※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 「若林くん、今良い?」 部屋に戻って間もなくやって来たのは、翼と岬だった。 「お菓子貰ったから、おすそ分けに来たよ」 俺の返事を待つこともなく、ずかずかと入って来た翼の後に、岬はそっと入って来た。白いシンプルなTシャツは細い肩のラインを浮かび上がらせ、涼しくみせる。その静かさは、夜の月を思わせた。 「そうか。気を使わせて悪かったな」 「大変だったよねえ、岬くん」 「うん、そうだね」 なかなかの量の菓子を持ち込んで、ニコニコ笑い合う二人には、多分悪気などない。むしろ、俺を気遣って励ましに来てくれたことが明らかだった。俺だって、一人ずつ来てくれたら、こんな気持ちにはならずに済んだ。 「せっかく三人揃ったから、お祝いしようよ」 言い出した翼に、岬は気が進まないのか俺を見遣った。 「僕は良いけど・・・若林くんは?」 「ええ~、良いに決まってるよ!岬くんが来てくれて、すごく嬉しいもん!若林くんもそうだよね??」 「翼くん・・・」 そう言って勢いよく抱き着く翼に、岬は困ったような顔で、翼の肩をポンポンと叩いた。 「僕達急に来たから、若林くん困ってるかも。また出直すね」 案じるような表情は優しくて、もう少し見ていたいと思った。 「いや、驚いただけで、迷惑なんてことはないから」 そのまま、翼の頭をポンと叩いた。岬の方には伸ばせない手で。 「良かった!」 満面の笑みで、翼は床のカーペットに座り込んだ。 「あれ、紙コップ忘れて来ちゃった・・・。ちょっと待ってね」 ジュースを開けようとしていた岬はそう言うと、部屋を出て行った。しっかりしている岬でも、そんなことがあるのかと、焦った表情の可愛さに、少し顔がにやける。
ふと気付くと、翼が俺の顔を見ていた。 「岬くん可愛いよね」 心の底から同感だが、同意するのはしゃくに障る。触れることもできない俺を尻目に、翼は当然のように岬の隣にいる。そして、岬もそれを望んでいるに違いない。 「お前達は変わらないな」 つい呆れた口調になる。心にもないことを口にしているのは明らかで、俺は目を逸らしながら菓子の方に手を伸ばした。 「岬くんと俺はコンビだからね」 翼はいつも通り屈託のない笑顔で言った。だが、その笑顔は正視できそうにない。 「若林くんは?」 急に聞かれて、思わず顔を上げた。翼を睨んだ。・・・一瞬、目が合った。 「怖い顔だね。まあ、それで分かるけど」 翼がそう言った時に、部屋の外で足音がした。 「ごめん、紙コップ探していただけなのに、みんな色々くれて・・・」 岬の腕の中に、また菓子が増えていた。わーい、と腕を上げて喜ぶ翼に、背を向けたい気分になる。
翼は良い友達だ。なら岬は?
ふと気付くと、岬がジュースを注いでくれていた。 「若林くん、大丈夫?考え事してるなら・・・」 覗き込む真剣な表情に、息を飲む。いつも通りに振舞いながらも、気を配ってくれていたらしい。岬らしい気の遣い方に、また心を動かされる。どうしても、どうしても、諦められない。それでも、こうして友達としてでも気に掛けてくれる関係も失いたくはない。 「いや、大丈夫だ。今日の練習のこと考えてた。あ、そう言えばタオルありがとうな」 岬のタオルをいつものように首にかけていると、その甘い香りに、つい考えも甘くなる。もしかして、という希望を抱いては、違うと否定する。 笑い合う二人には加われそうにない。まして走る二人には。俺はいつも見ているしかない。 「こちらこそ押しかけてごめんね。・・・若林くんと話せなくて寂しかったんだ」 岬があまり優しく微笑むから、容易く手が届く気がして、俺は慌てて自らを戒める。触れなければ、近づかなければ、それ以上傷つくこともない。 「あれ、翼くん、もう眠いの?」 大欠伸をした翼に、岬が気づいて声をかける。岬の指摘は的確だったようで、ふぁふぁと言いながら、肩にもたれかかろうとする翼を、岬が助け起こした。 「岬、後片付けはしておくから、部屋に連れて帰ってやれ」 見兼ねて言うと、岬は少し逡巡した様子だったが、頷いた。 「じゃあ若林くん、甘えても良いかな。ごめんね。おやすみなさい」 岬は翼を抱えるように立ち去った。振り返り、肩越しに投げてきた眼差しに、鼓動が跳ね上がる。 「ああ、おやすみ」 と応えた筈だが、それすらあやふやになる程、岬の面影が胸に焼き付いて離れない。
ベッドに横になり、明日のことを考えようとしても、浮かんで来るのは岬のことばかりだった。 岬の気持ちが自分にないと分かっていても、好きで、諦められそうになくて。ただ見ているだけで幸せな気持ちになる。 打ち明けて気まずくなるよりは、岬の想いごと見守ろうと思った。
それなら、側にいられるはずだ。
食堂で、俺の向かいに座る翼に合わせて、岬もその隣に座る。 「昨日はごめんね」 頭を下げる岬に、翼が続く。 「気にするな。菓子は片付けてしまってあるから、今晩も来て良いぞ」 「ありがとう」 今度は翼が返事をした。岬がやかんを取りに行った隙に、翼に小声で囁く。 「それより、良いのか?岬まで俺と話してて・・・」 俺はチームで嫌われ者を演じている。元々チームと壁のあった翼はともかく、岬は巻き込むべきではないと思っていた。 「岬くんは分かってるよ。若林くんのことが心配みたい」 お前がそれを言うのか?岬に誰より構われているお前が。何だか気に食わず、翼の頬を引っ張ってやった。 「ひどーい!!」 翼が膨れても、俺の気が晴れる訳ではない。おまけに、翼は戻って来た岬に、俺につねられたと言い付けやがった。 「・・・翼くん、何したの?」 岬はキョトンとして、それからおもむろに言った。 「えー、俺何もしてないよ-!岬くんまでひどいよ!」 「でも、若林くんってそういう悪戯しないと思うけど」 岬はそう思ってくれているだろうが、俺だって昔は石崎と張り合ったこともあるし、翼の挑戦状にバカみたいに腹を立てた。だが、岬の前では頼りがいのある奴でいたいし、そう振る舞って来た。 「それで、若林くんはどうしてそんなことしたの?」 笑顔のまま、岬は尋ねて来た。出来るだけ表情を変えないようにしていたつもりが、顔に出ていたらしい。 「本当、仲良いね」 岬は静かに言うと、湯呑みを並べ、お茶を注ぎ始めた。そっと目を伏せているせいで、まぶたの白さやまつ毛の長さが、目に付いた。
俺のいるゴールは岬の駆けるエリアからは遠い。小さくしか見えない背中を慕うしかない。その隣で跳ねているのは翼だろう。岬と走る時は、翼も高く跳ぶ。それは二人にしかなしえないことで、俺は羨望の眼差しを向けることしかできない。
(つづく)
拍手ありがとうございます。 うちではいつも翼くんが「若林くん、ずるーい」と言っている印象があるので、今回は若林くんが翼くんに八つ当たり、を書いてみました。 仲の良い三人って案外書いていないんだな、と実感しました。
何故か三人組というのが結構好きらしく、別ジャンルでも「主人公たち三人組」を書いている印象があります。 (そして、主人公以外の二人が体格差CPという構図に弱い様子) これ、何属性っていうんでしょう・・・。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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