※二次創作です。女性向け表現を含みます。苦手な方はご注意下さい。
本日も xxx-titlesさまよりお題をお借りしています。 お題一覧はこちら 知識としては知っていて、画集では見ていても、やはり本物の迫力は圧倒的で、岬は我慢できなかった。こういうところには、確かに父親の血が流れているらしい。家族を泣かすのも芸術のためなら許されるとでも思っているかのような、耽溺の血が。 いつもなら、もう少しは気も遣うし、セーブするようにはしている。それまでは、作品の解説をしたり、一緒に鑑賞しながら、それでも、若林なら退屈なら退屈だと言ってくれる、と思っていた。それに、美術館に入った時、ゆっくりと周囲を見渡す雰囲気を見て、さすがに美術品に慣れ親しんで育っただけのことはある、と油断してしまったのもいけなかった。
岬はふと我に返った。つい、見とれてしまったらしい。この美術館所蔵の「マドンナ」を前に、立ち止まってしまっていた。そして。 隣には若林がいた。普通なら連れ立って来て、一時間も同じ絵の前にいたら、怒り出すか呆れるか。 「もう良いのか?」 若林は怒った様子でも呆れた様子でもない。 「ごめん。つい見入っちゃって。声かけてくれたら良いのに」 さすがに悪いとは思う。謝る岬に、若林は全く動じる風もない。 「それだけ楽しんでくれたら、誘った甲斐があるぜ」 「ありがとう。君にはかなわないよ」 微笑む岬であったが、一つ気になったことがあった。 「ねえ、若林くん」 若林は一時間もの間、どうやって時間をつぶしてくれていたのだろう。 「僕が『マドンナ』を見てた時、退屈じゃなかった?」 それは言えない。若林は思った。吸い寄せられるように、あまり大きくはない絵に釘付けになってしまった岬は、何ともいえない表情をしていた。『マドンナ』というタイトルの絵と、陶然と見つめる岬の横顔が、どこかで重なる。 その横顔を見ているだけで、時間は過ぎた。 「『マドンナ』っていうのか、あの作品」 「うん。ムンクの有名な作品」 ムンク、というと。実家ではガレのランプやルネ・ラリックの器を当たり前に用い、囲まれているだけに、その作者にいちいち関心を寄せる訳ではない。それでも、その名前は知っていた。有名な作品『叫び』の作者として。 「嘘だろ?」 「ううん。本当。それで、何を見てたの?」 作品名を見たら、普通は画家の名前も見てしまうだろう。 「岬があんまり夢中で、そんな顔見たことなかったから、岬の顔を見てた」 若林の言葉に、岬は口を押さえて、みるみる赤くなった。 きっと誘った時点から、あまり興味がなかったことはばれていると思った。作品の解説をする岬に、気を遣わせているに違いない、と思った。それでもうまく振舞う自信はあったのに、馬脚を現してしまった。・・・最後までそんな顔をさせて、ごめんな。
でも、一つ言わせて欲しい。
「岬、俺はお前と来られて嬉しかった」 真剣な岬の横顔は、フィールドよりもむしろここに置かれる方が似合うのかも知れない。休息を楽しむように和らぎながら、それでも揺るがない眼差しで作品を見つめる岬に、側にいられる幸福を感じた。それがあまりきれいで、目がそらせなかった。 「僕もだよ。・・・だから、君も楽しめる所に誘ってくれて、一緒に楽しんでくれた方が嬉しい」 そんなの、岬の喜ぶ顔が見たいから誘うに決まっている。だが、それは露骨すぎて、言えない。 「ありがとうな。でも、俺は美術館好きだぜ」 岬と来るなら、を省略した若林であったが、岬にはお見通しだったらしい。思わぬ笑顔に遭って、若林はまた、目を奪われる。最後まで、やられた、と思った。 「僕も、だよ。また誘ってね」 若林くんと一緒だと楽しい、を省略して岬は微笑んだ。
(おしまい)
拍手ありがとうございます。 昨日の続き、というつもりはなく、単に美術館デートを書いてみました。 若林くんは本当に心底楽しいと思います。きっと。 ムンクの『マドンナ』は本当にハンブルグにあります。 それにしても、長いや。
明後日から、クリスマスに向けていこうと思います。
拍手お礼: 初めまして?の方、お寄り頂いた上、暖かい応援をありがとうございます。 更新を確認したのですが、花の名前の方でよろしいのでしょうか? そうでしたら、そのジャンルも好きなので、また立ち寄らせて頂きます。 こちらは元々少数派の絶滅危惧種なので、何とか盛り上げていこうと、 自分のような初心者も参入しています。 またよろしければ、懐かしみにお立ち寄り下さい。
from past log<2008.12.16>
スポンサーサイト
テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
|