※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 最終日。 「若林くん、おかえり」 「岬、どうかしたのか?」 風呂から上がって、部屋に戻ったところで、前には人影が立っているのに気付いた。 「あれ、翼くんと約束してたんじゃないの?」 不思議そうに目を瞬かせる岬に、俺も首を傾げる。確かに今日も来て良いとは言ったが、約束はしていない。そう言うと、岬はまたもや持ってきたお菓子を掲げて見せた。 「良かったら、ジュース飲んで行くか?」 昨日持って来てくれた残りだが、と付け足すと、岬は笑った。 「じゃあ、お言葉に甘えて」
「今日は疲れたよ」 岬はそう言うが、そうは見えなかった。この華奢な身体のどこにそんなパワーが秘められているのかと思う程、岬は今日も走っていた。 「俺も」 「ふふっ、お疲れ様」 優しく労ってくれる岬に、分かっている、という翼の言葉が甦る。その上で気を遣ってくれているのだろう。 「やっぱり岬は優しいな」 つい口にしてから、悔やんだ。岬はゆっくりと顔を上げ、俺を見上げた。 「・・・今のは気にしないでくれ」 「無理しない方が良いよ。辛かったら、いつでも聞くから」 穏やかな声で、岬はゆっくり話す。透き通るような声に、清らかな雰囲気。触れることすらできないもどかしさに苛立ちながらも、岬が側にいるのは、それだけで心が休まった。
諦めようと何度も思う。ただ、この伸ばされた手を、向けられる笑顔を失うのは辛かった。それを失っても、ここに留まることを思えば、我慢できるはずだった。
岬が労わるように、肩に手を置くまでは。
肩に置かれた優しい手の感触に、我を忘れた。心配そうに伏せられた目に表情に、我慢できなくなった。 「岬、好きだ。お前は他に好きな奴がいると思うが・・・好きなんだ」 どうしても言わずにはいられなかった。俺の言葉に、岬は目を見開いたまま動きを止め、それから口をぎゅっと結んだ。 「あの、若林くん」 岬はややあってから、ためらいがちに口を開いた。いつもよりか細い声は、岬らしくなく頼りなく聞こえた。 「呆れたか?だが、どうしても・・・」 言いかけたところで、岬は肩に手を置いたまま、中腰になっていた体を起こし、立ち上がって俺を見つめた。 「若林くん、誰がそんなことを言ったの?」 顔は笑っているのに、その目は僅かに潤んでいた。声は震えていた。 「だって、お前・・・」 楽しそうに笑う岬の相手が自分であってほしいと思った。あんなに無邪気に笑う岬の側にいたかった。 岬は小さく息を吐くと、静かな声で切り出した。 「ねえ若林くん、翼くんが来ない理由分かる?」 「翼?」 確かに、今日来るようなことを言っていた。岬にもそう話していたらしいが、一向に姿を見せない。 「翼くん、僕が若林くんと二人で話せるように、って言ってくれたんだよ」 翼がそんな気を回すのは、俺の気持ちというより、岬の気持ちを尊重してのことだろう。 「じゃあ、岬・・・」 頷き微笑む岬の頬に赤みが差しているのは、何てきれいなんだろうと見惚れた。俺はすぐに手を伸ばし、岬の手を握る。聞き間違いであっても、解釈違いであっても、もう良かった。今まで耐えていた想いが、胸の中で膨れ上がっていく。 「岬、すまない」 最初から平身低頭で謝るのもおかしいが、歩み寄ろうとしてくれていた岬に失礼なことをしたのは間違いない。 「ううん、良いよ」 「もう離さないからな」 笑顔を向けられて、躊躇いはなくなった。
「それにしても、どうしてそんな誤解してたの?」 隣に腰かけて、くすくす笑う岬に、俺は少しだけ腹を立て、それ以上に嬉しさに舞い上がりそうになる。岬が側にいて、こうやって笑い合えている。 「お前らが仲良いからだろ」 肩を並べて走り、笑い合う翼と岬の間には、誰も入れない。だが、岬は笑うのをやめない。 「翼くんはすぐに気付いてたよ。それで、応援してくれた」 俺の恐れは杞憂に過ぎなかったらしい。慎重というよりは臆病だった時間が惜しくなる。隣を見ると、岬はまだ笑っていた。 「お前じゃなかったら、遠慮なんかしなかった」 もう、遠慮しないからな。笑ったままの形を刻む可愛い口唇を、そっと奪った。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 好き過ぎて、踏み出せない若林くんを書いてみたかったのです。・・・振り回されるというより、うじうじになってしまいましたが。そうじゃないんだ。 あと、イチャイチャするGCって書いたことないな、と思っていたので書いてみました。GC月間に書くべきでした。 迷走しましたが、無事着地しました。多分。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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