※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 「おまじない?」 翼くんの言葉に、思わず聞き返した。学校でも女の子達がよくそんな話をしているけど、翼くんから聞くと、違和感がある。 何より、翼くんが本を持っているのが珍しくて聞いた答えとしては、意外過ぎた。 「うん。何か流行ってるんだって。本貸してもらっちゃった」 翼くんがあねご以外の女の子と話しているなんて、珍しいと思ったんだ。道理で、と納得してから、不思議に思った。翼くんはどうして、占いの本なんか借りちゃったのかな? 「翼くん、何かおまじないしたいことあるの?」 「うん。旅行とかに行った人が無事に帰って来るおまじないがあるんだって」 言われて思い出す。翼くんのお父さんは船長さんで、いつも仕事で遠くまで出ているって聞いたことがある。翼くんはそんなそぶりなんか見せないけど、お父さんがいないのは寂しいのかも知れない。 「じゃあ試してみないとね」 できるだけ、明るい声を出した。 「うん!」
そんな話の後、いつも通り校庭にランドセルを置いてサッカーの練習をして。それから、用事を忘れてたと言い出して翼くんが帰った後に、置き忘れた本を見つけた。…翼くん、忘れちゃったみたいだ。
翼くんの家に届けようかとも思ったけど、この時間だと、お母さんに気を遣わせてしまうだろう。下手したら晩ご飯まで出されてしまう。 よし、明日にしよう。 僕はターンを決めると、そのまま家への帰り道を急いだ。
ご飯を食べて、片付けてから宿題をする。翼くんが早く帰ってしまった分、時間が余った。 図書室で本を借りて来たら良かった、なんて考えた時に、ランドセルの横に置いた本に気付いた。 翼くんが借りた本だから、と一度は本を置いたけど、こんな機会じゃないとおまじないの本なんて見ないかも知れない。少しだけ見るつもりで手に取って、開いたページには「気になる人に好きになってもらうおまじない」と書かれていた。
そのタイトルを見た時に思い出したのは、チームのゴールキーパーのことだ。 僕は、小学校のチームの他に南葛SCという地元の選抜チームに参加している。南葛SCの仲間とはたいてい仲良くなった。翼くんや石崎くんはもちろん、井沢くん達ともうまくやっている。 唯一の例外が、キーパーの若林くんだった。修哲の中心だったから、違うチームだった僕たちと急に仲良くするのは難しいのかも知れないけど、ちょっと構えている様子がある。それに、僕に言いたいことがあるのか何か含むような態度なのもあって、ちょっと距離を置いている。…最初に会った時は、あんなに親切だったのに。
ちょっとしたいたずらのつもりだった。好きになってもらうおまじない程度なら、害もなさそうだし、ちょうど良いような気がした。
父さんが帰って来るまで時間はあった。洗面器に水を張り、月を映して折り紙の舟を浮かべる自己満足なおまじないはあっけなく終わり、次の日に本を無事に返した僕は、すぐそのことを忘れた。忘れてしまっていた。
若林くんから告白されたのは、三年後のことだ。
ふとしたきっかけで、若林くんがフランスの隣国、ドイツのハンブルクにいることを知り、会いに行った時だ。 急に会いに行った僕に、若林くんは思ったより喜んでくれた。たくさん話し、日本の話もたくさん聞いた。
小学校の全国大会、終了間際にゴールポストにぶつかった僕を、助け起こしてくれたのは若林くんだった。 「勝ったぞ」 声を弾ませる若林くんに、僕も顔を上げた。自分も足に怪我をしているのに、若林くんは僕をずっと支えてくれていた。大会を通じて、若林くんとはずいぶん仲良くなった。若林くんは自分から声を掛けるタイプではないということも分かったし、翼くんを交えて話す内に、少しずつ苦手意識はなくなった。 強くて優しい人だと、今では分かっている。現に思慮深く話す口調には、思いやりが溢れている。そうじゃなければ、会いにも来ない。最初は苦手だったのに、と思い出した矢先の告白は、まさに青天の霹靂だった。
「若林くん、何言って…」 晴れ渡った空の下の、開放的なベンチで、突然そんなことを言い出した若林くんに焦る。日本語がほとんど通じないこの町で、僕たちが話している内容を分かる人はいないだろうけど…。僕は強く手を握りしめる若林くんを見返した。 「お前が好きなんだ」 熱っぽく繰り返されて、僕は冷たい汗が背中を伝っていくのを感じた。背筋が冷える感触に、冗談だったはずのおまじないまで思い出す。
あの時、僕は若林くんに「好きになってもらう」おまじないをしたんだ。
別に信じてはいないけど、罪悪感がある。 「あの…若林くん、一体いつから?」 恐る恐る声をかけると、若林くんは真剣な目で、見つめていた。 「初めて会った時から好きだった」
最初に会った時、若林くんはボールをぶつけそうになった僕を少しだけたしなめて、それから修哲小まで案内してくれた。 「お前、どこの小学校だ?」 「南葛だよ。今日転校手続きに来たんだ」 「そうか。機会があったら、サッカーしようぜ」 そんなことを話した記憶がある。その出会いは確かに印象的だった。僕が南葛という町を好きになったきっかけの一つでもあった。
「でも、僕若林くんにボールをぶつけそうだったんだよ」 「でもすぐに謝っただろう?それで笑ったら可愛いし…一目惚れだ」 若林くんは少しだけ声を落とした。そのくせ、ちゃっかり僕の手を握っている辺り、どういうことだよ。…でも、何だか嬉しそうにしている若林くんを見ているのは楽しくて、昔あんなに、おまじないを試すほど苦手だったのが嘘みたいだった。…こんな風に会いに来てしまうくらいだから。 本当はきっと気になっていたんだと思う。時々僕のことを見る、静かな視線。それとなく気遣ってくれる様子。本当は優しい人だって最初から知っていた。ただ、もう少し仲良くしたいと思っていた。
若林くんへの返事はじっくり考えるとして、おまじないのことは秘密にしておくことに決めた。「仲良くなれる」じゃなくて「好きになってもらう」を選んだことも。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 若林くんのぶいぶい言わせた小学生時代、を書いたら、岬くんの小学生時代のいたずら、を書きたくなり、書いたまま塩漬けになっていたこの話を思い出したのでした。 今書いている別の話のために、Jrユース編を読み返しています。黄金コンビびいきすぎる若林くんと、キーパーが若林くんの時にゴールを守りすぎな岬くんに改めてやられました。Jrユース編を岬くん視点で書くと、いつも雄々しくなってしまって、収拾がつかなくなるのは、この辺りの印象が原因なのかも知れません。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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