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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
ブーケ(2)
※女性向け二次創作、というかDRAGON PUNCHER さまのフリー素材なので、三次創作です。苦手な方はご注意ください。



 確かに若林くんは特別な存在だ。
 体格にも才能にも恵まれているだけじゃない。自信家だけどそれを裏付けるだけの実力があって、更に努力を惜しまない。その意志の強さを表す強い眼差しは、見つめられる度に、ドキドキしてしまう。

 それは初めて会った時からだった。

 若林くんと初めて会ったのは、小学6年生の頃。南葛小に転校したのに、修哲小まで行ってくれと言われ、モヤモヤしていた僕は、道端でシュートをしてしまった。
「危ない!」
電柱の後ろに人影が見えたのは、ボールを蹴ってからだった。一瞬、背筋に冷たいものが過ぎった。
「町ん中でむやみにボールをけるもんじゃないぜ!」
そこに現れたのが若林くんだったことは、本当にラッキーだった。そのボールをワンハンドでキャッチした若林くんは、そんなことをした僕にも優しく注意してくれ、行き先が一緒だからと、修哲まで案内してくれた。サッカーの話をしながら歩いた10分の道はあっという間で、初めて会ったのに、別れ際には残念に感じた位楽しかった。
 試合が始まって、修哲のGKが若林くんだと気づいても、僕の興奮は収まらなかった。小学生にしてはレベルの高い試合を夢中で追った。怪我をした石崎くんには悪いけど、途中から参加できることになった時は、本当に嬉しかった。
 こんな楽しい試合は初めてだった。試合の熱のかけらが胸に入ったのかと思う位、ドキドキして、なかなか眠れなかった。

 若林くんとはそれからの付き合いだ。

 一緒にいた時間はあっという間に過ぎた。それだけに一つ一つの出来事が強く印象に残っている。特に印象深いのは、全国大会の決勝戦。
「勝ったぞ!」
勝利を告げるホイッスルと共に、駆け寄って来てくれた若林くんの姿に、涙が出そうになった。そのまま抱き起こしてもらって、優勝の喜びと安心とドキドキの入り混じった不思議な気持ちで、足元がフワフワした。興奮して顔の赤い若林くんに負けない位、頬が紅潮する。
「おめでとう、岬」
「おめでとう、若林くん」
笑い合ってかわした言葉に、また泣きそうになった。たったひと夏の奇跡が、終わる瞬間が見えた。
 もう少しここにいたいのに。
 叶えられることのない望みは、胸に留めるだけでも辛い。心の中から全部追い出した頃に、雑誌記事を見た。

 フランスの雑誌に載った若林くんの記事を見つけたのはたまたまだった。本屋で見つけて、息が止まりそうになった。それから胸が苦しい程脈打つ。

 最初の出会いであまりドキドキしたせいか、若林くんと会うと、ドキドキする癖がついてしまったらしい、と胸を押さえた。

 そうじゃなかったら、若林くんじゃなかったら、会いに行かなかった。

 三年ぶりの若林くんは、前よりもずっと大人に見えた。それなのに、突然現れた僕を歓迎してくれる笑顔は昔のままで、また胸が苦しくなった。

 それと。若林くんは、僕の記憶にあるように、仲間に囲まれていた。クラブチームの仲間と、すごく仲が良いのが分かる。
 あの夏、若林くんは目の前で変わっていった。若林くんのチームが変わっていくのを、仲間に囲まれた若林くんを見た。
 だから、南葛を離れて異国に渡った若林くんのイメージは湧かなかった。
 それが、ドイツでも友達に囲まれ、サッカーをしている若林くんに、安心した。若林くんのことだから、案じる必要なんかないのに、フランスに来た時の心細さを思い出すと、じっとしていられなくなった。
 仲間と笑い合う若林くんに、そんな危惧はいらなかったと知って、急に来てしまったことが恥ずかしくなった。赤くなってしまった僕に、若林くんはすごく嬉しそうに笑いかけてくれた。
「やっぱり、岬は優しいよな。好きだぜ」
何気ない一言だったから、深く考えないようにした。

 でも、その笑顔が見たくて、何度も会いに行った。

 何度目に会った時だったか、若林くんが尋ねたことがある。
「岬、背が伸びたよな?モテるだろ?」
「まさか」
そう答えたものの、僕はモテるらしい。昔から、よく好きだと言われた。女の子に男友達に、先輩に。転校してばかりの僕の、何が好きなのか分からない。確かに、女顔ではあるけど結構意地っ張りで頑固だし、少々ひねくれていると思う。
 だから、好きだという言葉も、額面通りには取れなかった。好き、とかいう感情がどんなものかは、本当に分からない。相手を好きでもないのに、そんな内面を隠したまま付き合うなんて出来なくて、誰とも付き合うことはなかった。
 一笑に付した僕に、若林くんは少しだけ身を乗り出して来た。
「好きな奴とかいるのか?」
「いないよ?」
君ほどドキドキしないもの、と心の中で付け足す。いきなり引っ越しだとかいきなりスケッチ旅行だとか言い出す親がいたら、少々のことでは動揺しない。
「若林くんこそ、付き合ったりしないの?」
僕が聞くと、若林くんは少し口調を荒げた。
「好きな奴がいるのに、付き合ったりする訳ないだろ?」
まっすぐに見つめてくる若林くんの視線には熱がこもっているようだ。
 若林くんがモテるのはよく知っている。一緒に歩いていて、女の人に話しかけられたり、もよく見る。
「俺は岬が好きだ」
だからその顔やめて。その声もやめて。ドキドキさせるのはやめてほしい。
「その冗談、笑えないよ」
笑って、聞かないふりをした。
「僕達は友達なんだから」
自分にも、言い聞かせた。若林くんと何度も会う内に、昔のチームメイトから、大事な友達に変わっていった。もし若林くんが本気でも、どうしても失いたくないと思った。真に受けて、流されて、友達にさえ戻れなくなったら、と思うと、こんな錯覚くらい心の底にしまいこんでしまおうと思った。いつものように。

(つづく)

拍手ありがとうございます。
まだ万全でないので、目次更新したらさっさと寝ます。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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