※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 「岬、明日俺の家で花火するからな」 突然の来訪者に驚いている岬であるが、若林は口を挟む隙すら与えずに言い切った。 何となく来て、何となく座っていた河原でいきなりこれかと、岬は自分を見下ろす若林を見上げた。 「僕、いつまでここにいるか分からないよ」 「だから明日やるんだ。納得したか?」 一見偉そうなのに、内容は花火の誘いである。そのギャップが実は面倒見の良い若林らしくて、岬は笑いそうになるのを我慢した。 石崎達から、毎年南葛の夏祭りで花火大会があると聞いていた。だが、今年は全国大会と重なってしまったから、とも。だから、若林の家の花火にSCのメンバーも呼ぶことにした。そう説明されて、岬はようやく納得した。 「若林くんの家で?」 「そう、俺の家。岬はまだ来たことないよな?」 「うん」 頷いてから、岬が思ったのは翼のことだった。ロベルトとの別れで、まだ立ち直れない翼は来るのだろうか。そして、それは若林も同じだった。 「翼にも声かけようかと思ってな・・・岬も来るか?」 「うん」 今度は大きく頷く岬に、若林は今やトレードマークになっている帽子を深くかぶり直した。
「いつ引っ越す?」 「どこに引っ越す?」 そんな、みんなが当たり前のように聞いて来た質問すらせずに、若林は黙々と先を歩く。岬も足が遅い方ではないが、それでも追い付くのに汗をかくような速さで、若林は歩いた。 待って、と言うのも好きではない岬は、離されないように急ぐ。知らない人間と一緒にいるような感覚に陥り、岬は不思議に思った。さっき、翼を誘いに行こうと言われた時は、嬉しかった。それにあの決勝戦の後、怪我をした岬を助け起こしたのは、同じく怪我をしている若林だった。ゴールを守り切り、勝利した喜びと連帯感で、その日は若林ともよく話したが、元々そう親しい訳ではない。それでも、親しくなれそうな気がしていただけに、少し残念に思えて、岬は先を行く後ろ姿を見た。
翼の家では翼の母親が二人を見て嬉しそうに2階に向かい、そして肩を落として下りて来た。 「ごめんなさいね。まだ元気が出ないみたいで・・・」 元気の塊のような翼が元気を失っているのだ。その母親の落胆をそれ以上見るのは忍びなく、二人は早々に翼の家を辞した。
「岬は何か予定があるのか?」 今度は早々に尋ねた若林に、岬は首を振りながらも頭を動かす。無口で歩いてみたり、そうかと思うと質問してきたり、若林との距離は読み取り難い。 「ないよ。今日は父さんも出かけてるから、晩御飯もあり合わせで良いし」 「だから、河原にいたのか?」 しまった、と岬は思った。翼のことからして、若林は妙に鋭いところがある。それを読み違えていたらしい。 「そんなんじゃないよ」 言ってから、自分の答えが若林の疑問を解消するものではないことに気付いた。動揺を隠すように微笑む岬に、若林は手を伸ばして来た。 「じゃあ、これから明日の支度手伝ってくれ」 「えっ!?」
断る理由もなく、強引に連れてこられた割に、岬が頼まれたのは、石崎など修哲小以外のメンバーへの連絡だった。 「それだけで良いの?」 「うちの小学校の連中はもう連絡したからな」 それにしても、わざわざ手伝いに来なければならない量ではない。そして、電話のない岬の家の事情を慮って、若林自身が知らせに来たことは明らかで、岬はそれ以上聞かないことにした。
「それじゃあ、また明日」 石崎との電話を切ると、岬はテーブルに戻った。岬が電話をかけている間に用意してくれたのか、おやつが置かれていた。 「あ、ありがとう」 「こちらこそ助かったぜ。石崎の家に電話する気になれなくてな」 口を歪めながら言う若林の口調はいつも通りで、岬はくすっと笑った。 「若林くんでも苦手なことがあるんだね」 花火の準備も一通り見せてもらった。手持ちの花火だけでなく、ロケット花火の準備までしているらしい。翼を案じてはいても、自身の転校を考え、誘いに行くことまではできなかった岬からすれば、若林の実行力は眩しいものに思えた。 「・・俺だって、苦手なものはあるさ」 何、とは答えず、若林は目を逸らした。
「やっぱり、日頃の行いが違うんだろうなァ」 「お前以外のことだよな?」 石崎と浦辺のいつものやりとりすら、どこか和やかなのは、二人してかき氷を頬張っているためだ。どこから調達されたのか、業務用かき氷器も用意されていて、高杉が回し続けている。 「ちゃんと晴れたしね」 岬は二人に話しかけた。 用意されてあった焼きそばやから揚げにスイカ、それに各自持って来たスナック菓子で机はいっぱいだ。 「こんな使い方して、見上さんに怒られませんか?」 と森崎が青い顔をしていたり、滝が器用に料理を取り皿に盛りつけたり、井沢と来生が消火用バケツを運んだりしている中、岬は周囲を見渡す。翼は現れそうになかった。誰も口に出来ないままで、前日に岬だけ誘って訪問した若林の行動の正しさを裏付ける。
