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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
大嘘つき
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

「岬先輩って、彼女作らないんスかねえ?」
新田のいつもの呟きだ。最初の頃は石崎も咎めたりしていたが、無駄だと悟ってからは放っている。
「井沢先輩はファンのあしらい慣れてるっしょ?みんな割り切ってるし。岬先輩は誰にでもニコニコするから、たぶらかされる人数がハンパないっていうか」
石崎が聞いていまいがお構いなしに一通り話すと、新田はふうっとため息をついた。『校内アイドルの後輩』ポジションはあまり面白いものではない。「可愛いと思った子に先輩のことを聞かれる」ことが連続すると、新田だって辛い。
「岬だってピシャリと言ってると思うけどな」
「まだまだそんな資格がない、って言われて諦める女がどこにいるんスか!ストイックさがステキ~とか人気が上がるだけっスよ」
一息で言い切った新田に、石崎はある意味感心した。そういうガッついたところが、ファンクラブまであるくせに、いまいちモテない原因ではないかと思う。生意気なところもイイ、とか一部は言っているらしいが。
「先輩ー、あんた小学生からの知り合いでしょう?付き合ってる相手とか知らないんスか?」
「岬はその辺り何も言わねえからな・・・いるのは間違いなさそうだけど・・・」
横から嘴を挟んだのは浦辺だ。岬に恋人がいるだろうことは、石崎も薄々分かっていた。ただ、それを口にするのは憚られていた。それだけに、あっさりとしかも新田に話した浦辺を、つい睨みつけた。
「おい、浦辺、お前何言ってんだよ」
「お前だって、そんな顔してたじゃねえか」
言い返した浦辺の耳を引っつかみ、石崎は素早く囁いた。
「おい、後輩の前だぞ。そんな話すんな」
石崎の口調が変わったことに気付き、浦辺も口をつぐんだ。岬に対しては、誰もが過敏にならざるを得ない。転校を繰り返し、不安定な生活をしてきたとは言え、今は定住している。それでも、岬の繊細な容貌や明るいがどこか儚い笑顔は、南葛2年の守りたいリスト1位を占めていた。
「新田、くれぐれも岬に聞くんじゃねえぞ。あと他の2年にもな」
過保護の極みと思っても石崎は言わざるを得なかった。

 だが、二人は忘れていた。高校選手権の後、世界大会に向けた合宿があることを。
 岬本人には聞かなくても、情報元には事欠かない。何しろ、古い付き合いの者ばかりだ。
「岬先輩の恋人って知りませんか?」
これ幸いに聞いて回る新田。だが、返って来た反応は芳しいものではなかった。
「んなヒマがあったら、シュート練習だ!」
と日向は怒鳴り、
「岬に恋人が・・・岬は良い奴だからな」
と松山は感慨に耽り、
「新田くん、君スタメン入り厳しいよ。そんなこと言っている時じゃないよ」
と三杉は窘めた。
 その上、その中の誰から漏れたのか、あるいは全員か、
「新田!苦情が来てるぞ。よその連中にまで迷惑をかけるのはやめろ」
と井沢から叱られることとなった。
 井沢は普段温和なだけに、叱られるとさすがの新田もダメージが大きい。行動を慎もうとしたところで、通り掛かったのは若林だった。
 Jr.ユースの頃とは違い、若林は周囲から敵意を抱かれている訳ではない。それでも、若林の雰囲気はなかなか近寄り難いものがあり、さしもの新田も軽く話しかける相手、とはいかなかった。
 それでも、新田のシュート練習を岬に頼まれたからと引き受けてくれたり、二人で話している場面に出くわしたりして、どうやら岬と親しいらしい、と新田は認識していた。とりあえず、井沢の言う「よその奴に」にはおそらく若林は含まれてはいまい。超拡大解釈して、新田は若林に話しかけることにした。
「若林さん、今いいっスか?」
「何だ?」
ほとんど話したことのない下級生に突然、しかも軽々しく話しかけられて、若林は怪訝そうな表情で新田を見下ろす。
「岬先輩の付き合ってる相手とか知りませんか?」
開口一番、予想外の話をした新田に、若林の鍛え上げられた反射神経すら反応が遅れた。
「は?」
鋭い眼差しを向けた若林に、新田がたじろぐ。その間に質問を理解した若林が言葉を返した。
「お前、いきなり聞くことはそれか?」
怒るでもない、ただ問う口調の若林は、その風貌もあって、一つ年上には見えなかった。さっき岬と話していた時には歳相応にも見えたことを思い出し、新田は首を傾げた。

