※女性向け二次創作です。苦手な方はご注意ください。
お題「恋のはじまり」。お題はTOY様よりお借りしました。 岬と再会して、しばらく経った。岬は時々遊びに来るし、俺も時々会いに行くようになった。
「また来てくれたんだ!」 急に訪れた俺を、岬は笑顔で迎え、それから立ち止まった。一瞬暗い影が過ぎったように見えて、俺は岬の肩を掴んだ。 「岬、どうした?」 問いかけた俺を見上げて、岬は唇だけを笑みの形にした。 「何でもないよ。・・・父さんがスケッチに行くって散らかした後だったから・・・」 確かに岬の家にしては、雑然としている。いつもは少ない荷物を整頓してあるだけに、意外だった。 「それで片付けてたところだったんだ」 もっともらしい理由だが、それだけで笑顔を曇らせたとは思えない。いつものように室内に入り、岬の出してくれた紅茶を飲みながら、部屋を見渡した。 「あれ、この前ここに絵飾ってなかったか?」 趣味は悪くないものの壁紙の古びた感のする壁に、青の目立つ絵が飾られていた。かなり印象的な絵がないだけで、壁はぼんやりして見える。 「片付けたよ・・・父さんがいつ引っ越すか分からないなんて言うから」 いつもの淡々とした口調より、少しだけ感情を滲ませ、岬は早口に答えた。 「そうか・・随分印象が違ったから気になってな」 それも私感ではあるのだが、散らかったものを片付けた割には、部屋自体の荷物が少なくなっているのも気になっていた。これではまるで引っ越す前だと連想し、俺はつい岬の表情をうかがった。岬は俺の疑念に気付いたのか、机の中から絵を引っ張り出して来た。 「確かに殺風景かもね。やっぱりこれは貼っておくよ」 再び飾られた絵は、記憶よりも更に青かった。青というより群青の深い色合いに、日本のユニホームを思い出す。 「これ、岬が描いたんだろ?」 「どうして分かったの!?」 岬ははにかむように口元に手を当てながら、首を傾げた。女性的にも見える恥じらいの仕種も、岬には違和感がない。 「何となく、な。良かったら俺にも描いてくれよ」 「ありがとう。またそのうちにね」 大きな目をぱちぱちさせる岬はどこか嬉しそうだ。落ち着いた壁と岬の顔を見比べながら、俺は紅茶を一口飲んだ。 「それより、また引っ越すのか?」 「・・・うん、多分そうなると思う」 ためらいがちな口調で濁す岬からは、気が進まない様子が見て取れた。しばらくこの町に住み、最長記録を更新中だ、と聞いたばかりだった。 「もし引っ越すことになったら」 言いたいことはたくさんあった。だが、それを吐き出すのが岬の為になるとは思わなかった。ちょっと親しい友人、が言っていいことかどうか、判断にも困る。 「連絡くれよ。ブラジル以外なら会いに行ってやるから」 冗談めかして言った。ブラジル、が効いたのか岬は吹き出した。 「もう、やめてよ。変な所に入ったじゃない・・・」 軽くむせながら、岬が頬を膨らませる。ブラジル、ではないらしいと安心して、まだ睨んでいる岬に笑いかけた。 「それでどこだ?」 「パリ市内だと思うんだけど・・」 岬はあっさりと答え、ブラジルじゃないよ、と笑顔で付け加えた。だから俺も付け加えることにした。 「ちゃんと連絡しろよ?俺が一番だからな」 「はいはい」 仕方なさそうに答える岬は楽しそうで、どうやら引っ越しても連絡はもらえるようだと安堵した。
(おわり)
拍手ありがとうございます。 転。
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テーマ:キャプテン翼 - ジャンル:アニメ・コミック
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