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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
似た者同士
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。


 呼び鈴に応じ、玄関のドアを開けたところで、数度会っただけの日本人の姿を認め、内心驚いた。その動揺を表面に出すことなく、シュナイダーは訪問者、岬太郎に尋ねた。
「どうした?何か用か?」
「うん、君に用があって」
柔らかく微笑む岬の様子は、シュナイダーのよく知る日本人とはおよそ違うものだった。
 以前、ピエールと会って「日本人」の話になったものの、全く話が噛み合わない、ということがあった。シュナイダーはサムライという言葉を使い、ピエールはヤマトナデシコと言った。ピエールの日本人観の主因こそ、当時ピエールのチームメイトだった、目の前の岬である。
 シュナイダーが岬と知り合ったのは、当時チームメイトだった若林を通じてのことだ。
 そして、その二人の印象は両極端といえる。
 世界的に見ても体格に恵まれているドイツでも見劣りしない体格に、男らしい風貌の持ち主である若林は、その真面目で剛毅な性格から、チーム内ではサムライと言われていた。チョンマゲはないが、サムライに違いないという噂さえ、愉快そうに笑い飛ばす姿は、確かにサムライそのものと言えた。
 そんな若林が昔からその手の男達に大変モテていたこともシュナイダーは知っている。だが、一顧だにしなかった。それに、レーパーバーンでの馬鹿騒ぎもあって、チームでは女好きだとばかり思われていたが、ある日女の子と見紛うような美少年を連れて来た。
 それがこの岬だった。この可愛らしい小動物のような岬が、フィールドでは違う顔を見せるのを、シュナイダーもよく知っている。
 そして、若林が何年もかかって岬を口説き落とし、一緒に暮らし始めたことも当然知っていた。

 その岬が突然訪ねて来て、言ったのだ。
「シュナイダー、良かったら、今日泊めて」
「はあっ?」
岬はまだそうドイツ語が巧くない。だから、シュナイダーは岬が間違えたのかと聞き直しかけ、微笑んではいるものの、真剣なまなざしに、恐らくそうではないことを悟った。
「どうした?」
「聞いてくれる?」
人懐っこい笑みを浮かべる岬だが、カルツをはじめとするハンブルクのチームメイトではなく、自分のところに来た辺り、ただ者ではない、とシュナイダーは思った。ピエールの言うような「ナデシコ」ではなく、「ニンジャ」に近いのではなかろうか。そこまで考えが及んだところで、シュナイダーはつい答えてしまっていた。
「良かろう」

「つまり、練習の前の日も、ワカバヤシが夜ばいを掛けて来る、と」
「言い方はともかくとして、事実は合ってるよ」
まだドイツ語は上手じゃないから、と言いながら、かなり率直に話す岬に、シュナイダーは好感を抱いた。
「ワカバヤシはしつこそうだな」
「やっぱり分かる?」
岬の首筋には、なまめかしい痕跡が見えている。ギリギリ見えるか見えないかの位置なのが、若林らしいとシュナイダーは思った。
「少しは反省して欲しいよ」
そう笑う岬が親しくない自分のところに来た理由は明らかだった。わざわざ若林に連絡しない、若林のところに帰れと言わない、そんな相手を選んだ結果だろう。岬としては苦渋の選択なのは明らかだった。
「まあ、俺の方もワカバヤシには聞きたいことがあったからな。それまではここにいると良い」
前半部分は岬に聞き取れないような早口で、シュナイダーは独り言ちた。

 昨日、シュナイダーは妹のマリーがクッキーを作っているところを発見したのだった。
「それ?ワカバヤシによ。友達のサインお願いしたから」
マリーがあっさり言った分だけ、シュナイダーの怒りは烈しい。


 岬が家出したらしいと知った若林の狼狽ときたら、それは見物だった、とカルツは言った。
「そりゃ慌てた様子だったンだぜ」
電話の向こうでカルツは笑う。
「ウチくらいなら、嗅ぎ分けるだろうよ。シュナイダーのとこまで行ったのは、おまえさんさすがだのう」
渋面を作り、軽口を叩くカルツの表情が目に見えるようで、岬は一瞬微笑み、それから顔を引き締めた。
「カルツが気付いたってことはすぐだろうね・・・」
「ああ、あいつはワカバヤシには嘘つけないからな」
そう推測する辺り、三人の付き合いの深さが窺い知れる。
「僕もそう思う」
通話を終えた携帯電話をシュナイダーに返しながら、岬は静かに頷いた。

 家出するつもりなどなかった。夜になる度に、次の日のことなど忘れたように抱き寄せられる様は度が過ぎていた。若林が反省してくれれば、休みの前の日以外は寝かしてくれれば、それで良かった。その程度の交渉だ。
 だから、シュナイダーの元を行き先に選んだ。確実に自分を匿ってくれて、口も堅く、そして何より浮気を疑われない相手だ。
「まあ、ワカバヤシがここに来るのは好都合だ。俺も、聞きたいことがある」
そこまで判断してのことだが、ポキポキと指を折りながら笑うシュナイダーに、岬は自分の選択が正しかったのか、少々考える羽目になった。

