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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
片思い(1)
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

 遠くで微笑む岬を、見る。二重三重の人垣に囲まれている岬は遠くて、俺の手には届かない。


 岬がドイツに来てくれたのは、そう前のことではない。
「雑誌で見たから。会いたくなって」
岬はそう言って、すぐ隣で笑っていた。少し手を伸ばせば、触れることのできる距離に、いた。

 小学生の頃、岬は俺には遠い存在だった。学校も違えば、ポジションの違いもあって、そう親しく話すこともない。俺には同じ学校の連中が、岬の側には翼が常にいた。
 俺は良くも悪しくも、人に好意や敵意やその他諸々の感情を抱かせることが多いらしい。友達になりたいと言われることも、喧嘩を売られることも、多かった。
 岬はそのどちらでもなく、自分から話しかけてくることもほとんどなかった。俺に興味を持たない人間に会ったのは初めてだった。いや、サッカー仲間としての俺には関心があったのだろう、道端での出会い方も一風変わったものだったから、練習中には翼と一緒に寄って来ることもあった。
 そんな関係だった。

 だから、岬が突然会いに来てくれたのには驚いた。
 忘れていることはないと思っていたが、遠いところをわざわざ会いに来てくれる程親しくしていた訳でもない。
「若林くんがドイツにいるって知って・・・会いたくなったんだよ」
理由を問う俺に、微笑む岬の顔は、想像していたよりずっとおとなびていて、綺麗だと思う。
「それは光栄だな」
笑いにごまかしたものの、落ち着かなくなった。思えば、岬に話しかけられることはなかったが、話しかけられても、多分動揺していた。この整った顔に、静かな光を湛えた瞳を見るだけで、じっとしていられなくなる。
「本当だよ?」
息苦しいような、甘いような嵐が胸の中で起きる。

 昔は、この気持ちが何か分からなかった。

「また会えて嬉しいぜ」
差し出した手を握ってくれた岬に、また心が音を立てた。

 岬が日本チームに合流することは聞いていた。その時は躊躇う様子だったのが、翼に会った途端に、あっさりと迷いは解けたらしい。翼の横で岬が笑う風景は、三年前に戻ったかのようだった。チームとは距離を置いているせいで、近寄ることもできない。岬の肩に翼が腕を伸ばし、引き寄せた。何かを耳打ちする翼に、岬は何故か真っ赤になった。・・・そうやって笑い合う様子は、見ているだけで胸が痛くて、俺は背を向ける。

 今は、この気持ちが何かは分かっている。だが、それは報われることなどない。

 あの様子を見れば、岬の心がどこにあるのか明らかだった。

 夜になって、岬の歓迎会が行われた。俺や翼とは随分待遇が違うが、当の翼が音頭を取り、日向や松山も賛成したのだから、問題はない。ただ、俺は迷った。呼ばれもしないのに行くのもおかしいし、チームで反感を買っている以上、身の置き所がない、というのは建前で、チームメイトに囲まれる岬を、正確には翼といる岬を見たくはなかった。参加しないことを三杉に伝え、練習に行こうとした時だった。
「あれ、若林くん?」
声をかけて来たのは、当の岬だった。今まで練習していたらしく、ユニフォーム姿だ。
 白を基調にしたユニフォームは岬によく似合った。フランスの陽光の下で見る岬は初めてで、眩しさに少し目を細める。
「また、よろしくね」
差し出された手を握る。胸に小さな痛みが過ぎって、我ながら情けないと思った。声をかけてくれて、握手しただけのことがこんなに嬉しい。この想いは届かないというのに。
「これから自主トレ?」
「ああ」
「僕も行って良い?」
大きな瞳で見つめられ、微笑みかけられる。この世界にたった二人っきりなら、この手を取ることもできるのに。
「これから歓迎会だろ?行かなくて良いのか?」
食堂の前を通った時、準備が始まっているようだった。
「もうそんな時間だっけ?・・・若林くんは来ないの?」
友達としての関係でいっても、そう親しい訳ではない。岬の髪や手や頬、俺が触れたくても手が届かないところに、他の連中が簡単に触れるのを、俺は遠くで見るしかない。
「自主トレするからな。お前は早く行ってやれよ」
俺が他の連中と反目していることなど、見れば分かっただろう。それを承知で誘ってくるのは、いかにも岬らしい。
 いっそ強い言葉で遠ざけようと思っても、他の奴になら言えることも、この瞳の前では、全く無力だ。こんなに臆病だったのかと、自分で笑えるほどに。俺らしくはない。
「うん、分かった。じゃあ、後でね」
岬は静かに微笑むと、タオルを寄越した。
「使わなかったから、貸してあげる。今日はまだ暑いから、汗かくよ」
受け取ったタオルからは、石鹸の香りがした。キーパーの習性で思わず受け取ってしまったが、これは返した方が良さそうだ。慌てて振り返ると、岬はもう遠ざかっていた。相変わらず華奢な背中を見送りながら、いつもこうだと思う。俺はいつも背中を見ているしかできない。

(つづく)

拍手ありがとうございます。
好き過ぎて、慎重な若林くんを書くつもりが、別物になってしまいました・・・。
体調が微妙な中、「夢十夜」みたいなのを書き始めたら、PC見ながら酔いました。あかんなあ。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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