ?」 後ろで見ていたのだから、当然知っているはずだ。笑顔で椅子を勧められて、岬は向かい合う場所に腰掛けた。
好きだとか愛しているとか、言われるのにもまだ慣れない岬である。まして言ったことなどほとんどない。 こうして向かい合っているだけでも、冷や汗が出て来る。三杉のこと、自分の居場所は隠し通してくれるだろうが、時間の猶予がたっぷりあるとは思えない。
だから、それまでに伝える必要があった。
「確かに罰ゲームだけど、その・・・いつも言ってないし、伝えないといけないとは思うし・・あの・・」 自分でも言い訳がましいと分かっていながら、岬は続けた。 「・・・・・・愛してるよ」 ごく早口になった。溜めていた時間よりも短くなった。それでも、たったそれだけのことは容易ではなかった。息が苦しいほど逆上せた頭に、火照る顔。 「岬」 真っ赤に熟した頬と瞳を冷ますように、そっと添えられた手が撫でる。指の先まで満ちる喜びを隠そうともせず、抱き寄せる腕に、岬は一瞬戸惑い、それから身を預けた。
「え~っ、岬の罰ゲーム終わったのかよ」 「そんなん聞いてへんで」 「終わったよ。僕が立ち会ったからね」 にこやかに微笑む三杉の影で、まだ赤い頬を押さえる岬の姿には、誰もが納得せざるを得ない。 「あれ、翼は?」 何とか罰ゲームを終え、こちらもまだ頬の赤い松山が辺りを見回す。 「さあ」 知っていてとぼける三杉に、皆がこれ以上は無駄と悟って、周囲に散り始めたところで、三杉の肩を叩いた者がいた。 「何だい、若島津?」 若島津は若林と岬の事情を知る数少ない内の一人である。 「岬はよく無事だったな」 三杉に尋ねるのも無理はない。岬に目の前で好きだと言われようものなら、若林が猛らない訳がない。 「翼くんに、録画データを要求されているみたいだよ」 至って涼しい顔で答えはしたものの、三杉は当分自室には帰らないでおこうと思っていた。
翼が乱入して来たのは、若林が岬を抱きすくめた時だった。ドンドンとドアを叩く音に若林が仕方なく鍵を開けたところで、ズカズカと入って来た翼と入れ違いに、岬は脱兎の如く部屋から逃げ出した。
「翼、何の用だ?」 怒りを隠そうともしない若林に、翼は三杉のベッドに腰掛けて、手を出した。 「若林くん、録画データくれない?」 「はあ~っ!?」 あまつさえ、もう少しで押し倒すところだった。合宿所で睦み合うことなど早々なくて、久しぶりの岬の感触、岬の愛の告白、恥ずかしそうな表情に、理性を失う一瞬前だった。 その挙げ句に、録画データまで要求されるとは。 「生で見れたんだから良いじゃない」 「何回も繰り返し堪能したって罰は当たらないだろ」 頬を染め、瞳を潤ませて、岬は恥ずかしそうに「愛してるよ」と言った。泣きそうな声は甘く、思わぬ僥倖だった。さっさと部屋に帰って、部屋中にカメラをしかけただけのことはあった。滅多に見られることではない上、自分の言葉に飲まれ、若林に抱き締められても、岬は泣きそうな表情で見つめていた。三杉は空気を読んで当分戻らないだろうし、と若林が臨戦態勢に入ったところだった。 「そんなに睨まれてもね、俺、怖い若林くんは見慣れてるから」 少しも怯むことなく笑う翼に、若林はため息をついた。いつものように妻子のことを口にしても、翼は岬ファンの一言で片付けてしまうに違いない。 「罰ゲームを考えたのは俺だからね!」 岬には絶対にここまで言わないくせに、と呆れながら、若林はカメラを探しているのか、キョロキョロしている翼と目を合わせた。 「データを後でコピーしてやる、それで良いよな?」 不承不承頷く翼に、若林はにこりともしないまま言い放つ。こちらも、相手が岬でない以上容赦はない。 「お前同室だろ?隠せるか?」 「あっ」 「言っておくが岬は鋭いぞ。今まで雑誌やら人形やらどれだけ犠牲になったことか・・・」 「若林くん・・・変態だね」
何とか翼を撃破した若林は、すぐにカメラの中のデータを回収した。そのまま岬を連れ出そうと向かった食堂で、また翼に行き会った。 「次の罰ゲームはね」 ごく明るい笑顔で、翼は言う。 「恋人に嫌いって言ってもらうんだ」 それを聞いた若林が、人目も憚らず岬を連れ出したことは言うまでもない。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 GC月間なので、こんな話を書いてみました。若林くんのテンションとストレスの差が激しい話になってしまいました。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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