「じゃあ、花火しようぜ。小さい花火した後、ロケット花火もするからな」 「さっすが、若林さん!」 「すげえ!あんなでっかい花火あんのかよ!」 周囲が口々に騒ぐ中、岬は騒ぐ気にはなれなかった。
みんなには、嘘の引っ越し日を教えていた。もし翼と会うとしたら、今日が最後のはずだ。いや、この仲間と会うのも。こんな夏は初めてだった。夏が終わらなければ良い、と思ったのも。 めいめい手に花火を持ち、蝋燭で火を点ける。長細い火流が先から吹き出る。中には、振り回したりして若林に叱られる石崎もいたが、たいていは遠くまで火花を散らせるかの競争や色の変化をワイワイ楽しんでいる。その様子を岬は少し離れて眺めていた。
「どうした?花火しないのか?」 いつのまにか隣に来ていたのは若林だった。石崎を監視しつつ、修哲の仲間に声をかけながらも、常に全体を見ているのは、サッカーの時と同じだと、岬は諦めて顔を上げる。 「やったことないから」 学校のない夏休みは、岬親子にとっては旅シーズンであった。遠出することが多く、転校シーズンでもあって、友達と花火という機会にはついぞ恵まれなかった。 「じゃあ、これ」 渡されたのは、ごく細い筒状の花火だった。 「これなら、怖くないぞ」 どうして怖い前提なんだろう、と思いながらも岬は火を点けた。細かい火花が周囲に弾けて、青白い花が咲く。 「これ、キレイだね」 「ああ。せっかくだから、楽しめよ」 何もかも見透かされていることに気付いて、岬はため息まじりに、繊細な花を眺める。あっという間に手の中で朽ちて、花火は燃え尽きた。 その後は岬も少し花火を楽しんだ。何種類か試したが、若林の勧めてくれた花火は特に気に入った。また度重なる石崎のいたずらに腹を立て、若林がねずみ花火をけしかけたのには、笑い転げた。
最後は若林の言った通り、ロケット花火や打ち上げ式の花火が行われた。 「祭の打ち上げ花火程じゃねえけど・・・すげえ・」 石崎が呟いているのが聞こえる。数人が手を叩いている。思ったより煙がすごいせいで、風下の何人かが、煙を避けて動く。
夜空を染め、ぱっと開く花火は見事であるが、瞬く間に消えるのは物悲しい。
もうすぐ、夏は終わる。この夢は終わる。
「岬、大丈夫か?」 花火が一瞬途切れた闇の中、声をかけられた。顔を確かめるまでもなく、岬には相手が分かった。 「うん、大丈夫。ありがとう」 少し汗ばんだ手に、ギュッと手を握られた途端、何故か涙が出そうになって、岬はその手を握り締めた。 「うちの爺さんが、花火は消えるけど、心の中に咲いた花は消えないって言ったことがあってな」 話す声が静かな分だけ、その言葉は沁みていくようだった。 「咲いたか?」 「うん、持って行けるよ」 静かに、透き通るような声で岬は答えた。その声だけで、満開の笑顔が見えるようだった。 「ありがとう、若林くん」 闇の中、まっすぐに見つめる眼差しが見えるようで、若林は帽子のつばをさげた。 「それなら良かった」 若林が花火の企画をしたのには、翼のことも確かにあった。チームメイトの要望もあった。だが、この寂しげな影を漂わせる転校生のことが強くあったのは否めない。 どうか、肩を落としたままでなく、笑顔で次の町に向かえるように。 そのくせ、間近で無防備に微笑まれたりすると、途端に近付けなくなる。苦手、というよりは勝てないものだからだろう。 「また、来いよ」 かろうじて出した声は掠れていたかも知れない。お互い表情も見えないのに、目が合った気がして、若林は握ったままの岬の手を離し、手を振った。 「うん。またね」 もうすぐこの町を去る。こうして遊びに来ることはもうないだろうに、岬はまるで明日のことを言っているかのように笑って手を振る自分に気付いた。心の中に咲いた花は、きっと夏が終わっても枯れることはないのだと思いながら、岬はまた手を振った。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 何となく花火の話が書きたくて、夏の間にUPするつもりだったのですが・・・秋になってしまいました。 もっと明るい話のつもりだったのに、しみじみダラダラしてしまったのは、秋になってから書いたからのような気がします。 気候って大切。
以下、拍手お礼。 桐乃様、いつもありがとうございます。 「膝抱っこ」企画もありがとうございます。企画楽しいです♪自分ひとりじゃないのがもっと楽しい~♪ こちらこそ、立ち上げ方法どうしようか迷っていたこともあり、ギリギリになってしまってすみません。 でも、是非またやりましょう♪その時はよろしくお願いいたします。 「萌え殺す気だと思う。」にもコメントありがとうございます。 もう情報が入る度に萌えてしまって、確かにやってみたくなりますね。 家庭用を買う方が良いかも知れません。・・・どうせなら、PCゲームで出してくれれば・・・(泣)。
拍手のみの方もありがとうございます。励みになります。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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