※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 突然かかってきた電話に、若林は身構えた。 日本では夕方のこの時間にかかってくるのは、大体日本からの電話である。特に、携帯電話ではなく、固定電話にかかってくる電話は、注意が必要だ。 「あ、若林くん」 呼びかけて来た第一声に若林は思わずため息をついた。予想通りだ。
手紙が着いたころということもあり、翼から電話がかかってくるのは予見していた。 手紙のやり取りこそしていたが、今まで翼が電話をかけて来たことはない。父親の職業柄、国際電話対応にしているはずなのに、一度もだ。それが早速かけて来た辺り、岬効果は大きい。 「翼、どうした?」 手紙、というより写真の効果だと分かっていながらも、若林はそう尋ねた。 「手紙見たよ。岬くんに会ったんだ」 「ああ、会いに来てくれてな」 「岬くん、可愛いね」 「ああ。相変わらずだったな」 素っ気なく言う若林に、嘘つき、と翼は心の中で罵る。
南葛SC時代、みんなで合宿をしたことがある。その時に、何となく好きな人の話題になった。「いない」と答えた翼自身や岬とは違い、若林は終始くだらない、と距離を置いていた。だが、その視線が自分の隣方向に伸びていたのを翼はよく覚えている。若林はさりげなく見ていたつもりなのかも知れないが、若林ほど力強い視線ならば、たどるのは簡単だ。 「俺には何か言ってた?」 「いや、お前の様子は聞いてきたけどな」 電話の向こうで笑う若林の首を、直接締め上げて聞き質したくなる。 岬にも翼の怒りは及ぶ。自分には手紙一つ書かないのに、若林に会いに行くなんて。寂しいなんて思うような殊勝な性格ではない。感傷的に昔のチームメイトを訪ねるくらいなら、近所でボールを蹴っていそうなものだ。 だから、腹立たしい。
岬も、若林も、自分にとってはそれぞれ唯一無二の特別な存在だ。その二人が自分の知らないところで、睦み合うのはいただけなかった。 「若林くん、岬くんのこと好き?」 「何だ、急に?」 「俺、岬くんのこと好きだからね。絶対手なんか出さないでね」 「・・・悪いが、約束はできないな」 言葉を濁した若林に、その曖昧な語調に、翼は頭の一部がぴんと引っ張られるように感じた。いよいよ、予感は的中らしい。 「君なら相手なんかいくらだって見つかるよ」 「翼、あねごは元気にしてるか?」 不毛な腹の探り合いに、若林はふっと笑みを漏らした。岬は、たまたま遊びに来たに過ぎない。期待する気持ちはあっても、希望を持つには早いと思っていた。ニコニコしているが、それでも、岬の態度は普通だった。意識している様子もなく、 距離は昔のままに思えた。だから、単なる気まぐれだと思っていた。この電話がかかってくるまでは。
翼が連絡してきたのは、それもイライラと危機感をつのらせて、牙を剥いてきたのは、岬の何かが琴線に触れたのだと若林は思った。翼が疑うようなことは何もなかったし、人前で寂しがったりしない岬がどうして自分を訪ねて来たのか、若林には分からないが、翼には分かったのかも知れない。それで腹を立てるばかりではなく、手を出すな、と言って来たのは、きっと。
岬は俺のことが好きなのかも知れない。
自分でも甘い考えだと思うが、そう思っただけで胸が満たされた。
ずっと、気になる相手だった。気が付くと目で追っていたし、話しかけたくて、後をつけようかとも思った。今の自分からは考えられないような、何となく触れることもなく、ただ心の片隅に置いた偶像を崇拝していたような初恋は、誰にも言ったことがない。 こんなことで確信を得て、背中を押されるのは不本意であるが、まだ形にもなっていない若林の気持ちをも簡単に言葉にしてみせた翼の言葉には、力があった。
「・・・今度来たら口説くだろうな」 翼の耳にも届かない独り言で、若林は不毛な電話を締めくくった。
(終わり)
拍手ありがとうございます。 もうすぐ翼くんの誕生日だな・・・と考えていたら、ついふらふらと書いてしまいました。 何だろう。
以下、拍手お礼。 桐乃様、いつもありがとうございます。 少し不思議、な話になってしまったのですが、ほっこり温まる、というお言葉嬉しいです。 自分といる時とは違う若林くんを岬くんが見る、という構図は書いていて楽しかったです。 岬くんサイドで書いているので、若干照れはありますが、もう胸に飛び込むくらいの勢いですよね。 そのまま勢いでくっついてくれると私も思います。
拍手のみの方もありがとうございました。励みになります。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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