※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。 招聘された全日本の合宿は、相変わらず賑やかだった。テレビルームでは、ドラマ派がチャンネル争いを制したらしく、何やら騒いでいる声がする。 若林は喧しい横を通り抜けると、ロビーで本を読んでいる岬に声をかけた。 「あれ?」 「時間、そろそろかと思ってな」 夕食後に二人で自主トレをする約束をしていた。ただ読んでいた本が思ったより面白かったこともあり、岬はつい時間を忘れていたのだった。ロビーには他に人がいないのを見計らった上で声をかけた若林だったが、岬が気付いてもいなかったのを知ると、もう少し声をかけずに眺めていても良かったとも思う。自分のいないところで寛いでいる岬の姿など、なかなか見れるものではなかった。 「じゃあ、用意するね」 本に栞紐を挟み込むと、岬は丁寧に本を閉じた。そのまま無造作に机に置き、立ち上がる。青いブックカバーをかけてある上、合宿所に本を持ち込んでいる者は少ない。まず間違えられる恐れはなかった。 「お待たせ」 岬が立ち上がるのを見届けてから歩き出した若林に遅れること数歩、追いついて肩を並べたところで、背後の部屋から歓声が上がる。 「・・一体、何事だ?」 ドラマで盛り上がったと推測はするものの、誰かゴールを決めたかのような歓声に、若林は訝しげに眉を寄せた。 「あれね、今流行りのドラマなんだって。ヒロインと憧れの人が両片想い、らしくて」 誰かに聞いた情報なのだろう、思い出し考えながら岬は答える。 「両片想い?」 聞き慣れない言葉に、若林は更に首を傾げてみせた。 「うん。お互いが片想いだと思っている二人のことなんだって」 これも聞きかじりらしい情報を口にしてから、岬は思う。 再会してからというもの、若林はずっと好きだと投げかけてきた。そして、お前も俺が好きなんだろ?と言って聞かなかった。 「若林くんは片想いなんて言わなかったね」 「岬は最後には拒まないって分かってたからな」 そう言いながら、いつものように肩に手をまわす若林に、岬は肩越しに視線を投げる。 「拒まれたら、やめていた?」
そんな訳はないと若林は思い返す。 好きだ、と若林が言ってから、この距離になるまで、短い期間ではなかった。 友達としての距離は詰められても、それ以上はなかなか縮まらなかった。 好きだ、と叫ぶ胸の中を切り開いて見せられたら、と思うほど、融けない氷の中の心は、なかなか信じてはくれなかった。 だから何回でも繰り返す。心の底から信じてくれるまで、何回も何十回も。 未だに想いの強さは釣り合わない。岬が自分を信じてくれるまでは。それでも、良かった。どうしても、諦められなかったのだから。
「お前を諦められたら、そうしたかもな」 顎に手を伸ばし、顔を傾けさせようとする不埒な手に、岬は小さく笑って、手を重ねた。 「お前は優しいから、望みがないならそう言うだろうと思ってた」 添わせた手もそのままに、肩越しに抱き締められながら、岬は目を閉じた。
そんなこと、ないよ。 心の中で反駁する。 諦められなかったのは、自分の方だと岬は思う。きっと、最初から悟られていた。 好きになったのは自分の方で、若林くんのことを信じられる強さがあれば、良かったのに。 僕の方がずっと好きで、天秤は釣り合ってはいない。そういう意味では、片想いに違いない。
「まあ、俺は諦め悪いからな」 「僕もだよ。知ってるよね?」 天秤は傾いているのか釣り合っているのかどちらにも分からない。お互いに気付かれぬようにため息を落とし、二人は歩き出した。
(終わり)
拍手ありがとうございます。 付け加えるまでもなく、二人は両想いです。傍から見るとむしろ鬱陶しいほどです。
スポンサーサイト
テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
|