 果たして、若林が来たのは翌日だった。カルツの車に乗ってきたことを考えると、破格の早さと言えた。
「カルツ・・・少し位はごまかせよ」
「本当に」
息の合った相槌はコンビでも難しいレベルで、シュナイダーは「誰とでも組める」と若林が評した岬のプレーを思い起こした。
「シュナイダー、ここに岬来てるんだろ?」
ドカドカと上がり込もうとする若林を視線で一閃して、シュナイダーは若林と正面から向き合った。
「何故マリーがお前宛てにクッキーを作っているんだ、ワカバヤシ!」
ハンブルクからミュンヘンまで来た相手に、開口一番それか、と若林とカルツが呆れた顔をする。だが、シュナイダーは本気だった。
「こないだ、マリーが友達の分もって色紙を送って来たから、サインを送ってやったが・・・その礼だと思うぞ」
若林はあくまで冷静に説明したが、激昂している兄には届かない。
「大体、お前みたいな奴に・・・」
「俺が何したって!?」
親切にした覚えはあっても、非難される謂れはない。首を傾げる若林に、愛する妹のことで、冷静な頭脳が逆回転中のシュナイダーの舌鋒は冴え渡る。
「俺はお前ほど女に冷たい奴に会ったことがない。レーパーバーンでも相当モテてたのに、片っ端から袖にしてたしな」
「それはお前の方だろ?俺はお前に振られた女の苦情に付き合わされていただけだぞ」
「おいおい、お二人サン・・」
長身の二人の間に挟まれた形のカルツが諌めるが、全く届く様子はない。当初の目的もどこへやら、大声で怒鳴りあっている二人に、隣の部屋で待っていた岬は笑いを堪えるのに必死だった。だが、その間に話題は変わる。
「ミサキに対しても、一晩に何回も、はないだろう」
「×回は鬼畜だぜよ~、ゲンさん」
いきなり飛び火したことに岬は顔から火が出るような思いがした。シュナイダーには回数までは言ってなかったが、カルツはそれも知っているらしい。
「バカやろう!これでも我慢してるんだ!」
更に声を張り上げた若林に、岬はいたたまれなくなって耳を押さえた。
「まあ、昔からお前はミサキが来ないと暴れていたな」
「そうそう、ゲンさんがあンまりイライラするから、ミサキに試合チケット送ったりしてたよな~」
「何しろ、ペナルティーエリアにはバリアが張ってあるという噂もあったな」
「敵チームのストライカーがもう対戦したくないってベンチから出てこなくなったこともあったぜよ~」
若林程冷静な人間が度を失うとはなかなか考えにくい。それが、醜態を通り越して、伝説の域にまで達した若林の奇行に、岬は笑いすら出なくなった。ハンブルクでのチームの歓迎振りには、こんな内情があったとなれば、恥ずかしいにも程がある。

 それでも、胸は高鳴った。

 日本で、若林程同世代から尊敬されている選手は他にいない。才能もさることながら、若くして世界に出た勇気やJr.ユースの時にチームを強くしようとした決断力や行動力、精神力、賢明さで、奇跡の世代でも抜きん出た存在である。
 そんな若林が、こと岬のことについては、少しだけ様子が違う、と言われている。岬も感じる。普段より少し優しい表情で、少しだけ気遣わしく見つめる若林の眼差しの優しさに、背中を押されることがある。

 時々息苦しい程の愛情が、本当に眩しく、嬉しい。

 愛していると繰り返される胸の中、ふと我に返っても、夢は覚めずに、しっかり抱いてくれる腕の強さに救われている。

 こうして、遠ざかることはあっても、すぐに戻ってしまうのは、その引力のせいに違いない。顔を見れば、声を聞けば、すぐにいつもの気持ちが蘇って来る。

「じゃあ、寝室を別にすれば良いだろう?」
「それじゃ岬の可愛い寝顔が見られないだろうが」
「でも一緒に寝るとおとなしくできないンだろ?」
堂々巡りになってきたトリオの会話を聞きながら、岬はどう収めて帰ろうかの思案を始めていた。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
11月11日なので、11番VS11番を。
シュナイダーのところへ家出する岬くん。家出範囲がドイツ国内なら、若林くんも安心できるかな、と。
シュナイダーは岬くんと環境も似ているので、あまりほだされる印象もなく、良い距離を保った友人付き合いをしそうだな、と。まあ、試合では吹っ飛ばしていますが。
それにしても・・・シュナイダーをまともに書いたことがあまりないので書けているか怪しいです。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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