「それで、どうって?」
「翼がお前からの手紙が来ないって拗ねててな・・・」
「それ言われても困るよね?でも翼くん僕には言わないんだよね・・・分かった。また送るようにするよ」

 何かのついでに話していたのか、それだけの会話の後、二人は笑い合って、離れた。くすくす明るい声を立てて笑う岬に違和感を覚えたのは、新田の見慣れた表情ではなかったためだろう。上級生としての緊張や責任感を帯びない岬の笑顔は妙に可愛らしく、強く印象に残っていた。それは、日向や松山に対するのとはまた違う表情に見えた。
「はい。岬先輩と仲良いんスよね?だから恋人のこととか知ってるのかなと思って」
どうやら、新田本人の中ではつじつまが合っているらしい、と若林は理解した。率直なのは良いが、率直過ぎるのは問題がある。岬がそう言っていたことを思い返して、苦笑する。
「それを聞いてどうする?大体、どうしてそんなことを聞くんだ?」
新田が何故そう言ったのか。返答するかどうかは真意を確かめてからでも遅くはない。同い年の相手でも、若林から見ればたいてい子供に見えるが、新田は更に幼く見える。自分も相当生意気だったが・・・周囲の生意気が若く思えるのは、自分が年を取ったのかと自嘲しながら、若林は尋ねた。
「・・・」
一方、新田は驚いていた。同じ質問をしても、誰も理由を聞かなかったことに気付いたためだ。日頃の様子を知る南葛の先輩連中はともかく、他の学校の2年生達は、新田が岬のことを聞きたがるのは当然という対応だった。
「えっ・・と、何でっていうか・・・」
「岬はできた奴だから、色々思うこともあるだろうけどな」
静かに言った若林に、新田は黙って目を向けた。若林が新田の感情をどう定義づけているのかは分からない。ただ、それを否定も肯定もしていないことは伝わってきた。
「・・・岬先輩はどんな人を好きになるのか興味があって・・」
結局、反発も関心も憧れの一部らしい、と若林は結論づけた。

 もし、その岬の恋人が他ならぬ自分だと知ったら、新田はどんな顔をするか、好奇心が頭をもたげる。

 だが、その好奇心も久々に会えた岬を怒らせることとは引き換えにはならない。若林は好奇心を満たすことを諦めた。
「いつか教えてくれるだろ。お前が信頼に値すると思えば」
若林の顔に浮かんだ笑みを、新田はひどく優しいものとして認識した。

 数年後、若林と岬の関係が明らかになった時、新田が思い出したのは、若林のその時の笑顔だった。

 ああ、お似合いじゃん。二人とも大嘘つきだけど。

 新田が思ったのはそんなことだった。


(おわり)

拍手ありがとうございます。
これより先に書いていた後輩話、まだ全然終わっていないのに・・・新田くん効果としか思えません。
そう言えば、うちの若林さん、今までも新田くんとの会話が何度もあります。(多分これで4回目)毎回自分だけ楽しいです。

以下、拍手お礼。
桐乃様、いつもありがとうございます。
三杉くんへの仕返しって、それだけで楽しくなる感じです。若林くんは完全に楽しんでいますが、岬くんは罪悪感の方が大きいので、あんなつれない態度なのです。確かに、合宿後が大変そう。
”スペシャル特訓”確かに「励ます」ボタンは分かりにくいですよね。注記を付けたのも後になってからでしたので、分かりにくかったですよね。すみません。でも、楽しんでいただけたようで何よりです。メールの返信も遅くなってしまっていてすみません。明日必ず。

拍手のみの方もありがとうございます。励みになります。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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