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今日のきみとぼく
源岬への愛だけで構成されております。
兄弟
※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。

「おまえが若林か」
ゴールポストの上から嘲笑する声に、若林は声のした方を睨みつけた。
「だれだおまえは」
ゴールバーに腰かけていたのは、不敵な笑みを浮かべる色の黒い少年だった。
「明和FC日向小次郎」
「日向小次郎?」
「勝負だ、若林!!」
「なにィ!?」
聞き返す若林に挑むように飛び降りると、日向小次郎は一陣の風のようにグラウンドを駆け抜け、たちまち来生からボールを奪った。
「キャプテン、これは!?」
動揺の声の中、若林は自分のキャップを被り直す。翼といい、ここのところ、挑戦を受けることが多いが、それも相手の実力を推し量る術ではある。
「かまわん!やつの挑戦をうけてやれ!!」
「さすが天才キーパー若林。話がわかるぜ」
修哲は昨年度全国大会を制したチームである。今年も優勝の最有力候補とされているのは間違いない。この程度の挑戦で動揺している場合ではない、と若林は冷静に判断を下した。

 だが、ボールを奪い返そうとした来生は軽くあしらわれ、他の者達も直線的なドリブルとはいえ、圧倒的な力の差にあっけなく突破されるのを見る内に、若林の中の闘争心が頭をもたげてきた。
「いけ、高杉!」
高杉なら当たり負けすることもない、と判断し、若林は高杉に指示を出した。高杉は体格もさることながら、腕力もある。だが、日向は高く蹴り上げたボールを高杉のみぞおちに当てた。
「このやろう、わざとみぞおちにぶつけやがったな!!」
「ほざけ!おれのサッカーはおまえらのあまちゃんサッカーとちがうんだ!!」
非難の声すら受け付けず、一直線にゴールへ向かおうとした日向だったが、不意に横合いからボールを奪われてしまった。
「小次郎、何してるんだよ」
ボールを奪ったのは、日向と同じように黒いシャツを着た少年だが、こちらは随分小柄で色が白い。声も高く響いて、怒る口調でなければ、女子だと勘違いされただろう。
「岬、おれはこの若林からゴールを奪いに・・・」
「わざわざ手の内見せに来るなんて、ばかみたい」
可愛らしい顔に似合わず、強面の日向を呼び捨てにし、詰る少年の勢いに押されて、誰も何も言えずにいた。その間も岬と呼ばれた少年は、ボールをキープし続けていた。

「わぁったって。ちくしょう!なんでおまえが迎えに来るんだよ」
「監督が行って来いって言うからさ。お母さんも頼んでくるんだもん」
ひとしきり喚きはしたものの、日向があきらめたことを悟ると、岬はボールを軽く蹴り上げ、ゴールにパスした。正確に飛んできたボールを、若林は弾かれたように動いて、受け取る。
 ふてくされて、グラウンドの端で腕を組んでいる日向を置いて、岬はゴールに駆け寄った。
「僕は明和FCの岬太郎。うちの小次郎が迷惑かけたみたいでごめんね」
ここは修哲小のグラウンドで、試合の近いサッカー部の特例として、日曜使用を認められている。違う学校の児童が入っているだけでも問題になりかねない。だが、きちんと謝って来る相手に、若林もそう強く出る気もなく、鷹揚に頷いた。
「いや、こちらはかまわない」
先程の日向程ではないにしろ、岬が相当気の強い性格であるのは間違いない、と若林は思った。偉そうな口をきく日向だが、この岬には全く敵わないらしい。日向の直線的なドリブルも相当だったが、岬はその日向からボールを奪い、しばらく奪い返させなかった。ぴんと背筋を伸ばし、まっすぐに視線を向けてくる岬に、こちらも見たことのないタイプだと若林は思った。
「それより、うちの、ってどういうことだ?」
「僕は小次郎の兄なんだ」
大きな瞳をくるくる動かし、岬は愉快そうに笑った。その笑顔は見たことがない位に印象的で、若林は目を奪われた。

 どうしても駅まで送ると言う若林に、明和の二人が折れる形で、車に同乗している。若林もこの風変わりな“兄弟”に好奇心が抑えきれずに、家の運転手を動員するというわがままを言った自分自身に驚いていた。
 後部座席で中央に座っている“兄”の岬は遠目で見るよりも色が白く、さらさらで癖のない髪の持ち主である。透き通るように清潔感のある、少女のような面差しもあって、とても六年生には見えない。一方“弟”の日向はサッカー少年たちの中でも一際色が黒く、癖の強い髪も真っ黒で、声も低く、大人びた顔のせいで、小学生にすら見えない。そして、何より名字が違っている。名前のつじつまは合っているとしても。
「今日はごめんね。いきなり押しかけた上に送ってもらうことになって」
落ち着いた声で、だがきびきびと話す岬には、確かに“兄”の雰囲気があった。日向は「俺は認めてねえ!」と吠えたが若林自身男兄弟なので、兄弟独特の雰囲気は分かる。そういう意味では、目の前の二人は確かに兄弟であった。
「いや、送りたいと言ったのはこちらだ。ご両親も心配されているだろう」
若林の言葉に、二人が揃って微妙な表情を浮かべたのである。
「あ、気にしないで。僕の父と小次郎のお母さんが再婚して、僕たち兄弟になったんだけど、二人とも家にはいないことが多くて」
岬の説明に、日向は相変わらず腕組みをして、深々と背もたれに埋まっている。おそらく、岬には気を許しているらしいことが見て取れて、若林は微笑ましいと思った。

 元々同級生だった岬と日向だが、明和FCでコンビを組んで以来、岬が転校してきたとは思えない程親しくなっていた。お互い片親ということもあり、交流している内に、まさかの再婚となったのである。その話を打ち明けられ、日向は激怒し、岬も驚きで卒倒しそうになりながらも、何とか持ち直して、日向を説得した。母親の幸せを尊重した日向は、再婚自体は受け入れたもの、父親の名字を捨てることを拒み、そのまま日向を名乗っている。
 岬父子は日向家に引っ越し、岬一郎の仕送りと、太郎の近所付き合い力で生活は少しマシになった。
「小次郎、今日はバイトは?」
「今日は休みとった。それよりお前、こっちまでどうやって来た?」
「ヒッチハイク。ちょうど名古屋まで行くお姉さんがいて」
ワイルド過ぎる兄弟の話を、黙って聞きながら、若林は愉快になり始めていた。恐らくこの二人のチームは全国大会の嵐の目になる。

「送ってくれたからって、恩を売ったとか思うなよ!次は全国大会だからな!!」
音を立ててドアを開け、賑やかに喚きながら、日向は車を降りた。
「小次郎がごめん。せっかく送ってくれたのに。あの、ありがとう。若林・・くん」
したたかではあるが、礼儀正しいらしい岬が頭を下げながら、日向に続く。少し照れ気味に呼ばれたくん付けに、若林は思わず岬の顔を見て、自分が動揺していることに気付いた。恐らく、日向が最初に現れた時よりも、動転している。
「次は全国大会で」
「う・・うん」
急に手を差し出され、岬も驚いて一瞬真顔になる。だが、すぐに合点した顔で、大きな瞳を輝かせて笑った。差し出した手を、ふんわり柔らかい手で遠慮がちに握られる感触に、若林は口元をほころばせると、握手した手を握り返して、岬の愛らしい顔を覗き込んだ。
 と、岬の手がいきなり離れた。
「ちょっと、小次郎、何するの!?」
車の外から左腕を引っ張られて、岬が悲鳴を上げる。若林を睨みつけて牽制しながら、日向は抱き寄せた岬の肩に腕を回す。
「うちの兄弟に何しやがる」
認めていないと吠えたのは何だったのか。華奢な岬の体を抱え、追い立てるような日向の表情に、若林は目を見開いた。
 確かに可愛いと思ったし、関心はあるが、まだ何もしていない。
「おまえ、どうあっても喧嘩を売りたいらしいな」
「望むところだ。全国大会ではボッコボコにしてやる!」
殺伐とした後部座席で、中心にいる岬は、ゆっくりと両方を見渡し、そして静かに笑みを浮かべた。
「小次郎、それは人にお礼を言う態度じゃないよね。君は兄弟でも見本にならないといけない立場なんだよ」
「あと、若林くん。送ってもらったのは感謝してるけど、敵と馴れ合う趣味ないから。勝つのは僕たちだよ」
まず日向を叱り付け、返す刀で若林を一刀両断にして、岬はニッコリと微笑んだ。その笑顔はあくまでも可愛らしく、叱られたはずの二人ですら、和んでしまう。
「じゃあ、またね。若林くん」
柔らかく微笑み、手を振る岬に、若林も笑顔で手を振り返し、そして日向に睨まれた。

 その全国大会で、明和FCが修哲を破って優勝、ドイツに留学することになった若林が岬に文通を申し込み、日向に却下されるという一幕もあった。岬に近付きたければ自分との試合に勝て、という日向の挑戦は三年後、全日本Jr.とハンブルクとの親善試合まで持ち越され、試合に勝った若林は、文通を許してもらうこととなったのだった。

(おわり)

拍手ありがとうございます。
こちらも先日銀月星夢さまとお会いした際に、日向母と岬一郎が再婚したら、岬くんは幸せだったんじゃ、という話になりましたので、書いてみました。日向くんとの日常話ではなく、若林くんを書いている辺りは源岬なので。
 岬くんが南葛に転校しない場合、翼くんとの勝負にこだわる若林くんは南葛SCに参加しないと思います。地区予選で修哲に負けた翼くんはロベルトと愛の逃避行(笑)を果たし、ブラジルへ。全国大会では明和VS修哲のカードで、若島津くんが加わったら、明和の勝ちかな、と。
 岬くんの着ている黒シャツは日向くんのおさがりで、袖がよれているので、岬くんは少々不満だったりとか、日向くんの名字が変わらなくて一番安心している若島津くんとか、他にも色々設定は作ったのですが、自分が楽しいだけなので、この辺りで。でも、また書きたい気もします。

あと、せっかく休みなので、「過去に書いたもの:統合目次」 を作りました。移転前のブログの1記事辺りの容量が小さく、分散していたので、そのまま年毎に分けていたのですが、こちらだといけそうですので。ただ、かなり重いので、PCかスマホ閲覧の方推奨です。2014年までの分です。
で、折角ですので、タイトルを数えてみたら、ここだけで400近かったので、数えるのをやめました。記事数は連載等していたので、1000超えています。「源岬でアホな話を書いた」ギネス記録があれば、たぶん世界一かと。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック


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